第032話 呪われた少女⑦
ダンジョンの通路は幅3メートル、高さ3メートルほどの広さであり、舗装されている。どうやら舗装の方はジュスティスが私費を投じて行ったらしい。
また、等間隔に発光する石が設置されており松明などの明かりを自分で持つ必要はないようだ。
金と実行力のある人物が趣味に入れ込むとこうなるのだという証拠だった。
レミア、アレン、フィリシア、フィアーネの順番で進むことになった。レミアが先頭なのは、冒険者でダンジョン攻略の経験があることが理由だ。
レミアは駆け出しの冒険者なので、階級は『ブロンズ』との事だった。
そんな、駆け出しの冒険者であるレミアはダンジョンに入ってすぐ、入り口付近に空間転移の術式を施し始めた。このダンジョンは外部との境目に空間転移を阻害する結界が張られており、ダイレクトに外に空間転移で脱出することは出来ないし、入ることも出来ないようになっていた。無駄に手が込んでいる。
そのため、もしもの時のために、入り口付近に空間転移の拠点を設けることにしたのだ。
「これで良し、行こうか」
レミアが、拠点設置を終え、三人に先に進むことを提案する。まったく断る理由もないので、進み始める。
通路は一直線であった。もともと廃坑を利用したダンジョンだったので、入り口付近から入り組んでいるということはなさそうだ。
しばらく進むと、道が二つに分かれている。そのまま真っ直ぐの道と右に進む道の二択だ。
「さて、どっちに行く?」
レミアは振り返り、三人に聞いた。
「う~ん、どっちかが正しくて、どっちかが間違っているんだろ」
「そうね、どっちかが正解」
「フィアーネ、お兄さんの性格からどっちが正解ぽいか分からない?」
「う~ん、さすがに分からないわ。お兄様ったら趣味になったら人が変わるし、いつも通りの感覚で作ったのかも分からないし」
「それはそうね。さすがに無茶な事聞いたわね」
会話をしていくが結論なんて出るわけないのだ。答えを知っているわけではないので、結局は虱潰しにいくしかないのだ。
「とりあえずさ、右から行こうか」
アレンの提案に三人も頷く。彼女たちも地道に行くしかないということを十分に理解していた。
アレン達は右の道から調べることにしたが、その前にレミアが分岐点に空間転移の拠点を作る事にした。もし間違っていた場合には、空間転移ですぐに戻ることが出来るという状況にしておくわけだ。
右の道に入り50メートルほど進むと扉があった。
扉には鍵がかかっていたため、レミアがピッキングで鍵を開けた。しかし、鍵は開いたはずなのに扉が開かない。どうやら魔術によって扉が封印されているらしい。
「フィアーネ、この扉の封印を解けるか?」
「う~ん術式がわかんないから時間がかかるわね。レミアは?」
「私は、封印解除は苦手なの、フィリシアは?」
「すみません、この術式はものすごく複雑で私には無理ですね」
「じゃあ、アレンがんばってね」
フィアーネがさも当然のようにアレンに丸投げする。アレン自身、面倒くさそうな術式だったので、解除は別の人にやってもらおうと思ったのだが、結局回り回って、アレンが解除することになった。
アレンは、短くため息をつくと封印解除に取りかかることにした。
(うわぁ……この術式、めちゃくちゃ面倒くさいやつじゃないか……え~と、この術式をまず解除して)
「アレン、まだ~」
フィアーネが催促する。
「うっさい、気が散るだろ」
「もうアレンたら、相変わらずのツンデレさんね♪」
「何度も言ってるだろ、お前に対してデレはねぇよ」
フィアーネのツンデレ認定にごっそりと精神力を削られてしまう。フィアーネの会話という障害を乗り越えて、アレンは封印の術式を解いた。なんだかんだ言って10分以上かかってしまった。
封印を解除した扉を開ける。扉の先に合ったのはただの壁だった。
「「「「……」」」」
四人とも無言だった。
「おい……フィアーネ……」
「何?アレン……言いたいことは予想つくけど……」
「フィアーネ……いくら何でも……」
「あの人……結構腹黒いのかしら……」
無言から、この場にいない秀麗なトゥルーヴァンパイアへの文句が四人の口から上がる
「何?何なの、あの人!!こんな面倒くさい術式解かせて、扉の向こうはただの壁?ありえねーだろ!!」
「お兄様!!性格悪いにも程があるわよ!!」
「こんな意地の悪い罠って滅多にないわよ!!」
「顔の良い方って腹黒なのかしら……」
一頻り、この場にいないジュスティスに文句を言い、レミアの転移魔法で先ほどの分岐点に戻った。
分岐点を今度は真っ直ぐ進む、今度はT字路にさしかかる。またもや、レミアが転移魔法の拠点を作る。レミアが設置し終えると、右から探索する。
40メートルぐらい進んでいくと行き止まりだった。そのため引き返し分岐点を今度は左に進む。
