第003話 フィアーネ②

 結局、今回もフィアーネを追い返すことはできなかった……。

 正確には「もう帰れ!!」「邪魔!!」とかなりどぎつい事を言ったのだが、まったくフィアーネは応えず、最終的には「頼みます!!帰ってください!!」と頼み込んだのだが、フィアーネは「愛されてるわ~♪」ととてもご満悦だった。


 今夜の仕事には、フィアーネを伴って見回ることになったのである。


 誤解しないで欲しいのは、別にアレンは、フィアーネを嫌っているわけではない。これほどの美少女に好意を寄せられて嬉しくない男など存在しないだろう。

 昼間の時間に来るのなら普通に応対するつもりだった。ちなみにヴァンパイアは日光に弱いという事はないので、日中の活動に別に制約はない。


 アレンがフィアーネに仕事の同行を拒否するのは、別の心配・・・・があるからなのだ。


「さぁ、今夜も張り切っていきましょう!!」


 今にも、スキップしそうな程の軽い足取りでフィアーネはアレンの一歩前を歩き始める。対してアレンの足取りは微妙に重い……。

 

(とにかく今夜の見回りは、最短で終えるように超効率的にいこう)


「あ!アレン!!あそこ!!」


 宝物を見つけたかのように弾む声で、フィアーネが叫ぶ。その声を聞いたと同時にアレンは走り出す。走り出してすぐに、フィアーネの見つけた相手を確認する。

 スケルトンと呼ばれるアンデッドで、数は6体、胸の辺りに黒い靄を発する球体がある。どうやらあれが核のようだ。


 アレンは全速力で駆ける、いや、翔る!!何としても最速で、たどりつきスケルトンを殲滅するのだ!!いや、しなければならない!!アレンの心にはそれだけだった。


 すさまじい速度で、スケルトンに肉薄し、その速度のままアレンは跳んだ。人の身長をはるかに上回る高さを跳び、スケルトンの胸を蹴りつけた。

 骨の砕ける音と共に核を蹴り砕いたアレンは、着地しそのまま回転して、後ろ回し蹴りを隣のスケルトンに放った。またもや骨と共に核が砕かれるとスケルトンは動かぬ死体へと逆戻りする。

 そのまま横に跳びスケルトンの胸に肘を叩き込んでまたも一撃で核を砕いた。アレンはほとんど一撃でスケルトン達を文字通り蹴散らしたのだ。戦闘と呼ぶには些か一方的であり、むしろ蹂躙と呼んだ方が良かったかもしれない。


(自己最高記録だな。俺って時々すげえな)


 パチパチパチ!!


 拍手が聞こえ、振り返るとフィアーネが目をキラキラさせて、頬を染めてアレンを見て拍手していた。


「すごいわ!!さすがはアレンね!!まさか5秒でスケルトンを殲滅するなんて!!お父様でさえ難しいわ!!」

「まぁね……がんばったよ」

「やっぱり、私に格好いいところを見せようと思って張り切っちゃたのね。」

「いや!!それは違う!!」


 即座にアレンの心からの反論が出たのだがフィアーネには通じない。それどころか『もう照れちゃって~♪』という惚気ぶりだ。


「もう、私はアレンの格好良さなんてとっくに分かってんだから、そんなに張り切らなくて良いのよ♪」

「……」


(ダメだ……なぜこうも、こいつはポジティブなんだ?出会ったときからこうなんだから、ずっとこんな感じだったんだろう……)


「おまえさ……俺が何を言ったか本当に理解している?」

「当たり前じゃない。照れちゃって、必死に否定するアレンは、本当にかわいいわ♪」


(やはり、こいつと話すと、何かがごっそり削られる。美女は命を削るカンナとかいうが、そういう類のものではないのは確実だな)


 アレンはため息をつくのを何とかこらえつつ見回りを再開しようとしたその時である。


 パリン……。


 陶器が砕けるような音がアレンとフィアーネの耳に入った。


 墓地の結界を何者かが破って国営墓地に侵入してきたのだ。


 アレンは反射的に「まずい……絶対に面倒事になる」という思いが生まれ、ちらりとフィアーネを見てみるとフィアーネはニヤリと嗤っているのが目に入った。


(日頃の信心が足りないのかな……)


 夜空を見上げて自分の置かれた状況をアレンは嘆く。国営墓地の管理者は自分であり、面倒事の処理は自分でしなくてはならないのだ。


 アレンは心の中で大事になりませんようにと自分自身虚しくなることを祈りながら侵入者の元に向かう事になったのであった。

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