第024話 レミアとの決闘⑥
「すごい、勝負だったわね」
フィアーネがアレンとレミアの戦いを称えた。
一方のアレンとレミアは疲労困憊といった風に座り込んでいた。お互いに想像以上に体力を消耗していたらしい。
勝負という緊張状態が解かれ、疲労が一気に襲ってきたのだ。
「ところでアレン、最後の私の剣をすり抜けたあの技は何なの?」
「ああ、あれは俺の切り札の一つである『陰斬り』って技だ」
「陰斬り……」
アレンの使った陰斬りは、決して派手な技ではない。それどころか非常に地味な技である。単純に剣の軌道を変え、斬りつけるというものであるが、こういう地味な技こそ実践においては効果が高いものである。
剣の軌道を変え、受けようとした剣の内側に剣を滑り込ませるため、受けた方は剣がすり抜けたように感じるわけだ。加えてアレンほどの手練れなら動きに淀みはないためにそのすり抜けたと感じるのは何の不思議もなかった。
相手が集中すると効果が上がるのも、この技が相手の虚をつく技だからである。また、相手が受け止めるような状況で使うのも、すり抜けるとような技なので、相手が剣を振っているときに使えば、相手の剣は止まらずにアレン自身への攻撃となってしまうので、受け止めさせるような状況を作り出す必要があったわけである。
技の説明を終えると、レミアとフィアーネは感嘆の声を上げた。
「じゃあ、俺の技のネタばらしはこれぐらいとして、レミアは空間魔術のネタばらしを頼む」
「空間魔術によって移動したのは分かってるわね?」
「ああ、問題は術が発動した手順がわからん」
空間魔術による空間転移は当然ながら行き先を指定しなければならない。その際に魔法陣を展開し、行き先を指定し、発動という流れだ。だが、レミアの空間転移は魔法陣も展開してないし、行き先も指定していない。いきなり手順をすっ飛ばして発動したのだ。
「お前はあのとき、俺のオーケストラと同じと言ったな」
「うん」
「俺は最初、この修練場に仕掛けたものと思ったが、その後、俺自身に仕掛けたと言っただろ?いつ仕掛けたんだ?」
「アレンに組み敷かれたときに上に投げた剣が当たった時に仕掛けたのよ」
「じゃあ、あの時は攻撃ではなく、術の仕掛けだったというわけか」
「うん、考えていた以上に上手くいって、術を使わないで脱出できたのよ」
レミアにしてみれば、刃の部分が当たってもよし、刃以外のところがあたっても結果的に危機を脱せられるから良しと考えていたようだ。
「いつ仕掛けたかは分かった。戦闘に集中していたから気付かなかったのは納得した。でも魔法陣の展開と行き先指定の答えはまだ分からん」
「あなたに仕掛けたのは、行き先指定の術式よ。単純に仕掛けた対象から半径10メートルの地点にランダムに指定されるわ」
「なるほど」
「ちなみに魔法陣は私の皮鎧の内側に書かれているのよ」
レミアはさらに続ける。
「あとは、発動条件を満たして、空間転移したというわけ。発動条件はあなたが、私を追い詰め、私に降参を促し、私が頷くことよ」
「なるほど、かなり面倒くさい手順と条件だな」
「まぁね、発動条件を厳しくしたのは、発動したときの効果を上げるためよ」
「?」
「だって、アレンはいつ、どのように発動したのか分からなかったじゃない」
確かにそうだ。空間転移を通常の手順で行えば、魔法陣が発生し魔力の流れを感じる。しかし、今回はふっと煙のように消えたのだ。
「確かにそうだ。おかげで完全に虚を突かれた」
「まぁ、これで私の種明かしはおわり、納得した?」
「ああ、納得した」
さて、これで、勝負に関して聞くべき事はすべて聞いた。あとはこれからのことだ。
「レミアはこれからどうする?」
「う~ん、とりあえず、一度実家に帰って報告するわ」
「その後は?」
「もう一回、修行のやり直しかな。それか冒険者として修行するかな」
「よければ、アインベルク家で雇いたいんだけど」
「私を?」
「ああ、レミアの実力はすさまじく高い。そんな人材をほっとく程、俺は呑気じゃない」
「う~ん、確かに墓地の見回りで相当なレベルのアンデッドが出たわね」
「ああ、正直なところ、あの程度のアンデッドじゃレミアにとっては物足りないだろうけど、どうだい?」
「まぁ、修行をし直すという事から考えれば、墓地に発生するアンデッド以上のレベルに遭遇することはあまりないわね。いいわ、アインベルク家に雇われることにする」
「おお、それは良かったよ」
そこで、フィアーネはアレンに声をかける。
「ちょっとアレン、あなたはつきあいの長い私を雇うなんて事、今まで一度も言ったことないじゃない!!なんでこレミアはスカウトして私はしないのよ!!」
「いや、お前はジャスベイン家の令嬢だろうが、そんな事するわけにゃいかんだろ」
「む~~~すっごく納得いかないわ。私もアレンにスカウトされたい!!」
「もう、面倒だからこの話はここまでな」
アレンは強引に話を締めくくる。フィアーネは不満顔、レミアは苦笑を浮かべる。
「ところでアレン?そちらのフィアーネさんってアレンの恋人なの?」
「いや、フィアーネは恋人じゃないよ」
「その通り!!私はアレンの恋人よ!!婚約者よ!!いえ、もはや妻よ!!」
レミアは質問に対して、両者の真逆の答えを聞き、もう一度苦笑を浮かべる。
「とりあえず、フィアーネさんの片思いってことね」
「違うわよ!!私とアレンはもはや夫婦よ!!長年連れ添った老夫婦の境地なのよ!!」
「フィアーネ……それ何かおかしい……」
「まぁ、いいわ。アレンとフィアーネさんは恋人でないという事はわかったわ」
「つまり、レミアは私へ宣戦布告するというわけね」
「その通りよ。フィアーネとの勝負も楽しそうだわ」
「レミアって面白い人ね。私に勝てるなんて思わないでね」
二人はライバル宣言から、どんどん話が進んでいく。もはやアレンは完全に置いてけぼりだ。
その様子を見ながら、レミアをスカウトしたのは早まったかなという思いがアレンの胸中に生まれたが、もはや遅かった。
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