第030話 呪われた少女⑤

「というわけでお兄様、ヘシオスのあるダンジョンの場所を教えてください!!」


 フィアーネがジャスベイン家にあるジュスティスの執務室の扉を開け放ち、開口一番ジュスティスに言い放つ。

 事情の分からないジュスティスにしてみれば『この妹は何言ってるんだ?』といった感じだろう。


「……フィアーネ、何がというわけなんだ?」


 フィアーネの兄ジュスティス=ルアフ=ジャスベインは呻くように言葉を紡ぎ出す。秀麗な顔に苦渋の表情が浮かぶ、アレンはフィアーネの暴挙をフィアーネの後ろでやや呆然と眺めている。


「お兄様、説明が面倒なので省略したまでですわ。それなのに理解していただけないなんて……」


 フィアーネの声には、ジュスティスの要領の悪さを責めるかのような響きがある。本来なら怒り出しても何ら不思議ではないのだが、ジュスティスは寛大なのか、諦めているのか分からない。まぁおそらく小さくため息をついたところから諦めたとみた方が良いだろう。


「フィアーネ……すみません。ジュスティスさん、実はこちらのフィリシアの呪いを解くのにヘシオスという魔石がどうしても必要で、ジュスティスさんがヘシオスを持っているというので、譲っていただければと思いまして、こうしてやってきた次第です」

「う~む、まぁアレン君の頼みだから、構わないと言いたいところだが、タダではやれんな」


 ジュスティスは、重々しく言う。タダではやれないという言葉に、反応したのはフィリシアだ。


「もちろん、貴重な魔石でしょうから、タダとはいいません。それ相応の額を支払います」


 懇願するフィリシアの言葉に対するジュスティスの返答はそっけない。


「残念だが、お金でヘシオスを渡すつもりはない。君たちには対価として払ってもらうものがある」

「そ、それは、まさか体ですか?」


 フィリシアの言葉に緊張が走る。フィリシアとてその要望は想定していたが、いざそうなると平静ではいられない。

 ジュスティスはニヤリと笑う。


「その通りだ。当然だが、君一人の体ではヘシオスの価値には及ばない。そこでだ、フィアーネ、アレン君、ともう一人の君も体を差し出してもらおうか」


 ジュスティスの提案に、アレンとレミアも息をのむ。自分たちだけなら、まだしも体の提供に自分の妹までとは、このジュスティスという秀麗なトゥルーヴァンパイアの提案に、アレンが抗議の声を上げようとした時に、フィアーネが先に返答してしまった。


「はぁ~お兄様、面倒だけどそれで良いわ」


 フィアーネの返答を聞いて、アレンは耳を疑った。


「待て、フィアーネ、お前、自分が何を言っているのか分かっているのか?」


 ついアレンは声を上げてしまう。自分の兄に体を差し出す?体を差し出すという意味を性的な意味合いでとろうが、マッドサイエンティスト的な意味合いでとろうが、そんな事が許されて良いわけが無かった。


「ジュスティスさん、体を差し出すのは俺だけでは駄目ですか?何も実の妹のフィアーネに体を差し出せとは、いくら何でも、それにレミアとフィリシアも勘弁していただけませんか」

「アレン君、君が妹やそちらの少女達をかばうような男である事は嬉しいが、体を差し出してもらうのは君たち4人全員というのが私の条件だ」


 ジュスティスの言葉だけでなく、声の調子、醸し出す雰囲気などから、交渉は無理だと悟る。それを他のメンバーも悟る。


「アレン……お兄様は絶対にこの条件を曲げない。この条件が呑めなければ絶対に教えないわ」



 二人の言葉に、アレンもジュスティスの体を差し出すという内容を考えてみる。

 フィアーネは、『やる』と言った。そこから性的な事はまずないという事が分かる。そして、『面倒だけど』という言葉から、命を無理矢理奪うという類のものでは無いことも分かった。

 では一体、どんな面倒くさい事をさせられるのだろうか?


 そこが分からない。


 また、ジュスティスの妹を大事にしてくれているのは『嬉しい』という言葉から、命に関わるような危険は無いと思われる。


 結局の所、妹に甘い常識人のジュスティスの要望が鬼畜な事はないと思い至り、アレンは条件をのもうと口を開きかける。だが、先に開いたのはフィアーネだった。


「で、お兄様、今回はチームとして?それとも個人?」

「もちろん、個人だ」

「ちなみに何枚?」

「一人あたり5枚でいいよ。破格だろ?」

「5枚って結構な量よね」


 美麗な兄妹が意味不明な問答をしている。置いてけぼりをくらったアレン達は頭の中で状況を整理している。


(何枚?、結構な量?)


「確かに破格と言えば破格だけど、あれって本当に面倒なのよ」

「ふふふ……まさかお前から話を持ってきて、しかも、アレン君だけじゃなく他に二人も連れてきてくれるなんてな」

「あの~」


 レミアが二人の話に割って入る。


「お二人は、何お話をしているんです?」

「「何って」」


 レミアのおずおずとした問いに、二人のトゥルーヴァンパイアが声を揃えていう。


「「ダンジョンの感想文よ」だよ」

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