第025話 夜会への招待状
レミアとの決闘から10日ほど経った。
レミアは一度報告のために、実家に帰っていった。経過を報告した後、また戻ってくるとのことである。
レミアの実家は、王都から寄合馬車を使って10日かかると言っていたので、そろそろ実家の方に着いたのではないだろうか。
そんな事を考えていた日に、ロムがアレンの執務室に招待状を届けてきた。17歳といっても男爵家の当主であり、墓守という役職に就いている以上、アレンも執務室で仕事を当然ながらする。
その仕事が一段落ついたところで、ロムが招待状が届いたことを告げ、アレンに手渡した。招待状につけられた封蝋から差出人は『ローエン家』すなわち王族であることが分かった。
ちょっと嫌な予感がしたが、無視するわけにもいかないので招待状を開く。内容は、夜会のご招待だ。
アレンは基本、夜会などに参加しない。夜は墓の見回りがあると言って断っていたからだ。元の貴族は王族主催の夜会を欠席することは出来ないのだが、実はアレンはなんやかんや理由をつけて3回に1回は断っていた。しかし、今回はこの間断ったばかりであったために断るのは難しかったのだ。
無理を承知でロムに尋ねる。
「なぁ、なんとかして行かないで済む方法はないかな?」
「さすがに、2回連続で休むわけには行きますまい。ここは諦めて招待に応じるしかありません」
「やっぱ、無理か……」
自分自身無理と思っていたので、アレンは諦めることにする。しかし、王族主催ということは貴族達も大勢来るのだろう。それだけで憂鬱だ。
アレンにとって貴族との会話ほど不愉快になることはない。あの回りくどい言い回し、自分の趣味とは対極にある美意識、一切共感できない自慢話の長いこと長いこと、おまけにアインベルク家に対する蔑みなど愉快な事など何一つ無いのだ。
ここまで憂鬱な晩餐館に出るくらいなら、墓で見回りをした方がはるかにマシだった。
晩餐会は1ヶ月後だ……。
これから、1ヶ月間で何かしら事件でも起こって中止になって欲しいとアレンは思わずにいられなかった。
* * * * *
「お父様~♪失礼します♪」
誰が聞いてもご機嫌といった感じの声で、アディラがジュラスの私室へ入る。
「どうした、アディラ、ずいぶんとご機嫌ではないか」
「うふふ♪分かります♪アレンお兄ちゃんが今度の晩餐会に参加すると聞きました」
今にも踊り出しそうなアディラの様子にジュラスは苦笑する。ここ1~2ヶ月で王族主催の晩餐会は3回開かれた。かなりペースだ。それもこれもアレンを晩餐会に呼び出し、アディラとの仲を進展させるために開催していたのだ。しかし、アレンは何やかんや理由をつけて招待を断っていたのだ。アレンが招待を断るたびにアディラの落胆とその後の機嫌の悪さはジュラスにとってストレスであった。
「よいかアディラ」
「はい♪お父様、なんでしょう?」
「うむ、アレンが来るのははっきり言って珍しい」
「その通りです。お父様」
「機会は限られている。分かるな?」
コク……。アディラは首肯する。
「次、頑張ろう……。などという甘い考えは持ってはいまいな?」
「はい」
(確かにそうだわ!!今回の夜会を逃せば次はいつチャンスが来るかわからない……)
「今回でアレンの心を射止めるつもりで望むのだぞ、アディラ!!」
「はい!!お父様!!アレンお兄ちゃんの心を射止めます!!」
「うむ、その意気だ!!アディラ。この一ヶ月、アレンの心を射止めるために自分を磨きに磨くのだ!!」
「はい!!」
(待っててねアレンお兄ちゃん!!この一ヶ月で自分を磨きに磨いてアレンお兄ちゃんの心を射止めてみせるわ!!)
アディラの戦いが始まる。
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