第014話 魔剣ヴェルシス②
夜になり、日課の墓地の見回りに行く。
フィアーネも機嫌良さそうにアレンの隣を歩いている。ロムがフィアーネに食事をすすめ、一緒に食事をとったのだが、キャサリンの食事をいたく気に入り、食事後も機嫌が良いわけだ。
墓地前の門を開け、いよいよ墓地に入る段階になって、アレンはフィアーネに注意する。
「フィアーネ、俺の話をまずよく聞いてくれ」
「愛の告白ね♪もちろん受け入れるわ♪子どもは何人欲しい♪」
トリップしかけたフィアーネの目を覚まさせるために、デコピンを放つ。ちなみにベチィ!!という音が鳴り響いたところから容赦しなかったみたいだ。
「痛いわ!!私はか弱い女の子なのよ!!」
「すまない、あんまりムカついたもんだから……つい、女の子にやるレベルじゃなかったな。ああ、それからか弱くはねーぞ」
「どういう愛情表現よ、アレンたら好きな子は虐めたくなる小さな子どもみたいね」
「もう一発いっとくか……」
「ゴメン、本当に痛かったからで何?」
「ああ、お前が戦うといつも墓地の施設が壊れるんだ。だから施設を壊さないように戦ってくれ」
「……大丈夫よ」
「なんだ?その微妙な間は?それからこっち向け!!俺の目を見て大丈夫と言え!!」
「ダイジョウブデスヨ」
「なんだ、その棒読みは!!いいか、とにかく施設を壊すなよ!!」
「わかったわ。壊さないよう頑張るわよ」
(前回の厳しすぎる教師達の宿題でもあるからな。フィアーネの戦いには最新の注意をはらわないと……)
いささか、不安があるが、アレンとフィアーネは墓地の見回りを始める。
見回りを始めて、しばらくするとスケルトンソードマン、スケルトンが2体ずついた。あたりをキョロキョロと見回しており、どうやら生者を探しているようだ。
「フィアーネいたぞ」
「うん、アレン、さっそく実験開始よ」
「ああ」
アレンとフィアーネは4体のアンデッドのところに歩き出す。前回のようにダッシュする必要は無い。なにしろ今回はフィアーネの実験とアレン自身がフィアーネへ指示するための練習の場なのだ。
アレンとフィアーネはそれぞれ剣を抜きはなつ。アレンはいつもの剣であり、フィアーネは魔剣ヴェルシスだ。
アンデッド達四体は、悠然と歩いてくるアレン達と対照的にガチャガチャと駆けてくる。
フィアーネがまず動く、間合いを一瞬で詰める。その技量をアレンは賞賛する。いつもの正拳突きなどなら一撃でアンデッドを粉砕し(核もまとめて粉砕する)、背後10~15メートルの直線上を拳圧の余波で破壊するのだが、今回は剣である。嗜む程度という本人の申告通りスケルトンの背後のわずか5メートルぐらいの範囲しか剣閃の影響はなかった。
剣を振るわれたスケルトンは体ごと核を切断されて塵に帰った。しっくりこないような表情を浮かべて、フィアーネは残りの三体のアンデッドを切り伏せる。スケルトンソードマンは魔剣ヴェルシスを防ごうとしたが、スケルトンソードマンの剣は何ら勢いを殺すことは出来ずにフィアーネに真っ二つにされる。
フィアーネの様子に「あれ?」という表情が浮かんだので、アレンは、フィアーネに尋ねた。
「どうした、フィアーネ?何か違和感があるのか?」
「う~ん、違和感があるというか、ないというか……」
フィアーネにしては珍しい反応だった。フィアーネは質問には、はっきりと答えるタイプだ。ある、ない、分からないというように断言する事がほとんどなので、今回のフィアーネの返答は珍しかったのだ。
「珍しいな、フィアーネにしては煮え切らない返答だな」
「まぁね。なんか違和感があるのよね。何かが入ってくるような感覚もあるんだけどね」
「それって、危ないんじゃないのか?」
「ひょっとしたら、瘴気を吸収しているのかもしれないけど、例えて言えば、呼吸をすると空気が自分の中に入ってくるじゃない。でも、それで苦しくもならないし気持ちよくもならないでしょう。そんな感覚なのよ」
フィアーネは自分の感じている感覚を説明しようとするが、うまく説明できないようだ。
「とりあえず、他のアンデッドを斃してみるか?実験を進めてみるぞ」
「うん、まぁ気分が悪くなるというわけじゃないしね」
見回りを続けることにした二人の前に今度はレイスが現れるが、あっさりとフィアーネに核を切断され消滅する。
「こんどは何も感じなかったわ」
