第006話 フィアーネ⑤

 “なぶり殺してやる!!”


 かなり物騒な考えにアレンは到達した。アレンの到達した考えは間違いなく八つ当たりである。しかもその事を心のどこかで理解していたのだ。


 ドガァァァァ!!


 ガシャァァァァァ!!


 遠くでフィアーネとスカルドラゴンの戦う音が響いておりアレンは心が折れそうになるが取りあえずこの怒りをイムリスにぶつける事にしたのだ。



 イムリスは空中に舞い魔術を放つ。放つ魔法は電撃の魔術であった。放たれた雷撃をアレンは驚異的な身体能力で躱すと剣を抜いた。


「ヒャハハハ!!剣を抜いてどうすんだ?てめぇの攻撃は届かねえよ!!」


 イムリスはあくまでも見下しアレンを挑発し電撃を連続で放った。イムリスは決してアレンの間合いの外から電撃を放ち続けるが、それらの攻撃をアレンは躱し続ける。


「ふん、避けるのが上手いじゃないか」


 自分が安全圏で戦っていると思っているからだろう、イムリスはさらに下卑た笑いをアレンに向ける。アレンに与える不愉快さは嫌が応にも増すがアレンは表面上それを現すようなことはしない。

 アレンは懐に忍ばせていた直径1~2㎝程の鉄球を取り出すとイムリスに投げつけた。すさまじい速度で飛んだ鉄球はイムリスの防御結界によって阻まれてしまった。防御結界にヒビが入るが一瞬で修復する。その様子にイムリスは嘲笑った。


「またそれかよ?確かに人間にしたら俺の防御結界にヒビ入れるだけでも大したもんだ。だが、破れねぇ事には変わりがねぇな」


 イムリスの嘲弄を無視してアレンは再び鉄球をイムリスに投じる。先程同様にイムリスの防御結界にヒビを入れる事は出来るが破るまではいかない。


(どうせ、さっき追い詰められたのは『不意をつかれたからだ』とでも思ってるんだろうな。まぁ俺の剣で防御結界を切り裂いた事ぐらいはアホでも覚えてるだろうから、警戒して間合いの外から仕掛けてるがな)


 アレンはそのような事を思いながら鉄球を投げつけ防御結界にヒビを入れ、防御結界が修復する。何度かそれを繰り返していくうちにイムリスは鉄球を避けないようになった。

 そして攻撃方法が無いと思ったのか高度も少しずつ下がり始る。


「ほらほら、逃げろ!!逃げろ!!」


 イムリスの中ではもはや戦いでは無く狩りの気分となっていた。わずか5分ほどの攻防だったがイムリスは自分が罠にはまっている事にまったく気づかない。


(そろそろだな……八つ当たりの時間だ。くされ魔族が!!)


 アレンは鉄球を再び投じた。しかし今度投げた鉄球は一つではなかった。散弾のように鉄球を十個ほどまとめて投げつけたのだ。

 投じられた鉄球はイムリスの防御結界にあたりイムリスの防御結界にヒビが入る。しかし今回の投じた鉄球は数が多く、広範囲だったために入ったヒビの範囲が大きく今までよりも視界を遮る範囲が広かった。そしてアレンは投石をした一瞬後に自分の剣を投げつけていた。


 剣はヒビの入った一瞬の隙間に滑り込むと防御結界を貫きイムリスの肩を貫いた。イムリスの方に生じた突然の痛みにイムリスは絶叫を放った。


「ギャアアアアア!!」


 この瞬間、イムリスの意識からアレンが外れたのは仕方の無い事かも知れない。


「悲鳴を上げるとは余裕だな……」


 アレンはそんな隙を見逃すはずは無い。アレンはすかさず間合いを詰めると空中のイムリスを捕まえるために跳んだ。

 防御結界を破るため右手に魔力を込めそのまま叩きつける。アレンの拳は防御結界を突き破るとイムリスの右足首を掴んだ。アレンはそのままイムリスの足首を掴むとそのまま引きずり落とした。


 ゴガァァァァァ!!


 イムリスが地面に叩きつけられると凄まじい音が発した。それが地面と生物の衝突によって生じたものであるなど直に見ても信じられないだろう。


 アレンによって顔面から地面に叩きつけられたイムリスの顔面にすさまじい痛みが生じたが、間髪入れずに腹部にこれまたすさまじい衝撃が襲った。地面にバウンドしたイムリスの腹にアレンが強烈すぎる蹴りをたたき込んだのだ。

 当然、イムリスは吹っ飛ぶが、握られた足首のために飛んでいく事は出来ない。アレンが足首を引っ張ったことにより再びアレンの元へイムリスはやってくる。アレンは狙い澄まして肋骨に肘を叩き込んだ。


 ゴギィィィィ!!


