第015話 魔剣ヴェルシス③
【ふははは!!我は魔剣ヴェルシス!!貴様の体もらい受ける!!】
この声が頭に響いた時、アレンは自分の精神が拘束されるのを感じた。夜中に金縛りにあったみたいに、頭では動くように命令を出しているのに、体がまったく動かないというあの、もどかしい感じだ。
「アレン?どうしたの?」
突然、動かなくなったアレンを、フィアーネが心配し、のぞき込む。
(フィアーネ、俺から離れろ!!)
アレンは叫ぼうとしたが、声にならない。正直、まずいと思った。
「ふははは!!悪いな娘!!この体は俺の支配下にある」
アレンの口からアレンでない言葉が飛び出した。それと同時に魔剣ヴェルシスがフィアーネに襲いかかる。フィアーネはその剣閃を躱し距離をとった。
「アレン?違うわね、あなたは誰?」
フィアーネが訝しんで、アレンに尋ねる。
「ふはは、我は魔剣ヴェルシスよ。この体は我がもらい受けたというわけだ」
「アレンはどうなったの!?」
「ふん、今、こやつの魂は拘束しておる、人間如きでは我の魂の拘束から逃れることは決して出来んわ」
「そんな……アレンの中から出ていって!!」
「ははは、出て行くわけはなかろう」
アレンは自分の中からこの状況を見ている。話によれば魂が拘束されているとのことだ。体の支配を奪われた現段階では、フィアーネに告げることはできない。
(やばいな、フィアーネの事だ。この流れだと絶対に戦う流れだな。それはどう考えてもシャレにならん)
アレンは、解呪の術式の組み立てを始める。少々時間がかかるのは難点だが、仕方ないというものだ。
「それなら力尽くで追い出してやるわ!!」
フィアーネが宣戦布告する。
(やっぱりそう来たか!! フィアーネ、大丈夫だ。これくらいなら解呪は出来るから!!)
アレンの心の叫びは当然ながらフィアーネには届かなかった。次の瞬間、フィアーネが一瞬で間合いを詰め、右拳をアレンの顔面に向け放った。かろうじて躱すがそのまま立て続けにフィアーネの左の中段突き、右の打ち上げ突きを放つ。それらを躱すが、さすがに反撃する余裕はなかった。必殺の連撃を躱されたのだフィアーネは驚嘆する。
「やるわね。さすがにアレンの体ね。今の連撃を躱せるのは片手で数えるぐらいしかいないのに」
「この体は本当に素晴らしいな。これだけの身体能力があればここで貴様を切り捨てるのも簡単だろうな」
(待て!!今どう考えてもギリギリだったろうが!!あんまり刺激すんな!!フィアーネの本気があんなもんなわけないだろ!!)
今の攻防は常人なら、全く見切ることも出来ずに終わっていたことだろう。それだけのフィアーネの攻撃だったのだ。だが、アレンはあの程度の攻撃はフィアーネにとって肩慣らしであることを知っている。ところが、魔剣ヴェルシスはフィアーネを斬り捨てることは容易だと思っているのだ。これは、魔剣ヴェルシスとフィアーネの実力に大きな隔たりがあることを示していた。
(おい!!ナマクラ!!さっさと俺の拘束を解け!!殺されるぞ!!)
アレンとすれば親切な忠告だったのだが、魔剣ヴェルシスは当然そう受け取らなかった。駆け引きと思ったらしい。フィアーネに聞かせるためだろう。わざわざ声に出して、アレンにいう。
「ふん、まだ意識があるとはな」
アレンの口から出た魔剣ヴェルシスの言葉にフィアーネは反応する。
「まさか、アレンの意識はあるの?」
「ふん、この男は必死に抵抗している。無駄な足掻きだ」
「そう、アレン、待っててね。今助けてあげる」
(違うだろ!!ナマクラ!!抵抗じゃなくて、警告してんだろうが!!)
