第033話 呪われた少女⑧

 アンデッドとの戦闘(見方によっては虐殺)を終え、4人はあたりを見渡す。


 部屋の真っ正面と右側に扉がある。まずは真っ正面の扉を開けることにする。



 真っ直ぐに通路を進むと、100メートルほど進んで行き止まりになったため、もう一つの扉を開ける。こちらは30メートル程進むとまた扉があった。


 扉を開けるとそこには宝箱が数十個置かれている。部屋の壁には棚があり、そこにも宝箱が置かれている。どうやら宝物庫のようだった。


「フィアーネ、お前はヘシオスを見たことがあるか?」

「うん、あるわよ。なかなかの魔力を放ってるから、アレンも見れば分かるわよ」

「そうか、まぁとりあえずここにある宝物の中身を確認しよう、ひょっとしたらヘシオスがあるかもしれないからな」

「う~ん……ない気がするけど一応探そうか」


 フィアーネのつぶやきは気になったが、一応念のためということで探しはじめる。


「手分けして探そう」

「うん」

「はい」

「わかりました」


 探し始めるが、宝箱に入っていたのは金貨、銀貨、宝石などだ。目指すのはヘシオスだけなので、それらの宝物には一切手を触れなかった。


 フィアーネにしてみれば兄のものをかすめとるほど落ちぶれていないという感情から、アレン、レミア、フィリシアにしてみればジャスベイン家の財物をかすめ取るようで、後味が悪そうなのでやめておいたのだ。

 ジュスティス自身はダンジョンで見つけた物は気にせず持って行って構わないといったが、後味が悪いのはどうしても避けられなかったのである。


 すべての宝箱を調べ終わったが、ヘシオスが見つからない。どうやらこの宝物庫にはヘシオスはないようだった。


「ん~見つからないな。なかなかの魔力を放つ魔石も感じられない……」

「確かに、この部屋には魔力を放つものもないようね」

「とりあえず出ましょうか」


 フィリシアの問いに三人は頷き、宝物庫を後にする。


 宝物庫を出たところで、レミアがアンデッドとの戦闘になった部屋に空間転移を行う。ぼやっと視界が歪み、次の瞬間には魔法陣のあった部屋に四人は戻った。


「さて……」


 アレンがさも困った風に言葉を発する。


「とりあえず行けるところは、まず探索は終わったわけだど……」

「行き詰まったわね……」

「そうね……」

「隠し扉かなんかあるんじゃないですか?」


(まぁ確かに隠し扉とかあるんだろうな……でもどこだろう)


「フィアーネ、お前ってさ何回かジュスティスさんのダンジョンを攻略したことあるんだろ?」

「あるわよ」

「お兄さんってどんな隠し扉を作る?なんか癖みたいなのないか?」

「う~ん……結構、お兄様の罠とか仕掛けとか単体でやるというよりも組み合わせるのが好きね。癖と言えばそれが癖かな」

「なるほど、レミア、お前はダンジョン攻略の経験でありそうな隠し扉の位置は?」

「ゴメンね。ダンジョンを攻略したことあるのは二つしか無いのよ。私の経験はあてにならないわ」

「そっか……フィリシアは?」

「私はダンジョン攻略の経験がないので……」

「う~ん……となると、みんなで考えて行くしかないな」

「そうね」


 結局ダンジョン攻略の経験がほとんどない四人では、意見を出し合って進むしかないのだ。


「とりあえず、状況を整理しよう」

「うん」

「そうね」

「はい」


 アレンの声に三人が応える。すっかり会議が始まってしまった。


「まずは、とりあえず行けるところは全部行った。一応宝物庫らしきものは見つけたが、ヘシオスは無かった。ここまではいいか?」

「「「うん」」」

「で、ジュスティスさんの仕掛けの癖は単体よりも組み合わせが多い」

「「「うん」」」

「ジュスティスさんは、ダンジョンの難易度をもっと上げたい」

「お兄様の性格って、今関係あるの?」


 そこで、フィアーネのつっこみが入る。もっともな意見だが、ダンジョン攻略の素人しかこの場にいないのだから、考えるネタは多ければ多いほど良い。


「ああ、あると思う。戦いだってパワー、スピード、技に注目しがちだけど、色、重さ、臭い、話術とかも重要な要素だろ」

「確かにね、パワー、スピードだけじゃないもんね」

「そういうこと。考えるネタは多ければ多いほどいいよ」

「それもそうね」


 フィアーネが納得したので、会議を進める。


「ジュスティスさんにとって、ダンジョン攻略の条件は何だと思う?」

「う~ん、やっぱり一番奥にある宝物を得ることじゃないの?」

「……だよな。レミアの言うとおり、ジュスティスさんにとってダンジョンを攻略されるというのは、そういうことだよ」

「今回のダンジョンの攻略はヘシオスを手に入れる事よね?」

「ああ、レミアの言うとおりダンジョン攻略はヘシオスを手に入れることだ。だが、このダンジョンの本当のお宝はあくまで『ヘシオス』だということを俺たちは知っているが、他の冒険者は知らないよな」

「確かにね、さっきの宝物庫にあった大量の宝箱を見つけたら、ほとんどの冒険者はそこで帰るわね。その前のこの部屋での戦闘は普通乗り越えられないと思うし」


 ここで、フィリシアが声を発する。


「それでは、宝物庫の宝物を持って行くこと自体が罠と言えませんか?」


 フィリシアの言葉にレミアが反応する。


「そうね。普通ならあの宝物を見て、これで終わりと思って帰るわね。あと、ヘシオスがある事を知っていても、あの宝物を無視するとは思えないわね」


 フィアーネもさらに同調する。


「もしヘシオスへの道を開くための条件があの宝物を見つけて、なおかつ手をつけないというのも可能性としてはあるわね」


(となると、向かうべきはあそこだな……)


「みんな、とりあえず隠し通路のありそうなところが出てきたから行ってみようか」


 アレンの提案に三人は頷く事で同意した。

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