 肋骨の砕ける音と共に、10メートルほどの距離をイムリスは吹っ飛ぶとそのままイムリスは地面を転がった。


 当然だがイムリスは虫の息である。顔面、腹部、肋骨にほぼ一瞬で多大なダメージを負っていたのだ。人間ならとうに即死だっただろうが、人間以上の生命力を持つ魔族という種族であることがどうにか即死を免れさせていたのだ。


(こ……こんな……バカ……な)


 イムリスは自分の身に起こっていることが理解できてなかった。


(俺は人間を相手にしていたのふぇはなかったのか? あの、醜く脆い玩具の人間を相手にしていたはず……)


 イムリスの目にアレンがゆっくりと近付いてくるのが目に入った。


 そして……イムリスはアレンの拳が自分の顔面にめり込むのを確かに感じた。アレンの魔力によって強化された拳はsのままイムリスの顔面を突き破ると地面にめり込み爆発する。


 ドゴォォォォォォ!!


 異様な爆発音の正体はアレンの拳が、イムリスの頭部を完全に打ち砕いた際に一緒に地面を吹き飛ばしたからだった。


 頭部を潰されたイムリスの体はアレンが発生させた。直径2メートルほどのクレーターの中にボロ布のように横たわっている。


(はぁ……今回のフィアーネは何を壊したのかな)


 アレンは小さく呟いた。



 アレンはフィアーネの方に歩き出そうとしたら声が聞こえてきた。


「アレ~~~ン!!」


 間違いないフィアーネの声だ。あちらも、もう終わったのだろう。


「フィアーネ、お疲れ様、大丈夫だったか?」

「もちろんよ、私はケガ一つないわ」


 アレンのいう大丈夫は、フィアーネの体のことではない。スカルドラゴン如きではフィアーネにかすり傷を負わせることすら不可能だろう。かすり傷でも付けることができればそれこそ奇跡というものだ。


「そうか、それは良かった。それでフィアーネ、見回りを続けよう」

「そうね、楽しいデートの再開よ♪」


 アレンは祈る気持ちで、フィアーネとスカルドラゴンとの戦闘跡へと向かう。



 アレンは、戦闘跡の惨状を見て、気絶しそうになった。


 どうやら、フィアーネは素手で戦ってくれたらしい。それでも墓地の所々に直径10メートル前後のクレーターが発生しており木々はなぎ倒されていた。

 幸いというか周囲の壁が消しとんでいなかった。前々回は強力・・な防御術式を施した周囲の壁が消しとんでいたのだ。


(……うん、被害はそんなにない)

 

 現実逃避に入りかけたアレンを現実に引き戻すフィアーネの言葉が響いた。


「ああ、そうそう、アレン、あそこにあるオブジェを壊しちゃったの」

「……ああ、あの粉々になっているのは……やっぱり、あれだよね」


 フィアーネが壊したオブジェとは、墓地を覆う結界発生装置である。墓地には五重にわたって強力な結界が張られている。そのうちの一つがフィアーネによって破壊されていたのだ。

 ちなみに国営墓地の結界は入り込む事に対しては比較的容易になっている。それはあくまで国営墓地で発生するアンデッドを墓地に閉じ込めることに主眼が置かれているからだ。


 実のところ、アレンは最初から結界発生装置が粉々になっていることなど、最初から分かっていた。分かっていて、壁が壊れていないから大丈夫、前回よりマシと思おうとしたのだ。つまるところ現実逃避である。


 その現実逃避も、フィアーネの言葉によって現実に引き戻された。


「ところで、フィアーネ……」


 アレンは声をなんとか絞り出した。話題を変えることで現実逃避しようとしたのだ。


「何、どうしたの?……ハッ、まさか愛の告白?もちろん私も愛してるわ♪」

「違うよ……」

「何々?何でも答えるわよ♪」


 フィアーネのテンションが上がれば上がるほど、対照的にアレンのテンションは下がっていく。


「おまえ、どうやってスカルドラゴンを斃したんだ?」

「え?普通に殴って斃したのよ」

「でも復元能力があったろ?」

「うん、あったけど、復元するたびに殴りつけてたら、復元のスピードが遅くなってきたのよ。そこで、両足を砕いて胸にある核を殴ったというわけ」


(うん、想像以上の脳筋だ。そしてとどめの渾身の一撃を放った射線上に結界発生装置があったというわけだ……)


 フィアーネは結界発生装置を狙ったわけでは決してない。たまたま、射線上に結界発生装置があったため余波で砕いてしまったというわけだ。


(ついでに砕くほど、脆いもんじゃないんだけどな……)


「とりあえず、見回りを続けよう、今日は疲れたよ」

「え~?アレンたらこれぐらいで疲れたの?情けないわね」


(疲れた原因のほぼ全てはお前のせいだよ)


 

 アレンは、ぐったりとしながら、見回りを続けることにした。


 明日の王宮への出仕を思うと気分が重くなる。


 早く見回りを終えて、ぐっすりと眠りたかった。

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