第034話 呪われた少女⑨
空間転移によって転移したのは初めの分岐点であった。
あの右側の扉の奥の壁の向こうに隠し通路があるとアレンは考えたわけだ。
「さて、この壁の向こうに通じる通路があるかな」
「まぁとにかく、この周辺を探してみましょう」
「そうね」
「分かりました」
フィアーネの提案通り、周辺の壁を全員で調べ始める。
コンコン……コンコン……コンコン……コンコン……
四人がそれぞれ叩いた音からは異常は感じられない。
「ん?」
「見つけたのアレン?」
「いや……ここに術式が仕掛けられてる」
アレンの指し示した場所は扉の蝶つがいの場所である。魔力はほとんど感じられないほど微量なものであり、よほど気を付けないと気付かないものであった。
「解除してみるか?」
「ちなみにどんな効果がある術式なの?」
「う~ん、俺の見たことのない術式だ。みんなは?」
「私も見たことない」
「私も」
「これは、何かの偽装の術式ではないでしょうか?」
「偽装か……何を偽装しているかどうか分からんが、解除してみるか」
「そうね……このままじゃ手詰まりだもんね。でも出来るの?」
「いや、面倒だから壊してしまおう」
アレンはそう言うと、剣を抜き放ち術式に剣を突き刺す。パリンとガラスが割れるような音がして術式は消え去る。
四人は周囲を見渡すが別段何も見つからない。
「何も変化ないね……」
「でも偽装の術式があったんだから、絶対に何か変化しているはずよ」
「ちなみにフィリシア、偽装ってどんな偽装する事ができるの?」
「結構、偽装できる物は多かったはず……色、形、臭い、音……」
フィリシアの言葉に四人がほぼ同時に声を上げる。
「「「「音だ」」」」
見事なまでに四人の声がハモった。
「アレン、その扉のとこの壁の音を確認して」
「ああ」
レミアの言葉通り、アレンが扉の向こうの壁を叩いて音を確認する。
コンコン……
「どう?」
「ああ、当たりだ。この向こうは空洞だ。どうやら通路っぽいな」
四人の顔に喜びの表情が浮かぶ。どうやら先に進めそうである。
「フィアーネ、この壁を壊してくれ」
「分かったわ」
フィアーネは壁に右手をつく、気合い一閃、ハッ!!という声と共に壁が砕け散る。
その先に通路があった。いや通路ではない、10メートル四方の空間があったのだ。空間には三つの魔法陣があり稼働しているようだ。
「転移の魔法陣ね」
レミアが魔法陣の術式から転移方の魔法陣である事を他の三人に伝える。
転移の魔法陣ということは分かったが、問題はどこに通じているかだ。転移した先でいきなり命に関わる罠が仕掛けられていて転移していきなり死んだりしたらシャレにならない。
(カナリアを使うか……)
ここでいうカナリアとは鉱山などで坑道を掘り進める際に鳥かごに入れたカナリアで有毒ガスなどを人よりも早く察知することが出来る。いわばカナリアを使った危険察知だ。
アレンはそう考えると、死霊術でアンデッドを召喚する。召喚したアンデッドはスケルトンだ。言わずと知れた最弱クラスのアンデッドだ。カナリアとして使うなら最適なアンデッドだろう。
3体のスケルトンをそれぞれの魔法陣に送り込み、転移させる。スケルトンが消滅した時はアレンには分かるようになっている。そこで、転移先での危険度を測るつもりだったのだ。
「どう、アレン?」
「うん3体ともまだ存在している」
「とりあえず、大丈夫というわけね」
「少なくとも、槍が飛んでくるとかの罠はなさそうだな。だが、転移先に毒ガスが充満している可能性はあるからな。みんな一応、いつでも結界をはる準備をしておいてくれ」
「わかったわ」
フィリシアがそこで、声をかける
「それで、どの魔法陣に入るんですか?」
「いや、どれでも良さそうなんだ」
「「「?」」」
「いや、3体のスケルトンの転移場所は一緒の空間だ。というよりも同じ魔法陣から出ている」
「は?」
三人の呆けた声が響く。この魔法陣は入り口は三つだが、出口は同じだったのだ。スケルトン3体は同じ魔法陣から出ていたのだ。
「じゃあ、何のために三つも魔法陣を?」
「フィアーネ……本当は分かってるんだろ?」
「うん・・・多分だけど」
「何?何のためなの?」
「多分……嫌がらせ」
フィアーネはその言葉を吐くとげっそりと何かが削られたように項垂れる。三人の無言がフィアーネをさらにへこませる。
「と、とにかく、転移しよう」
「そ、そうね」
「行きましょう」
アレン一行はなんとかそれだけを言うと、魔法陣に飛び込んだ。
転移が終わると、幸い何の罠も無かった。アレンの召喚したスケルトン3体がうろついている。転移した先の空間は、先ほどの広さと同じくらいの部屋だった。
真っ正面に扉があり、扉を開けて50メートル程進むとまた扉があった。
その扉を開けると一際広い空間に出る。
「待ってたよ」
扉を開けた四人に声がかけられた。
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