第019話 レミアとの決闘①
アレンは今日も日課の墓の見回りに向かっている。その途中の路地裏で、数人の声がする。その声は喧嘩の真っ最中のようであり、穏やかな話合いという感じではない。
普段のアレンであれば、興味を引くことはなかったかもしれないが、怒鳴り合う声の片方は少女のものであったことがアレンの興味を引いたのである。
何かしらのもめ事がおこっているのなら、女性が不利である事は十分ありえることだ。また、基本のパターンとしては、男が女に絡み、それを女が厳しく拒絶した言に腹を立てヒートアップしたというのが多い。
アレンは気付いてしまった以上、無視することも出来ないので路地裏を覗いてみることにした。
路地裏でもめているのは、2人だ。一人はアレンと同年代のショートカットの少女だ。ぱっちりとした目、スッと通った鼻、愛らしい唇と確実に美少女に称される容姿をしている。身なりや持ち物は、皮鎧と普通の剣よりも少々短い剣を二本、腰に差している。身なりからすると冒険者か傭兵のようである。
一方男の方は、いかにも『暴力の世界で生きています』といった風貌の男である。男ははスキンヘッド、頬に傷が走っている。身なりは少女と大差なく、これまた皮鎧と背中に盾と剣を背負っている。そんな男女が怒鳴り合っている。
両者はどんどんヒートアップしてくようで、お互いに剣を抜くタイミングを計っているようだった。
「だから、しつこいって言ってるでしょ。構わないでよ!!」
「はっガキがおとなしく股開いてりゃケガしなくて済んだってのによ」
男は下品な事を下品な声と口調で言う。どうやら男の方は品性からして下品な人物らしい。
「な、あんたって見かけだけじゃなく、人間的に下劣なのね。おあいにく様、あんたなんかの相手はまっぴらごめんよ」
「けっ、黙ってきいてりゃいい気になりやがって」
男は背負った件を抜き放つと少女に鋒を向けた。
「へぇ……ずいぶんと舐めてくれるじゃない」
少女は鋒を向けられた事に恐怖を見せる事無く腰の双剣を抜き放った。少女の抜剣に男はニヤリと嗤った。
(あ……まずい)
アレンは男に味方することを決定する。それからのアレンの動きに迷いは一切無かった。二人に声をかけることもなくやるべきことを行う。
何の前触れもなく表れた、少女は驚きの顔を見せる。そして、アレンの次の動きを見てからさらに驚きの表情は強まった。
アレンが、男の延髄に手刀を入れるとあっさりと男は気絶する。気絶したときに頭を打ったようで『ゴン』という音が辺りに鳴り響いた。
数瞬の自失から戻った少女は、アレンに怪訝な表情を浮かべた。
「何、あんた?まさか私を助けたつもりなの?」
「ああ、『助けたつもり』というよりも『助けた』だな」
「余計な事を誰が助けてくれって頼んでなんかないでしょ?」
「勘違いしないで欲しいな。俺が助けたのは君じゃないよ。こいつだ」
アレンが指さしたのは、のびている男であった。その答えに少女はさらに戸惑ったようだ。
「君とこいつが戦えば確実に君が勝っていた。というよりも勝負にすらならんだろうな。君がもし躊躇いなく人を殺せる人だったとしたらこの男は死んでいた」
「なるほどね。それで『助けた』というわけね」
「ああ、まぁ、君にすれば邪魔されたわけだから面白くないかもな」
「そこまで言われればもう怒れないね」
「なんとか、うまくまとまったようだな。あんまり弱い者イジメはしないでくれよ」
「わかったわ。確かに弱い者イジメはよくないわね」
少女は、そう言って屈託無く笑う。険しい表情が緩んでコロコロと笑う少女の笑顔はとても魅力的なものにアレンには思われた。
(へぇ……さっきとは違って可愛いな。やっぱり女の子の魅力は笑顔だよな)
「ああ、そうそう、私はレミア。駆け出しだけど冒険者をしてるの」
「駆け出し?意外だな」
レミアの言葉にアレンは意外な印象だった。アレンから体の使い方、隙のなさから駆け出しとは到底思えない。自分と同レベルの実力を有しているように思えてたのだ。
「意外?なんで?」
「いや、君の体の使い方は相当の修練をしたものだと思ったからさ」
「ああ、私は確かに駆け出しだけど、結構修行期間が長かったよ。それでそれなりの動きができたんだと思う。それよりそっちの名前も教えてくれるかしら?」
「ああ、俺はアレンティス=アインベルク、アレンって呼ばれている」
アレンが名乗ると、レミアは驚いた顔をした。その表情にアレンは訝しんだ。
「レミア、俺の名前に気にかかる事があるのか?」
「ええ、アレン、あなたがアインベルク男爵なの?」
「そうだが?」
「そうか、私は運がいいわ。王都に来てあっさりと会えるなんて……」
「ん?レミア、君は俺に会いに来たのか?」
「そうよ、アレン。いや、アレンティス=アインベルク卿、このレミア=ワールタインと勝負してほしい!!」
「は?」
レミアの申し出にアレンは間の抜けた返答を行った。
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