「ふん、人間如きが、図に乗り追って!!まぁいい、貴様の愛する女を貴様自身の手で斬り殺してやるわ」
アレンの体を使って、魔剣ヴェルシスが笑う。一方、フィアーネは嬉しそうだ。
「やっぱり、アレンは私の事を愛していたのね。もう~素直じゃないんだから~♪」
フィアーネは、クネクネと惚気だした。
(それは、こいつの勘違いだ!!おい、ナマクラ!!お前いい加減にしろよ!!)
「いいわ、アレンちょっと待ってて今あなたを取り戻すわ!!」
「ふん、出来るのか?この男がどうなってもいいのか?」
(アホ!!その手のセリフはフィアーネには逆効果だ!!)
アレンは魔剣ヴェルシスを罵った。だが魔剣ヴェルシスはアレンの言葉をささやかな抵抗と見ているのだろう。むしろ、人間が無駄な抵抗をするアレンを苦しむ様を見たいのかもしれない。
アレンは、事態の悪化が着々と進んでいることを理解していた。
(まずい、早く何とかしないと……)
フィアーネは、右手に魔力を集中する。右手に集まった魔力は棒状に変化し、フィアーネの右手には五本のナイフが形成された。ナイフは刃の部分だけであり、柄も鍔もついていないシンプルなものである。
ブン!!
フィアーネは腕を振り上げる動作でナイフを投擲した。すさまじい速度でアレンの眉間、喉、腹とナイフが放たれる。
それをアレンは最小限度の動きで躱す。だが次の瞬間、アレンの太ももにフィアーネの投げたナイフが突き刺さった。
「ぐっ……貴様、正気か!!この男を助けるのではなかったのか?」
アレンの体を乗っ取った段階で、アレンの体の感覚を感じるようになったからだろうか魔剣ヴェルシスは苦痛にうめく。
(おい!ナマクラ!!お前はアホなのか?間抜けなのか?上半身へ攻撃し意識をそらし、下半身へ間髪入れず攻撃を加えるなんざ常識だろうが!!しかも痛覚があることをばらすなんざ、絶対ばらしちゃいけない情報だぞ!!)
「だまれ!!」
アレンの抗議というよりも、ダメ出しに魔剣ヴェルシスは激高した。
「アレンも戦っているのね!!もうちょっと待っててね。今助け出してあげるわ!!」
その声を聞き、どうやらフィアーネは勘違いしたらしい。フィアーネのやる気に満ちた声と決意を感じて、アレンは背筋が凍る。
(おい!!ナマクラ!!早く逃げろ!!フィアーネにボコられる未来しか見えん!!)
せっかくのアレンの嘆願であったが、どうやら魔剣は逃げるつもりがないようだ。アレンの顔にいやらしい笑顔が浮かんだ。そして次にアレンの首に魔剣ヴェルシスを当ててフィアーネを見やった。どうやら人質をとってフィアーネを屈服させようと思ったらしい。
「抵抗すれば、この男の首を刎ねるぞ」
卑しい声がアレンの口から発せられる。
ところが、フィアーネの行動は魔剣の想像の遙か彼方であった。言葉を聞いた瞬間にフィアーネは圧縮した魔力を放った。圧縮された魔力は球体となりすさまじい速度でアレンの足下に着弾する。着弾した魔力の球体は爆発を起こした。アレンは、そのすさまじい爆風からかろうじて逃れた。
(アホ!!今のは目つぶしが目的なんだよ!!フィアーネから目を離すな!!)
フィアーネの攻撃によりあろうことか魔剣ヴェルシスはフィアーネから注意をそらしてしまった。だが、その一瞬でフィアーネには十分だったのだ。フィアーネの右拳がアレンの顔面に向けて放たれる。確実に食らう一撃だったが、アレンが左腕を上げてガードする。
一瞬、驚愕の表情を浮かべるフィアーネだが、すぐに魔剣ヴェルシスの刀身を素手で掴む。魔力でガードしているのだろう。拳を素手で掴んだというのに、フィアーネの手には傷一つ付いていない。
(まずい……捕まった)
アレンの状況は刻一刻と悪くなっていった。
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