第026話 呪われた少女①

「おい、ナマクラ」


 アレンの何の感情も込められていない呼びかけに魔剣ヴェルシスは身震いする。


【主様、何でしょう!!】


 完全に屈服した声だ。何しろこの新しい主は、売りに出せば屋敷一つ購入できるぐらいの価値のある自分を何のためらいもなく溶鉱炉に投げ込む事を宣言している。

 また、自分の能力である所有者の精神を乗っ取る事もこの主には効かない。完全に生殺与奪を握っている。この人物に対しては無礼な事など出来るはずもなかった。


「そろそろ、あの約束から2ヶ月だ。あと1ヶ月程度で魔剣が現れなければ、お前の身に何が起こるか理解しているだろうな?」


【勿論です!!主様を謀るような事は、この魔剣ヴェルシス二度と行いません!!」


 必死の忠誠アピールだったが、アレンの心には何も響かなかったらしい。アレンは冷たく言い放った。


「いや、別に謀ってくれても構わんぞ?すぐに溶鉱炉に持って行けるからな」

【ひぃぃぃ、なにとぞお慈悲を!!】


 アレンの魔剣ヴェルシスへの扱いがどんどん酷くなっていっている。



 * * * * *


 ローエンシア王国の王都フェルネルに冒険者ギルドと呼ばれる組織がある。冒険者は、言葉通り冒険を生業としている者達だ。未知のダンジョンに挑むもの、未開の土地を冒険するもの、魔物を狩る者などその仕事は千差万別だ。

 当然の事ながらそんな冒険者という職業は命がけの職業だ。命を落とす者は後を絶たない。また生活のために冒険者を止める者も多かった。

 そこで、冒険者の互助会として冒険者ギルドが立ち上げられ、冒険者の生活について一定の便宜が図られるようになったのだ。その便宜とは仕事の斡旋である。

 冒険者の仕事の一つに魔物を狩るというものがあるが、魔物は野獣と一緒で生き物を襲う。人間も生き物である以上、襲う対象となっており自分たちの生活が脅かされるため魔物を倒すために冒険者を雇ったりするのだ。

 冒険者ギルドではそんな仕事などを斡旋することで、冒険者に生活の糧を与えると共に人の生活を守っているのだ。


 王都にある冒険者ギルドは規模、レベル的に当然、ローエンシア王国のトップクラスである。そこに所属している冒険者達も一流の冒険者揃いだ。その一流の冒険者達が恐怖におののいていた。



 冒険者の恐怖の対象となっているのは一人の少女だ。その名もフィリシア=メルネスという18歳の少女だ。しかし、フィリシアは恐れられる冒険者というにはフィリシアは美しすぎた。

 赤い髪と青い瞳で、目鼻立ちは整っており街を歩けば10人中10人が振り返る。女性の平均をわずかに上回る身長に、程良い自己主張をする女性らしい胸、くびれのある腰、男性の視線を集める抜群のプロポーションだ。

 普通に考えれば、フィリシアの容姿では劣情をもたれることはあっても、恐怖をもたれることは決してない。だが彼女を見る者の目は恐怖に歪んでいる。


 フェルネルの冒険者ギルドは水を打ったかのような静けさに包まれる。海千山千の冒険者達がフィリシアに恐怖している。そんな空気の中、フィリシアは受付嬢に話しかける。受付嬢は顔面蒼白となり歯をガチガチとならしながら必死に応対する。


「ご、ご用件は?」


 妙に上ずった声で受付嬢はフィリシアにかろうじて問いかける。


「この王都に魔剣があると聞きました。そのことについて情報が欲しい」


 フィリシアは感情を感じさせない声で受付嬢に告げた。


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