第013話 魔剣ヴェルシス①

「麗らかで、気持ちの良い日だな……」


 その日、アレンはアインベルク邸でのんびりと過ごしていた。アレンには四人の近衛騎士団に所属している弟子達がいるのだが、近衛騎士の勤務のない日にしかアインベルク邸にやってこない。


 今日の夜の見回りまで、アレンはのんびりと過ごすことにした。


 ところが、この麗らかで気持ちの良い日をぶちこわす出来事が起こる。


 バン!!


 自室のドアが破壊されるかのように荒々しく開け放たれたのだ。


「私よ!!」


 そう宣言し、アレンの自室に襲来したのは、トゥルーヴァンパイアのフィアーネ=エイス=ジャスベインであった。

 相変わらず黙って立ってれば美少女である。光沢を持つ銀髪にルビーの輝きを持つ神秘的な瞳、整った顔、抜群のプロポーションと容姿に文句の付け所のないのだが、人の話を全く聞かない所と勢い余って物を破壊する所と残念な思考を持つ所いう欠点が、容姿のプラス点を時にはゼロどころかマイナスにしている。


「お前ね……一応聞いておきたいけど、行儀悪いとかいわれたことない?」

「昔はお父様達にいわれてたけど、最近は言われなくなったわ。マナーを完璧に身につけたと言う事ね」

「家族がサジを投げただけだろ」

「違うわよ、私のマナーが完璧になったのよ」

「じゃあ、その完璧なマナーを常に発揮できるようにしてくれないか」

「してるじゃない?」


 心底不思議そうにフィアーネは答える。


(いい加減こいつを外に出すのは、ジャスベイン家にとってマイナスにならないか?もうちょっと、フィアーネの家族は頑張るべきではないのだろうか……)


 フィアーネの家族に心の中で文句を言う。フィアーネの家族に会ったことはあるのだが、さすがはフィアーネの家族と言うことでなかなかぶっとんだ方達であった。


「で?お前何しに来たの?前に昼間来いと言ったら、イメージを守るために夜に来るとか行ってなかった?」

「そうなのよ、確かに夜に登場するのがヴァンパイアのあるべき姿なんだけど、よく考えたら、別にヴァンパイアと人間の姿形に違いはないんだから、イメージを崩すこともないと思ったわけ」

「なるほどね……まぁ言いたいことはあるけど、後にするわ。で何しに来たの?」

「これよ!!」


 フィアーネが空間を右手に突っ込むと、一本の剣を取り出した。フィアーネの空間魔術である。フィアーネの空間魔術は、ジャスベイン家の倉庫につながっており、そこに入っている物ならいつでも取り出すことが可能なのだ。


 フィアーネは取り出した剣を鞘から抜き放ち、アレンに見せる。その剣は1メートルを超える長剣で剣の中心に直径2センチほどの穴が6つ等間隔に空いている。刀身の色は黒であった。その黒も黒曜石のような輝くような黒ではなく、血が変色したどす黒い感じの黒である。はっきり言って、不気味な剣だ。


「なんか、不気味だな」

「まぁね、これって魔剣だもん」

「魔剣か……また縁起でもないものを……」

「まぁ、そう言わないでよ、これは『魔剣ヴェルシス』よ、アレンも聞いたことあるんじゃない?」

「魔剣ヴェルシスってあの魔剣ヴェルシスか?」

「そう、あの魔剣ヴェルシスよ」


 魔剣ヴェルシスは、斬った者の生命力を吸い取り、己のものにする力を持つ魔剣である。当然ながら副作用がありこの魔剣の使用者は、精神に異常をきたし、血を求め虐殺を行ってしまう例が多々あった。この国に生きているものなら一度は耳にしたことがある魔剣である。


「そんな縁起の悪いものを持ってくるなよ」

「まぁそう言わないでよ、この剣ずっと昔からうちの倉庫で眠ってたんだけど。お父様に頼んで譲ってもらったの」

「おいおい、お前が魔剣をなんで欲しがるんだ?お前、剣術は性に合わないとか言ってたろ」

「まぁ、私も剣術は嗜み程度なんだけど、試してみたいことがあるのよ」

「試してみたいこと?」

「うん、この魔剣ってさ斬った者の生命力を、自分のものにするっていう魔剣でしょ。アンデッドを斬ってみたらどうなるか試してみたいのよ」

「ほう……」

「常識に考えて、アンデッドを斬ったところで生命力が無い以上、何の効果も無いと思うんだけど、一度試してみたいのよ」

「なるほど、確かに常識的に考えれば意味がないだろうけど、アンデッドだって擬似的な生命なんだから、吸い取れるかもしれないな」

「でしょ!そういうわけで実験につきあって欲しいの」

「よし、面白そうだ。今夜さっそく実験してみよう」

「ありがとう。よし今夜が楽しみね」


 アレンの賛同が嬉しかったのだろう。フィアーネの顔がほころぶ。


(うん、相変わらず見惚れる笑顔だな。あとはもの壊さなきゃいいんだけどな)


 

 後にアレンは、この実験を軽く考えていたことを後悔することになる。

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