第31話 健太の過去②
-健太-
クリスマスLIVE当日になり、リハ(リハーサル)が始まる。
数曲演奏しリハは終わり暫く休憩に入り、
そこで思ってもみない展開になる。
ドラムの拓也が今日限りで脱退したいと言い出したんだ。
「何でだ?しかも急に」
秀雄がもっともな質問をする。
「いや、思ってたのは前から思ってたんだ。ただ伝えるのが今日になっただけで。音楽性の違いってやつだよ」
拓也は冷静に話す。
「もう変えるつもりはないのか?」
俺は半分諦めながらも聞いてみた。
「ああ、もう決めた事だし、変えるつもりはない」
「仕方ないけど今は今日のLIVEに集中しようぜ」
大介がまとめ皆がそれに従った。
この時の俺達は拓也の本当の脱退理由をまだ知らなかった。
いよいよ俺達の出番になりLIVEハウスは熱気に包まれていた。
俺はボーカルとして、バンドの顔として、特定の人にだけ合図したり煽ったりする事は避けていた。
それでも会場の何処かにいる彼女を探してしまっていた。
そして会場の1番後ろに彼女がいるのを確認し安心していた。
そして熱気に包まれたLIVEは幕を降ろし無事、終演となった。
その後打ち上げとなるんだが、俺はその前に彼女に呼び出されていた。
「どうしたこんなタイミングで?」
「どうしてもけんちゃん(健太)に伝えなくちゃいけないなと思って」
この時点で俺は別れを覚悟した。
「な、何かな?言いたい事があるなら言ってくれ」
「けんちゃんは良い人だけど刺激がないの。暫くすると一緒にいても楽しくなくなっちゃって。このまま一緒にいても悪いでしょ。だから別れて」
もう俺は全否定された気分だった。
「それに好きな人も出来ちゃったから」
そう言って彼女が・・・いや元彼女が振り返るとタイミングを見計らったように拓也が出てきた。
「悪いな健太。そういう事なんだ」
俺は完全に思考が停止した。
「はぁ!?そういう事って、どういう事だ!?」
「わからないのか?お前と一緒にいても楽しくないって悩んでたから相談に乗ってるうちそういう風になったんだよ。お前がぼやぼや・・・」
「バキッ!!」
拓也が喋っていたが俺は全力で殴っていた。
「てめぇ、何不意打ち喰らわしてんだ!」
拓也も応戦してきたが俺は完全にキレて暴れていた。
騒ぎを聞きつけ大介と秀雄が駆け付ける。
「おい!落ち着け!どうした!?」
「離せ!アイツだけは殺す!!」
「ちょっともう止めて!本当に拓ちゃん死んじゃう」
元彼女が何か叫んでいる。
「わかった。わかったから少し落ち着け!頼むから」
大介と秀雄に押さえられ、ようやく少し冷静になってきた。
俺は血だらけになり頭もガンガンしていた。
右手は腫れ上がり熱を持ち脈打つ度にズキズキと痛みが増す。
少し向こうには元彼女に抱えられるように拓也が顔を血だらけにしながら
それを見た大介と秀雄は状況を理解したようだった。
「なぁ健太。とりあえず病院行こうぜ。お前の右手絶対折れてるから」
大介がそう促す。
「あいつらはどうするんだよ?」
秀雄が聞くが
「もうほっとけよ。健太がこんなにキレてんだぞ。どういう事かもうわかるだろ」
大介と秀雄に付き添われその場を後にした。
「悪いけど暫く1人にしてくれないか?」
俺が力無く問いかけたが
「おう。お前を病院まで連れて行って無事家まで送り届けたら1人にしてやるよ」
そう言って2人は家まで送ってくれた。
そしてバンドはそのまま解散。
2人はまだ音楽活動は続けてるらしいが俺はもう色々疲れて辞めてしまった。
「こんな感じかな」
「ちょっと本気でイラついてきた。その女と男殴りたいんだけど。刺激欲しがってるんでしょ私が刺激与えてあげるよ」
そう言って美優ちゃんは拳を握り締めていた。
「ダメダメ。あんな奴らのために美優ちゃんの手、痛める事ないよ」
そう言って美優ちゃんの拳を下げさせる。
「それはそうと健太君ボーカルしてたんだね。今度カラオケで歌ってもらおう」
「あんま期待したらダメだよ。それに流行りの曲とかはあんまり知らないし」
「なんでもいいよ。歌ってくれるなら。それに好きな曲、歌ってる方が1番楽しいでしょ」
そう言いながら美優ちゃんは抱きついてきた。
「ごめんね。変な事話させて。私結構本気でムカついちゃった」
「うん。美優ちゃんの口調が荒くなってたからちょっとびっくりしてた」
「えっ引いちゃった?」
「いやいや、寧ろそうやって素の美優ちゃん見れるのは嬉しいかな」
「本当?良かった。・・・健太君はちゃんと立ち直ってる?」
「えっ・・・まぁ正直トラウマ的な事はある。俺と一緒にいて美優ちゃんは本当に楽しいのか不安に思う事もあるし、今楽しいし、幸せ感じてるけどその幸せが大きい程終わった時のショックは・・・」
「健太君!」
俺の話しを遮り美優ちゃんはキスをしてきた。
「本当ネガティブ。それにちょっと失礼じゃない?そんな女と私を一緒にしないで」
「あはは、本当だね。ごめん」
そう言って少し下を向く。
「下向かないでよ。ちょっと悲しくなるから」
そう言って抱きしめてくれる。
『本来は逆じゃないのか?俺が抱きしめなきゃいけないんじゃないか?』
そうは思うものの、あまりに心地良くてつい甘えてしまう。
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