第010話 アディラ①
謁見という名の指導を終えたアレンは、削られた精神的ライフの回復しないまま、王宮の出口への道を歩いていた。
途中すれ違う人のアレンを見つめる目は、非好意的なものがほとんどだ。指導が終わった以上、王宮からさっさと出たいと思うのが人情だろう。
そんなアレンの希望を打ち砕く声がアレンにかけられる。
「アレン様~待ってくださ~い」
元気な女の子の声がアレンにかけられる。声の主は分かっているので、声のした方にアレンは顔を向けた。
アレンの視線の先に、白を基調としたドレスを着た少女が駆けてくる。この王宮にいる者で彼女の名を知らない者は存在しない。ローエンシア王国の王女であるアディラ=フィン=ローエンである。
アディラは、よほど急いできたのか、アレンの元に着いたときには、かなり呼吸が乱れていた。
「アレン様、お久しぶりでございます!!
アディラは頬を上気させアレンに挨拶をした。普通、王女ともあろうものが、王宮内とはいえ駆けて、男性を呼び止めるというのは好ましい行動とは言えない。しかし、アディラはそのような事はまったく気にしないのだ。
アディラは、今年15歳、金色の髪は背中までかかり緩くウェーブがかかっている。太陽の光を反射してキラキラと輝いているかのようだ。瞳の色は碧で、サファイアのような輝きを放つ。正統派の美少女だ。だが、アディラの最大の魅力は、その愛くるしい表情だろう。そのためだろうか、アディラの容姿を表するのに多いのは、『美しい』よりも『愛らしい』だった。
アレンにとっては、昔からの顔なじみ、いわゆる幼馴染みにカテゴライズされる少女だった。
「はい、お久しぶりでございますね。アディラ王女殿下」
アレンの返答に少し、アディラは不満そうだ。久しぶりにあった幼馴染みなのに、他人行儀なのが、アディラにとっては不満なのだ。
「もう、アレン様ったら、なんでそんな他人行儀なんですの?昔みたいにアディラと呼んで欲しいです」
「いえ、王女殿下を呼び捨てにするわけにはいきません。このアレンティス=アインベルクは、王族への礼を失することはありません」
「でも、昔はアディラと呼んでいただいていました」
「それは、私が未熟であり、王族への礼を理解していなかった故でございます」
(こんな人の多いところで、アディラなんて呼び捨てすれば面倒だからな)
確かに昔はアレンもアディラを呼び捨てにしていた時期もあった。だが、それは自分がアインベルク家の当主になる前の話である。アインベルク家当主となり爵位を継いだ現在では、王族に対してそのような軽々しい口をきくつもりは一切なかった。自分に悪意を持っている者を恐れたりしないが、わざわざ攻撃材料を与えるつもりもなかったのだ。
「む~、とりあえずは納得いたします。でも必ず、昔のようにアディラと呼ばせて見せますからね」
そう言ってアディラは拗ねてみせる。これほどの美少女なのだから拗ねてみたところで、『可愛らしい』という印象しか受けない。
「それよりもアレン様!!もうお仕事はお済みになられたのですか?」
「はい、国王陛下へのご報告も終わりましたので、帰宅するつもりでございます」
アレンの返答に、パァっと花が咲いたような笑顔を浮かべると、アディラはアレンに告げた。
「それでは、アレン様、お茶をご一緒していただきませんか」
キラキラとした目で訴えるアディラ、これを断る男はいないだろう。だが、アレンは違う。
「大変ありがたいのですが、ご遠慮させていただきます」
アレンの返答を聞いて、花の咲いた笑顔が一瞬でドライフラワーのようにしぼんだ。そしてウルウルとした目で今度は訴える。これには、さすがのアレンも困った。アレンは昔からアディラのこの泣き落としにはめっぽう弱いのだ。そのため、ついに折れてしまい。了承してしまった。
「ありがとうございます!!さぁご案内いたします」
一転して笑顔になるアディラを見て、まだまだ、女性をあしらうことの出来ない自分のふがいなさを情けなく思うのだった。
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