第002話 フィアーネ①
日が暮れ、いつものようにアレンが国営墓地にやってきたところ、門に一人の少女が佇んでいた。
こんな時間に、墓地の敷地の前で、佇む少女……。どう考えても普通の少女ではないないだろう。確かに王都の治安は良い。だが、決して女性が夜中に一人で歩き回ってよいほどの治安ではないのだ。
少女は、アレンを見つけるとブンブンと手を振り始める。
アレンはその姿を見ると、ゲンナリとした。
(また、面倒くさいやつが来たな……)
少女の事を知っているアレンは、タメ息をついた。
「さぁ!!アレン、デートしましょう!!」
少女はアレンに駆け寄ると、アレンの手をとりデートに誘った。
その少女は、年齢は16~17歳頃で、身長はアレンに比べ頭一つ分低い。髪の色は銀髪で、瞳の色はルビーのような赤だった。顔の作りは非常に整っており、美の概念を存分にもりこんだ素晴らしい容姿だ。だが、決して冷たい印象を得ないのは、やはりコロコロと笑う花の咲いたような笑顔のためだろう。
また出るべきところは出て、引っ込むべき所は引っ込むという、世の中の女性が理想とする抜群のプロポーションだ。
服装は黒いドレスであり所々にフリルをあしらっている、いわゆるゴスロリという感じの服装だ。それがまた憎いぐらいに似合っている。
美の神に愛されたかのような容姿を持つ少女にデートに誘われているにもかかわらず、アレンの顔に喜びの色はない。むしろ、『面倒くせぇ~』というような表情を浮かべていた。
その表情を見て、少女は、かなり気分を害したようであった。
「ちょっとアレン?なんでそんなに嫌そうな顔をしているの?」
「嫌だからに決まってんだろ」
「そりゃあね。あなたの愛しいフィアーネが、危険な目に遭うのが嫌だというのは、理解しているわ。でも愛しいあなたの勇姿を間近で見たいという乙女心もわかってちょうだい」
「相変わらずのポジティブシンキングだな。お前はあれか?『空気読め』と言われない限りは空気を読むことができない女か?」
「もう、本当にツンデレさんなんだから♪」
「だから、いつも言ってるだろ!!お前に対してデレはねえよ!!」
「またまた~テレちゃって~♪」
(ダメだ……こいつ本当に何とかしないと……)
アレンは頭を抱えこんだ。そう、初めて会ったときから人の話をこいつはまったく聞かないのだ。俺がいくら本心から「あっちいけ!!」「帰れ!!」「バカヤロー!!帰れ!!」といってもまったく通じない。
「いざとなったら、あなたが守ってくれるでしょ?」
「そのいざとなる時なんて、来るわけねーだろ!!大体、お前を傷つけることのできる奴なんて、それこそ伝説級じゃねーか!!つーか、その伝説級ってお前の事だろうが!!」
「ひどい!!私はただ愛しい、あなたと一緒にいたいだけの可憐な乙女なのに!!」
「可憐な乙女がなんでリッチを素手で撲殺してんだよ!!」
「それは私が、
えっへんと胸を張るフィアーネ……。
そうなのだ、このフィアーネ・エイス・ジャスベインは、ヴァンパイアの中でも位階の高いトゥルーヴァンパイアなのだ。
ヴァンパイアには、両親が吸血鬼である純血のヴァンパイアである『トゥルーヴァンパイア』、両親のうち一方が吸血鬼である混血の『ハーフヴァンパイア』、人間であったが呪いなどにより吸血鬼に変異した『カースヴァンパイア』、血の盟約などにより吸血鬼に従属する『スレイブヴァンパイア』に大きく区分けされる。
当然、最も吸血鬼の中で権威と魔力があるのは、トゥルーヴァンパイアだ。魔力が他の生物とは明らかに一線を画す存在の伝説級の化け物と言える。
このフィアーネも種族的に、すさまじい魔力を持っており、魔術の使い方次第によっては一国を滅ぼすこともできるだろう。ただ、フィアーネは、魔力を自分の肉体強化に振り分けているため、魔術師というよりも武術家といった感じだ。前回、俺の仕事に付いてきた時は、リッチと呼ばれる強大な魔法を使うアンデットを、正拳突き一発で粉砕していた。
あれだけ偉そうに登場してきたのに、瞬殺されてしまい個人的にはちょっと同情したぐらいだ。
「大体、お前、なんでデートとか言っておきながら、いつもこの時間にくるんだよ?昼間に来ればいいだろ」
「だって、私はトゥルーヴァンパイアなのよ。ヴァンパイアのイメージといったら、夜じゃない!!私は全国の皆さんのイメージを壊したくないのよ」
「少なくとも、俺はヴァンパイアに対する認識が、お前にあって大きく変わったよ」
「愛のなせる業ね。私たちの間には種族という大きな隔たりがあるけど、愛があれば、わかり合うことができるのよ!!」
……なぜだろう。
こいつと話すと、なにかがごっそり削られていく……。
これから仕事なのに……。
なんで始まる前から、こんなに削られた状態にならなくてはならないのだろうか?
神様……あんたもう少し、がんばってくれないかい?
あんたの慈悲を俺にも分けてくれないか?
俺はちゃんと仕事を真面目にがんばっているだけなんだが……。
これほどの美少女(見かけ)と話しているはずなのに、アレンの心は沈んでいくのであった。
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