100メートルほど進むと今度は扉があった。今度は鍵も魔術による封印もされておらず四人は扉を開け、先に進んだ。
アレン達四人が扉の先に進むと、そこは20メートル四方の正方形の部屋だった。部屋の中心に魔法陣が描かれている。
「アレン……あの魔法陣は召喚術よ」
レミアの声に緊張が走る。
何しろ、召喚術なら、何が召喚されるかこちらからはまったく分からないのだ。手に負えないレベルの召喚だと困るのである。
その時魔法陣が光り出した。
魔法陣から魔物が現れる。現れた魔物はアンデット系ばかりだ。スケルトン、デスナイト、リッチが召喚されたようだ。正直、アレンにしてみればなんてことはないアンデットだが、問題は数だ。
後から後からアンデットが召喚されてくる。
どうやら、この罠は数に物を言わせるタイプの罠らしい。
「リッチ……デスナイト……」
フィリシアが緊張の声を上げる。だが恐怖はないようだ。油断できない相手という認識なのだろう。
対して、アレン、フィアーネ、レミアは面倒くさそうである。正直、この程度のアンデットはいつも倒している類のアンデットだ。恐怖、緊張をいちいちするほどの相手ではない。
数が多いので、面倒くさいという意識が先立ってしまうのは、経験の差であろう。
「とりあえず、片付けるか」
「そうね、まずは片付けましょう」
「数が多いから面倒くさいわね・・・」
「え?みなさん……なんでそんなに余裕なの?」
四人はそれぞれ戦闘態勢を整える。アレン、フィアーネ、レミアがほぼ同時にアンデッドに攻撃を仕掛ける。数瞬遅れてフィリシアも戦闘に参加する。
アレンのふるう魔剣ヴェルシスがスケルトンを頭から両断する。フィリシアの正拳突きがまともにスケルトンの胸部に入り、骨と共に核を打ち砕く。レミアの双剣が振るわれるたび切り落とされたスケルトンの骨が飛び散る。
その様子にフィリシアは驚愕する。三人が強いのだろうとは思っていたが、これほどとは思わなかったのだ。三人は草を刈るようにという表現そのままにアンデッドを斃していく。
やや呆然と三人の戦いぶりをみていると、アレンがデスナイトに斬りかかる。
デスナイトは、上位のアンデットであり、高い防御力、再生能力で恐れられているアンデッドだ。
アレンはそれを一刀のもとに斬り捨てる。デスナイトの肩口から入ったアレンの剣は胸部に達し核を切り裂いた。デスナイトは苦悶の表情を浮かべ黒い塵となって消え去る。
(やるな……デスナイトを一太刀で……)
フィリシアはアレンの横のフィアーネの戦いにめを移す。フィアーネは黒いゴスロリ風のドレスを着ているがその戦闘は野性的すぎた。拳と蹴りを駆使してアンデッド達を次々と屠っていく。
特に蹴りを振るうときは、スカートが舞い上がり、下着が見えそうになるが、フィアーネはギリギリのところでスカートを押さえ見えないようにしている。
アンデッドに性欲などはないはずだが、もし性欲があったとしたら天国と数瞬後の地獄を味わっていたことだろう。
(あんな深窓の令嬢という感じなのに、戦いは荒々しいのね)
レミアの戦いにフィリシアは目を移した。フィリシアは一瞬で間合いに潜り込みアンデッド達の胸に剣を突き立てていく。剣を突き立てていく間にもう一方の剣で警戒しているあたり高い戦闘技術を有していることが分かる。
フィリシアはレミアの振るわれる変幻自在の剣に魅了される。レミアの剣はその幻想的なまでの美しさとは対照的に向けられる相手にとっては、悪夢のそのものであった。
(まったく無駄がないわ。変幻自在の剣、すばらしいわ)
三人の戦いに見惚れていたフィリシアだったが、我に返ると魔剣セティスを構え、アンデッドに斬りかかる。そのアンデッドはリッチ。凶悪なアンデッドだった。だが、フィリシアに恐れは見えない。一瞬で間合いを詰めるとリッチの右腕を肘のあたりから切り落とした。
リッチは間合いをとろうとするが、それよりも早くフィリシアはリッチの首を刎ねる。そして、次の一太刀で核を切り裂く。リッチは得意の魔法を繰り出すことなく崩れ去った。
(リッチを一人で……あれは魔剣の力だけじゃなくフィリシア自身の技量によるものだ)
アレンはフィリシアの戦いぶりを見て感心する。フィリシアの剣は正当な術理に従った剣で、そこにあらゆる事態に対応するように工夫を凝らしたものである。
正当な剣術を学び、実践の場で鍛え上げた剣、それがフィリシアの剣だった。
(あれほどの実力があるのならフォローは必要ないか、むしろ助けてもらえるな)
アレンの中でのフィリシアの評価は元々高いが、彼女の剣を見たときにその評価はさらに高くなった。フィアーネもレミアも同様の評価のようだった。
まったく危なげなく召喚されたアンデット達を屠っていき召喚されたアンデッドの掃討は20分ほどで終わった。
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