第32話 肌を重ねて

 -美優-

 健太君の過去の話しを聞き、本気でムカつき、そして健太君が今一歩踏み込んで来てくれない理由も少しわかった気がした。


「健太君私ね、」

 健太君を抱きしめ、緊張が高まる。

『大丈夫。ちょっとぐらい大胆になってもお酒のせいだと思えば大丈夫』


「健太君、私、今日・・・」

 そこまで言うと健太君にグッと押された。


『あっ、もう身を任せよう。全て受け入れよう』

 私はそう思いこれから起こるであろう事を想像し、期待と緊張が高まっていった。




 数秒経ち異変に気付く。


「ちょっと健太君?」

 小声で呼びかけるが返事がない。

 顔を覗きこむと、


 寝てる!

 嘘でしょ!?えっ?このタイミングで!?


 そりゃ疲れてる上にビール飲んだけど・・・


「もう。私の覚悟と期待は何?」

 寝ている健太君に問いかけて微笑んだ。


 -健太-

 ふっと気が付くとソファで寝ていた。

 そして俺の腕の中では美優ちゃんが眠っていた。

『ああ、しまった。喋ってる途中で寝てしまった。今何時だ?』

 そう思い時間を確認する。

 3時30分だった。


 腕の中で眠る美優ちゃんを眺める。

『自分の彼女だけど可愛いなぁ』

 そんな事を考え思わず

『少しぐらい触ってもいいかな?・・・いや、彼女相手にそんな痴漢みたいな事・・・』

 俺の中で凄く葛藤していた。


 でもこのままソファで寝かすのは可哀想なのでベットに移動さそうと思い、

『とりあえず抱っこしてみるか』

 そう思い抱えようとするが上手くいかない。


「ああ、ダメだ。重い」

 小声で呟くと


「ちょっと誰が重いの?」

 そう言って美優ちゃんは片目を開けた。


「あれっ起きてた?」


「多分健太君と同じぐらいに起きたと思う。時計確認してたでしょ?その時」


「ああ、なんだ可愛く寝てると思ってたのに」


「ふふ、私の事重いとか言ったお詫びかな?」


「いやそういう意味じゃなくて」


「ふふふ、寝たふりしてたら健太君なんか変な事してくるかなって観察してたら抱っこしようとしてくれてたね」


『や、やばかった。こっそり触ろうとしてたら変態のレッテル貼られる所だった』

「そう。ベットで寝た方がいいやろうと思って」


「そっか。じゃあせっかくだから抱っこして連れてって」

 そう言って美優ちゃんは立ち上がったので俺も立ち上がりお姫様抱っこする。


「重くない?」


「ぜんぜん大丈夫」

 そう言いながらベットまで運び寝かせる。


「ありがとう」

 そう言うが美優ちゃんは首から手を離そうとはしない。


 美優ちゃんの頭を撫でながら濃厚なキスをし、美優ちゃんも応えてくる。


 ここまで来て我慢出来る訳がなかった。


 だがお互いほとんど服を脱いだ所で美優ちゃんから止められる。


「ちょっと待って健太君」


「えっ、ここまできて止めてとか?」


「いやそれはないけど・・・ほらちゃんと持ってる?付けるやつ」


「あっあるよ。持ってる」

 そう言ってサイフから取り出す。


「よかった。・・・なんで持ってるの?」

 美優ちゃんが少し冷たい視線を送る。


「えっ、いや、ほら美優ちゃんとこうなった時の為にって」


「・・・後でちゃんと説明してね」

 そう言って美優ちゃんと身体を重ねた。




 事が終わり2人でそのままベットでたわむれていた。


「ねえねえ。それでさっきの話しなんだけど、なんでああいう物持ち歩いてんの?」

 美優ちゃんは笑顔でこちらを向くが何故かいつもの笑顔とは少し違う気がした。


「えっあっ、いや、だからこれはその美優ちゃんと・・・」

 美優ちゃんの冷たい視線が刺さる。


「何?私の家に来る前に何処かで買ってきて鞄じゃなくて財布に忍ばせてたの?じゃあ買ってきた残りは鞄にまだあるのかな?」


「いや、あの、」

 もう何言ってもバレてるな、そう思い素直に話す。


「ごめん。何かあった時にと思って前から持ってました」

 そう言って素直に頭を下げる。


「何かあった時って、どうなったらそうなんの?何時もそんな事考えてるんじゃないよね?」

 美優ちゃんの表情からは笑みは消えていた。


「いや何時もそんな事考えてる訳じゃないし、結局そんな物を使う事もなかったし」

 とりあえず笑って誤魔化そうとすると


「当然だよね。まさか使う事もなかったって、そういう事になったけど使って訳じゃないよね?」

 更に鋭く視線が刺さる。


「いやそれはない。それはない」

 慌てて否定する。


「そっか。まぁ私と出会う前の事だろうから特に何か文句言うつもりはないけど」


『確かに何も言ってませんが、目は口ほどに物を言う。って事が痛いほどわかりました』


「とりあえずもう1つ持ってた、もう持ち歩く必要ないよね?」

 そう言って美優ちゃんは笑顔を見せるが、目は笑ってなかった。


「そうだね。確かに持ち歩く必要ない」


「じゃあ貸して。私が預かるから。・・・それとも今使う?」

 美優ちゃんはそう言って微笑んだ。


 俺は素直にうなずき美優ちゃんを引き寄せた。

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