第004話 フィアーネ③
アレンとフィアーネは、魔力の気配をたぐり気配を絶ちながら侵入者の元へと急ぐ。
侵入者は魔力を隠そうともしていないようだった。魔力を隠そうとする者から発せられる魔力と隠そうともしない者の気配にはやはり差がある。今回の侵入者は明らかに魔力を隠そうともしていない。これは自分の腕前に余程の自信があるか、もしくはよほどの低脳かのどちらかであろう。
アレンとフィアーネは侵入者を発見する。
身長は2メートル弱の男性であり、髪はオールバックにまとめられ後ろで結んでいる。執事服に身を包み、いかにも敏腕執事という印象だ。
ただ、男性は人間でないのは明らかであった。侵入者の腰からサソリのような形の尻尾が生えている。いわゆる魔族と呼ばれる存在だった。
実際の所、この国営墓地に魔族が現れるというのはそれほど珍しいことではない。だが大抵は下級の悪魔か使い魔的存在が多く、あまり知的水準は高くない感じがする。
しかし今回の悪魔は知的水準も高そうであり、それなりの地位にある魔族であるのは間違いないだろう。
侵入者を中級以上の悪魔と見定めた以上、アレンの出方は決まった。
その出方とは『先手必勝』である。
いつものアレンであれば慎重に出方を伺うのだが、今夜に限って言えばその意見は却下である。心を決めたアレンは一気に駆け出した。
侵入者の数は、執事服を着た魔族と下級悪魔が一体、リッチと呼ばれる強力な魔法を使うアンデッドが3体である。
執事服を着た魔族は何らかの儀式を行っているようである。魔族の周囲に国営墓地に漂う瘴気が集まり始めている。かなりの量の瘴気であり『何かしら大きな事をしでかそうとしてます』という空気が漂い始めている。
自分たちに突進してくるアレンに最初に気付いたのは下級悪魔であった。次いでリッチもその様子に気付き、アレンの方を見る。
アレンの姿を見たリッチ達は魔術の詠唱を始めた。しかしアレンの動きはリッチの常識を遥かに越えていたのだ。
リッチが魔術の詠唱を始めた時にはアレンとリッチの距離はすでに2メートルにまで迫っていた。剣を抜き放ったアレンは、一番近くのリッチの胸の辺りにある核をピンポイントで貫いた。
核を貫かれたリッチから黒い靄が吹き出すとリッチはそのままガラガラと崩れていく。アレンは次のリッチの胸のを薙ぎ払い、核を斬り裂くと声を発することも出来ずにリッチは崩れ去った。
仲間の犠牲の結果、詠唱を終えた最後のリッチは右手をアレンにかざした。手に火球が発生したところをみると、どうやら
アレンがリッチの右手を払った瞬間に魔術が放たれたがその射線上にはアレンはいない。払った右手の射線上にいたのは執事服をまとった魔族である。
「イム……」
下級悪魔が執事服を纏った魔族に声を発しようとしたのだが、最後まで声を発することが出来なかった。その慰留はアレンが下級悪魔の首を刎ね飛ばしたからである。
最後に残ったリッチもアレンの手によりすでに核を斬り裂かれガラガラと崩れ去っている。
放たれた
「ふ……随分と野蛮……なっ!!」
余裕を持って振り向いた執事服の魔族の顔が驚愕にゆがむ。アレンの剣が自分の防御結界を切り裂き、刃が自分の首に迫っていたからだ。躱すことが出来たのはもはや偶然か奇跡のどちらかであろう。体が勝手に死から逃れるために反応したのだ。
(ち……外したか)
第一撃を外したことにアレンは舌打ちしつつ追撃を行った。アレンの次の斬撃は魔族の足である。空気を斬り裂くアレンの斬撃を魔族はかろうじて躱した。
アレンの先手により完全に押し切る流れに持っていくことに成功したのだ。人によっては不意を衝いた事に対して道義的に非難するものがいるかもしれないが、アレンに言わせればそのような非難など所詮は安全な所から行っているだけの卑怯者の論理でしかない。
執事服の魔族はアレンの鋭い剣撃を躱しながら背中から羽を生やした。
(まずい!!距離をとられる!!)
それを見た時にアレンに焦りが生じる。魔族はアレンの剣の間合いから逃れ空中を舞って難を逃れたのだ。15メートルほどの高さから、執事服の魔族がアレンに憎々しげに言葉を発する。
「ハァハァ……何と野蛮な奴だ。やはり人間のような下等生ぶ……うぉ!!」
魔族の言葉が中断される。アレンが斬り飛ばした下級悪魔の首を執事服の魔族に投げつけたのだ。斬り裂かれた防御結界は再び発動していたのだろう。結界に直撃した下級悪魔の頭は壁にスイカを思いっきり投げつけたように破裂した。
しかし、その衝撃で魔族の防御結界にヒビが入ったのだ。そのヒビは一瞬で修復されたが、執事服の悪魔にとっては驚くには十分すぎる出来事だったのである。
「ちょっと落ち着け!!せめて何をしようとしてたかとか、名前を聞くとか、戦う前にやるような事があるだろ!!」
執事服の魔族はアレンにかなりズレたことを喚き始めていた。どうやらアレンの行動にすっかり動揺してしまっていたのだろう。魔族のこの訴えに対してアレンは言葉ではなく行動で返答した。その返答とは、リッチの亡骸である頭蓋骨を投げつけることだった。
「どわ!!待て待て!!」
「面倒くさい事になるのは分かってるからさっさと死んでくれ」
アレンは無慈悲に魔族に言い放った。
「アレン、ちょっと落ち着いてよ。ちょっと話を聞きましょう」
そこにフィアーネがアレンの暴挙を止めるべく声をかけた。最高級の楽器から紡ぎ出されるような美しい声であったがアレンにとっては最悪の展開を告げる声でしかない。
アレンはこの時自分が追い詰められた事を悟ったのであった。
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