第009話 王城にて③

 アレンの退出した後、国家の重鎮達は、にこやかな雰囲気で話し始めた。


「いやいや、アレンの成長は喜ばしいな」


 ジュラス王の声には、我が子の成長を喜ぶ父親のような喜びがある。実際、親友の子であるアレンに対して、ジュラス王は、少なくとも甥っ子の成長を見守る気持ちを持っている。


「確かにアインベルク卿は報告に来るたびに成長しているのがわかるので、教える立場として嬉しいものですな」


 宰相エルマイン公爵も嬉しそうだ。


「陛下と宰相殿の言われるように、必ず何かしら改善するのは、嬉しいですな」


 軍務卿レオルディア侯爵もアレンの成長を嬉しく思う。


 エルマインもレオルディアも、素直に教えを受けるアレンに好意的であった。また上に決して媚びないアレンの性格は、得てして媚びを売る連中の相手をする三者にとって、彼との交流は一種の清涼剤となっていた。


 また、エルマインもレオルディアも、国家の貢献度の面からいってもアインベルク家の功績を高く評価していた。

 先日の悪魔とスカルドラゴンであっても本来は一軍を動かさなければ対処できない事案だ。確かに結界発生装置が壊れたが、そんなもの一軍を動かす費用とそれに伴う被害を考えれば微々たるものであった。


 この国の者はアインベルク家の功績をほとんど正確に知らない。もちろん三者は、形として功績を示そうとしている。しかし、当のアインベルク家がそれに難色を示しているのだ。


 ジュラスやエルマインが爵位を上げることを打診しても、アインベルク家が固持するし、レオルディアもせめて勲章という形で示そうとしてもこれまた固持する。


 結果的に、アインベルク家の偏見を覆すことが出来ないわけだ。


 となるとせめて、三者はアレンに教師役として接して成長を後押しするという形をとるしかなかったのだ。


 そこで、アレンが報告として王宮に出仕したときは、多忙極まる宰相と軍務卿が同席した報告が行われることになっているわけである。


 


 ただ一部の者達は、アレンの報告がある日は、三者とも機嫌が良い事に気付いているので、アレンに対して対応が優しくなる者も増え始めているのだ。


 アレンを取り巻く状況はわずかずつであるが、好転し始めているわけである。

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