第27話 お祓い

 -健太-

「健太君。少しだけ私に付き合って」


 そう言って美優ちゃんから人型の紙を渡された。

 そして美優ちゃんはメモを確認する。


「まずコップ1杯の水に清めた塩を溶かす。

 そしてまず私が1口飲み、残りは健太君が飲む。

 そして健太君は人型の紙を身に付け合掌をし目を閉じる。

 そして私は九字を切る」


「一応こんな感じみたい」

 美優ちゃんはそう言って微笑みかける。


「いや、みたいって。軽くない!?」


「まぁまぁ、ひとまずこの水飲んで」

 美優ちゃんが1口飲んだ後、コップを渡される。


 そして渡されたコップの塩水を1口飲むと

「うわっなんだこれ!?」

 思わず吐き出しそうになる。


「えっ?普通の薄い塩水じゃない?」

 美優ちゃんはびっくりしてこちらを見ているが、とてもじゃないが飲めた物じゃない。

 苦いというか、臭みというか、なんとも形容し難い味がした。


「いや、塩水っていうか苦いというか、・・・これ全部飲むの?」

 さすがに困惑して聞いてみる。


「私が飲んだ後に渡した物飲んでそのリアクションされるとさすがに凹むんだけど」

 美優ちゃんはそう言ってすかさずメモを見返す


「いや、違うって。そんな変な意味で言ったんじゃなくて、本当に塩水の味じゃないんだって」


「あっ、やばい」

 メモを見ていた美優ちゃんが思わず口走る。


「えっ何が?」


「あっいや、違う大丈夫」


「いや今やばいって言ってたやん」

 思わず突っ込む。


「と、とりあえず続けよう」


『とりあえずって』

 心の中でそうツッコんでいたが人型の紙を持って合掌するように促される。


「ふう。

 臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」

 美優ちゃんは九字を唱えながら縦、横に指を切る

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」


 すぐに変化があった。

 胸の奥から、何かが上がってくるような、腹の底で何かがうごめくような、今までに経験した事がないような気持ち悪さに襲われる。

「美優ちゃん、・・・ごめん。気持ち悪い」


「えっお願いもうちょっとだけ我慢して」


「・・・ダメだ、ごめん無理」

 そう言って俺は走って部屋を出て行った。


 階段を駆け下り一目散にトイレに駆け込む。


 ひとしきり胃の内容物を出した後、フラフラになり洗面所で口をゆすいでいると、ばたばたとしていたせいか居間から母親が出てくる。

「どうした?彼女でも来てるんか?」


「ああ、そやで」


「あんたどうした?顔色悪いで。なんか変な事してへんやんな?」


『夜中に部屋で彼女にお祓いしてもらうのは、変な事に入りますか?』


「もう、大丈夫やからそっとしといて」

 そう言って俺は部屋に戻って行った。


 部屋に戻ると美優ちゃんがちょこんと座っていた。


「ごめんせっかく用意とかもしてくれてたのに俺が我慢出来なかった」


 とりあえず誠心誠意、謝った。


「そこまで謝らないで。私が迂闊な事しちゃったのかもしれない」

 そう言って美優ちゃんは抱きしめてくれる。


「ふふふ」

 不意に笑いが込み上げる。


「えっ健太君?大丈夫?」

 こんなタイミングで笑いだしたせいで逆に心配される?


「ああ、ごめん、ごめん。たださぁ・・・」


「どうしたの?そこまで言ったら気になるから言って」


「いやぁ、部屋で美優ちゃんと抱き合ってるって夢にまで見た最高のシチュエーションなのに、なんかニュアンスが違うなぁってふっと思ってさ」


「結構余裕だね」

 そう言って2人で笑った。


「こんな時でも健太君がエロい事考えてたってわかったけど」

 美優ちゃんは少し意地悪く言う。


「いや別にずっとそんな事考えてた訳じゃないから」

 必死に弁明する。


「ふ~ん。まぁでも変な事しないでね」

 そう言って笑いかけてきた。


「ああ、はい」

 勿論そんな事をするつもりは無かったが改めて言われると少しガッカリしてしまった。


 ・・・・・・いやちょっとは考えてたな。


「健太君」

 そう言って美優ちゃんは近づきキスをする。


「ごめんね。いきなり夜に呼び出して我儘わがままな事ばっかり言って。でも今日だけは我慢して」


『貴女は俺の心が読めるのですか?エスパーか何かかな?』

 そんな事が頭をよぎったが何も言わずに美優ちゃんを抱きしめた。


『ん?ちょっと待てよ今日だけはって言った?今日って言ったよね?』

 そんなよこしまな事を考えてると


「健太君こんな事言ったら失礼だと思うけど、今日はこの部屋にいない方がいいと思う。今日は何処かビジネスホテルかネットカフェとかに泊まった方がいいと思う」

 美優ちゃんはまっすぐこっちを見ている。


「そうか。美優ちゃんがそう言うならそうする」

 俺は微笑みながら美優ちゃんの頭をポンポンと触る。


「ごめんね。本当は私ももっと一緒にいて話しとかしたいんだけど・・・」

 美優ちゃんはその先は言いにくそうにしている。

 もし俺が肉食系のガンガン行くタイプなら

「それならせっかくだし今日一緒に何処か泊まろうよ」

 とか言うんだろうけど残念ながら俺は肉食系じゃない。


「俺も出来れば美優ちゃんと一緒にいたいけど、もし一緒に何処か泊まるんなら・・・うん。美優ちゃんの魅力に俺は我慢出来ません」

 そう言って満面の笑みで笑った。


「ふふ、本当ごめんね。今日は色々中途半端になっちゃったね。とりあえず帰ってこれからどうするか考えたいから送ってくれる?」


「OK。さぁ行こう」

 そう言って再び美優ちゃんを家に送る事にした。

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