第036話 呪われた少女⑪

「うおりゃあああ!!!!!」


 ドゴン!!という音が辺り一面に響き、ミスリルゴーレムが吹っ飛び壁に激突する。


 壁に激突したミスリルゴーレムは、粉々に砕け散った。



 ジュスティスがミスリルゴーレムを殴り飛ばしたのだ。


(流石はトゥルーヴァンパイアだな。フィアーネよりも強いんじゃないか)


 アレンがミスリルゴーレムを一撃で粉々にしたジュスティスの強さに感嘆の声を上げる。レミア、フィリシアも同様のようだ。ただ一人フィアーネは、ため息をついている。まぁ気持ちは分かる。



「まったく、なんでいきなり私を狙ったのだ?私の命をだれかが狙ったと見るべきか?」

「いや……多分違うと思いますよ」

「アレン君、ミスリルゴーレムが狂った理由を君は分かるのかね?」


(狂ってるのは、あんたの頭だ!!)


 心の中でアレンは叫ぶ。だが、いくらなんでもそんな事は言えないので、アレンは苦笑いを浮かべる。


「ジュスティスさん、一応聞いておきますが、あのミスリルゴーレムの制作者はジュスティスさんですか?」

「いや、友人の錬金術師に製作してもらったんだ。まさか、あいつが……」

「……いえ、そのご友人の錬金術師は、ミスリルゴーレムを渡すときになんか注意しませんでしたか?」

「う~ん、そういえば何か言ってたな。あんまり聞いてなかったが」


(ジャスベイン家の家訓に人の話を聞いちゃ駄目とかあるのか?やっぱフィアーネのお兄さんだわ)


「おそらく、その注意の中に、主人を登録する項目があったはずです。ちなみにジュスティスさんは自分が主人であるとゴーレムに登録しましたか?」

「いや、してないな。そういえばあいつ、俺の名前をなんたらかんたら言ってたな」

「……」

「それにしても、失敗したな。まぁとりあえず君たち、これでこのダンジョンは攻略したということでいいよ」


 やけにあっさりとジュスティスはダンジョン攻略達成を宣言する。


「それでは、ヘシオスをもらいますね」

「ああ、はいこれ」


 ジュスティスは、こぶし大の珠をあれんに渡す。珠は大理石のような滑らかな手触りだ。すさまじい魔力を放っていることから、へシオスであることは間違いない。だが、なぜこれをジュスティスがここで手渡すのか?


「え~と、ジュスティスさん、なぜここにヘシオスがあるんです?」

「いや、ミスリルゴーレムを斃せば、もう何も仕掛けないからダンジョンクリアなんだ。だから、時間短縮で私が持ってきたんだ」

「ジュスティスさん……」


 レミアが地を這うような声でジュスティスに呼びかける。


「何やってんですか!!!!!」


 突如爆発するレミアにその場にいる全員が呆然となった。


「ダンジョン攻略の一番おいしいところをどうして全部あなたが持ってくんですか!!」

「え……あ、はい」

「ラスボスもあなたが斃しちゃいますし、ダンジョンクリアの証拠のヘシオスもあなたがここにもって来ちゃうし、私がどんなにダンジョンクリアの瞬間を待ち望んだと思っているんですか!!!確かにアレン、フィアーネ、フィリシアのメンバーを見ればあの程度のアンデットなんか時間つぶしにしかならないでしょう!!でも、でもですね!!!それでも締めは自分たちの力でやりたいじゃないですか!!!それをここにヘシオスを持ってくるとかはないわ!!あり得ないわ!!!今までの私達の苦労が全部消えた瞬間ですよ!!!ねぇみんなもそう思うでしょう!?」


 興奮状態のレミアの問いかけにアレン、フィアーネ、フィリシアはすごい勢いで首を縦に振る。

 正直、アレンもフィアーネもフィリシアもダンジョン攻略にそれほど熱心ではないのでここにジュスティスがヘシオスを持ってきたことに対して不満はそれほどなかったのだが、レミアの剣幕にとてもその事は言えなかった。


「ああ、何かすみません」


 レミアの剣幕に押されてか、ジュスティスもつい謝罪を口にする。


「謝れば良いってもんじゃないですよ!! 大体です……もがっ!!」


 長くなりそうなので、アレンがレミアの口を押さえる。む~む~と暴れているレミアをフィアーネが後ろから羽交い締めにする。フィリシアはちょっと引き気味だ。


「お兄様、とにかく一度ダンジョンを出ましょう」

「そ、そうだな」

「む~む~」

「ジュスティスさん、転移魔法お願いできますか」

「ああ、とりあえず、戻ろうか」



 ジュスティスが魔法陣を展開する。視界がぐにゃとゆがむとジャスベイン家のにアレン達五人は立っていた。


 空はとっくに暗くなっている。


 こうして、ダンジョン攻略は終わりを告げた。まぁ目的のヘシオスが手に入ったのだから良いだろう。


 レミアは納得していないようだったが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る