「吸収した瘴気の量が少なすぎたのかもな」
さらに、見回りを続けると、今度は大物のアンデッドが表れた。まぁ大物と言っても、アレンとフィアーネは何度も斃してきたアンデッドだ。
そのアンデッドの名前はリッチ、強力な魔法を使う、死の魔法使いだ。集まった瘴気に生前魔法の素養のあった者の負の感情が混ざり合って生まれた化け物だ。
リッチに出会った多くの者は、逃走を前提に作戦を考え決行する。それでも逃げ切れる可能性は3割を超えない。最も合いたくないと言われるアンデッドの一つだ。
「フィアーネ、今度はリッチの魔法を剣で受けてみたらどうだ?」
「どういうこと?」
「うん、その剣は生命力を吸収するわけだろ、生命力をエネルギーと捉えると魔法もエネルギーだろ?だったら、吸収するかなと思ったわけだ」
「そう捉えれば、確かにあり得る話だけど、この魔剣で魔法を受けても吸収はされないのよ」
「試したの?」
「私が試したわけじゃないけどね。魔剣の持ち主が魔法を受けた時に防ぎきれずに死んじゃったって例があるのよ」
「そうか、防ぎきれずにということは、魔法を吸収しないか、しきれないかという事だな、でも、リッチ如きの使う魔法なら吸収しきれるんじゃないのか?」
「それが、その魔法を放ったのはリッチなのよ」
「なんだ、じゃあ実験済みというわけだな」
どこまでも危機感のないアレンとフィアーネの会話である。しかし、さすがにリッチが詠唱を始めたときには、そちらに注意を払う。
リッチの魔法が炸裂する。無数の火球がアレンとフィアーネに向け放たれる。アレンもフィアーネも危なげなく火球を躱す。続けてリッチはスケルトンを召喚する。その数は8体だ。
アレンもフィアーネもリッチに向けて歩き出した。スケルトンは二人に殺到する。フィアーネが魔剣を振るう。一振り事にスケルトンは核を切り裂かれ崩れ去る。
【人間にしてはやるではないか!!】
リッチは、嘲るように声を出した。はっきり言って不快だ。アレンとフィアーネの不快そうな表情をリッチは恐怖のためにゆがんだ表情と捉えたのかもしれない。嘲るような笑い声が響く。
「フィアーネ……実験があるのはわかってるけど、こいつぶっ飛ばしていいかい?」
「まって、アレン、気持ちは分かるけどスケルトンやグールとかよりも瘴気が多いんだから、実験材料としては惜しいわ」
「じゃあ、早く始末してくれ……こいつの声を聞いてると正直、不愉快なんだが」
「そうね、さっさと実験しちゃいましょう」
リッチは二人の会話を聞いてて、憤怒の声を上げる。人間如きがなぜ、このリッチである自分を恐れないのかという怒りであった。
【人間如きが、図に……】
リッチは憤怒の声を最後まで発することが出来なかった。フィアーネが魔剣ヴェルシスを投擲し、リッチの顔面に突き刺さったのだ。リッチは魔法で障壁を張っていたようだが、すさまじい威力で投擲された魔剣ヴェルシスを防ぐことは出来なかった。しかも、リッチの顔面に剣が刺さった一瞬後にフィアーネが柄をを掴むと力任せに振り下ろした。胸部にあった核ごと骨だけの体を分断する。リッチは自分に何が起こったかを理解することなく消滅する。
「フィアーネ、どうだ?なんか感じたか?」
「う~ん、なんか微妙なのよね。あるような、ないような」
フィアーネの返答も先ほどと一緒で煮え切らない。
「そうだ、フィアーネ今度は俺がやってみるよ」
「アレンが?」
「ひょっとしたら、吸血鬼だから効果が感じられないのかもしれない。人間だったら効果が感じられるかもしれないだろ」
「そうね、その可能性はあるわね。でも、この魔剣って所有者が狂う事があるんでしょ。一応、アレンは人間だし大丈夫かしら」
「一応って、俺はずっと人間なんだがな。まぁ、それはさておき、2~3体アンデットを狩るぐらいだから問題ないんじゃないか」
「そうね、狂うぐらいの時間持つわけじゃないし、試してみましょう」
フィアーネからアレンに魔剣ヴェルシスが手渡される。アレンが魔剣ヴェルシスを握った瞬間、声が聞こえた。耳を通してではない、脳内に直接響いたのだ。
【ふははは!!我は魔剣ヴェルシス!!貴様の体もらい受ける!!】
この声を聞いたとき、アレンは自らの体の自由を奪われた。
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