第027話 呪われた少女②
フィアーネとレミアが優雅にチェスに興じているのを、アレンは眺めていた。美少女同士がチェスに興じる姿は絵になっていた。
アレンの仕事が一段落したところに、フィアーネがレミアを伴って遊びに来たのだ。
レミアは一週間程前に実家から戻ってきて、アレンの下で墓地管理の仕事に就くことが正式に決まっていた。仕事上、レミアはアレンの部下という形になった。アレンのレミアの扱いは墓地管理時には部下として扱ったが、それ以外の時間は友人として扱っている。
レミア自身もそのあたりの区別はつけており、仕事中はアレンの部下、それ以外の時間はアレンの友人としての態度であった。
フィアーネもレミアを友人としてみなしているらしく、ことあるごとにレミアの家に遊びに行っていた。
ちなみレミアの家はアレンの屋敷の近くの一軒家である。貸家だが、墓地管理の仕事の給金で十分すぎるほどまかなうことの出来る家賃だった。よく言えば味のある、身もふたもない言い方をすればボロイ家だったので、墓地管理の給金は平均的な労働者の給金の2倍以上である。よほどの贅沢をしなければ生活が苦しくなることはあり得なかった。
「う~レミア~ちょっと待って~」
「だめよ、フィアーネ、まったは3回までと言ったでしょ」
「レミアのけち~」
どうやらフィアーネの方が旗色が悪いらしい。かといって、フィアーネを笑う気にはアレンはならなかった。レミアとチェスに興じたときには、アレンはあっさりと敗れてしまったからだ。フィアーネが弱いのではなくレミアが強すぎたと言えるだろう。
そんな二人のチェスの様子を見ていると、ロムがアレンに来客を告げる。珍しくロムがうろたえているようで、アレンは訝しんだ。
自分の知っているロムは常に柔和な態度を崩すことはないのに、今日のロムはなにかしら恐ろしい者を見たかのようにうろたえているのである。
「どうした、ロム、ずいぶんとうろたえているようだが?」
「申し訳ありません、アレン様、お見苦しい所を……」
そのロムの様子に、フィアーネもレミアも首をかしげた。二人もアレンほどではないが、ロムの為人をそれなりに把握していたがロムの今の挙動はいつものロムでない事がわかった。
「ロム、お前のうろたえ様から来客はよほど怪しい奴なのだな?」
「いえ、アレン様、それが見た目は可憐なお嬢様なのですが、どうしてか彼女を見ると震えが来るのです」
「「「?」」」
ロムの返答に三人が『?』を浮かべる。例えよほど恐ろしい者であってもロムほどの強者が震えるというのはにわかには信じがたかった。
「まぁ、よく分からんが、実際にその客にあってみよう。応接間に通してくれ」
「承知しました」
「それから、フィアーネもレミアも同席してもらえるか?ロムが震えるほどの相手だ。いざとなったら三人で取り押さえたい」
「いいわよ」
「了解」
アレンは自分の実力に自信を持っていたが、過信していなかった。自分よりも強い者は必ず存在するのだから、油断は決してしない。それがアレンの基本原則であった。
ロムが客人を案内しに出て行くと同時に三人も応接間へ向かう。
応接間で客をほぼ一分待つと応接間の扉がノックされる。アレンが来室を促すと、応接間の扉が開いた。
ロムの後ろに立つ少女を見た瞬間に、アレンに恐怖心が巻き起こる。レミアも同様のようだが、フィアーネだけは平然としていた。
案内された少女はロムのいった通り、可憐な美少女であった。赤い髪は後ろでまとめられており、青い瞳は何の感情も映していない。だが、その整った秀麗な顔立ちは神秘的な美しさを印象づけていた。
身につけている者は黒い全身鎧だ。かなりの重さのはずだが、彼女の歩行には重さというものを感じさせない。それほどに可憐な美少女にこの一見無骨な黒い全身鎧は馴染んでいた。
「アインベルク卿、私の名はフィリシア=メルネスといいます」
「ああ、はい、アレンティス=アインベルクです。こちらは私の友人達です」
「フィアーネ=エイス=ジャスベインよ。一応いっとくけど私は人間ではなくトゥルーヴァンパイアよ」
「レミア=ワールタインです」
フィアーネのトゥルーヴァンパイアの件に、フィリシアは驚いたようだ。
「真祖……ひょっとしたら……」
フィリシアがつぶやいていた。そして、意を決したようにアレンに向けて告げる
「アインベルク卿、お願いがあります!!助けて欲しい!!」
フィリシアはそう言うとすごい勢いで頭を下げた。
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