第020話 レミアとの決闘②
「勝負?」
アレンは、レミアの申出につい鸚鵡返しで答えていた。なぜ自分がいきなりレミアに勝負を申し込まれなければならないのだという至極まっとうな疑問が形となってアレンの口から出たのだ。
「ああ、いきなりすぎて困らせてしまったわね」
レミアは礼儀正しくアレンの疑問に答える。
「順を追って説明させてもらうわ」
「ああ」
「私の家のワールタインとアレンの家のアインベルク家とは、少々因縁があるのよ」
「因縁?」
「ええ、といっても曾祖父の世代の因縁なの」
(俺の曾祖父はレミアの曾祖父に何をしたのだろう?)
「誤解しないで欲しいのは、恨みとかそういった類の事じゃないわ」
「そうなんだ」
「実は私の曾祖父はその昔、アレンの曾祖父と戦ったらしいのといっても、殺し合いとかいう血なまぐさいものじゃなくて、純粋な腕比べだったみたいよ」
「それで、結果は?」
「アレンの曾祖父が勝ったらしいわ。そこで、うちの曾祖父が再戦を約束し、長い修行に入ったわけ」
「うん、それでなんで曾孫の君が来るの?再戦を約束したのは曾祖父ちゃんだろ?」
「それが、曾祖父は再戦の約束を果たすことなく、病で亡くなったらしいの」
「それはそれは……」
「曾祖父は臨終の場でお祖父様にアインベルクとの戦いを受け継ぐように頼んだの」
「なるほど、それでレミアが曾祖父ちゃんの思いを受け継いで俺との戦いに来たというわけか」
「そういうこと、あなたにとっては迷惑な話だろうけど、受けて欲しい」
「……」
無言のアレンの反応から、不安げな表情をレミアは浮かべた。アレンにしてみればそんな曾祖父の世代の因縁をふっかけられれば迷惑だろう。断られるという不安が鎌首をかかげたのだ。
だが、アレンが口を開いたのは別の事だった。
「ん~。聞いてた話と違うな」
「え?聞いてた話?」
「ああ、うちにも再戦の約束を果たしにいずれ勝負を挑んでくる者が来るだろうから、その時は受けて立つべしと父上が俺に言っていた事があるんだ」
「それは、私の事でしょ?」
「ああ、話はつながってるんだけど、その家の名前はベルノヴァと聞いてたんだ」
「ベルノヴァは、私の曾祖父の名前よ。ベルノヴァ=ワールタインというのよ」
「え?そうなんだ」
「多分、世代が変わるうちにベルノヴァの名前だけが残りそちらが家の名前として伝わったのね」
「なるほどね。それなら曾祖父ちゃんの世代の約束を俺たちの代で叶えることに不服はないよ」
「ありがとう、アレン」
「良いって、多分、うちの曾祖父ちゃんはレミアの曾祖父ちゃんとの再戦を楽しみにしてたんだと思うよ。じゃないと俺にまで話が伝わるわけ無いからね」
そうなのだ、本当に再戦を楽しみにしていたのではなければ、この話が世代を超えて伝わることは決して無い。まぁアインベルク家の伝達能力が微妙だったので、完全に伝わらなかったのだが。
「でも、すまないがレミア、俺はこれから仕事なんだ。勝負は後日改めてにしてもらいたいんだけど」
「確かに、アレンの都合もあるでしょうし、もっともな事ね」
「レミアの都合の良い日に合わせるからな」
「うん、ありがと、ところでこんな時間から仕事なの?」
「ああ、アインベルク家は国営墓地の管理を任されている。これから日課の見回りさ」
「ふ~ん……そうだ。アレンその見回りって私もついていっちゃ駄目?」
そこで、アレンは考える。何しろ、自分の日課の見回りでは、ほぼ例外なくアンデッドの戦闘になるのだ。並のアンデッドにレミアが遅れをとることはあり得ないだろう。だが、手の内をアレンにさらしてしまう可能性がある。そのことはやはり伝えるのが礼儀だろう。
「レミア、一緒に来ることは構わないんだけど、伝えておくべき事がある」
「なに?」
「国営墓地では、ほぼ例外なくアンデッドが発生する。レミアが遅れをとるとは思えんけど、自分の手の内を俺に知られてしまうかもしれない。それでも大丈夫なのか?」
「……う~ん、手の内を知られるのはまずいけど、逆にアレンの手の内を探ることもできる事になるわ。条件は一緒よ。つれてって」
「まぁ、確かに条件は一緒だな。じゃあ行こうか」
こうして、アレンは意外な形で同行者を得ることになった。
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