第39話 除霊を終えて

 -健太-

 お祓いの最中に倒れかけた美優ちゃんを間一髪抱きしめ事なきを得る。


 しかしそのまま意識を失い、うなされている。


「うぅん、う~ん、んん」


 そんな様子を見て心配になりながらも

『なんか少し色っぽいな』

 などとふざけた事を考えながら呼びかける。


「美優ちゃん。大丈夫か?美優ちゃん」


 呼びかけに応じる様に美優ちゃんが目を開け

『あっよかった。気が付いた』

 そう思い安心した時、

 美優ちゃんのややきつい目付きが更に鋭くなり、眉をひそめ怒りの形相を表したかと思うと、


「最低!!」


 美優ちゃんの叫びと共に俺の左頬が強烈な衝撃に襲われ、俺は吹き飛ぶ。


 困惑しながらも美優ちゃんの方を見ると、右手を振り抜き、見事なフォロースルーを決めている。


『なせだ!?』

 即座にそんな思いが頭を駆け巡った。

 美優ちゃんが倒れそうになった所を絶妙なタイミングで抱きしめ助けたはずなのに・・・


 まさか『少し色っぽいな』なんてふざけた事考えたのが顔に出てたのか!?


 意識を取り戻したら目の前で彼氏が変態面してたから思わずビンタしてしまったとか?


 だとしたら俺はどんな顔をしていた!?


 美優ちゃんは目を見開きこっちを見ている。


「ご、ごめんなさい!私思わず・・・手が出て・・・本当にごめんなさい!健太君大丈夫?」


 そう言って美優ちゃんが駆け寄ってくる。

 どうやら俺の心の声が漏れてた訳ではなさそうだ。


 しかしそうなると何でビンタされたのか、更にわからなくなる。


「な、なんで?俺なんかした?」

 素直に疑問をぶつけるが美優ちゃんはひたすら謝っている。


「さ、さぁ佐宗さんも意識を取り戻された様ですしまずは片付けて場所を移しましょう」

 阿比留さんも少し戸惑いながらそう促す。


 そうして俺達は片付けを済ませ美優ちゃんのお母さんが待つ車へ向う。


「ちょっと健太君大丈夫!?どうしたの?顔腫れてない!?」

 車に着くとお母さんがびっくりした様に尋ねてくる。


『貴女の娘さんにやられたんです』

 そう思いながらも

「あ、はい。大丈夫です」

 と言葉少なに答え苦笑いを浮かべる。


「お母さんとりあえずゆっくり話せる所に行きたいんだけど」

 美優ちゃんが少し強引に会話に入ってくる。


『自分の落ち度に触れられないようにしているのか?』

 そう思い、思わずニヤついてしまう。


「じゃあ、霊だ、なんだってあまり表でする話しでもないでしょ。だったらウチでいいよね?」

 そう言ってお母さんは車を出し、俺の家を後にする。


 美優ちゃんの家に着きお母さんが人数分の珈琲を入れてくれる。


「ふぅ。ありがとうございます。佐宗さん。そして林さん。お身体は大丈夫ですか?」

 阿比留さんが落ち着いた口調で尋ねてくる。


「私は大丈夫です」

「僕は顔と背中が痛いです」

 俺は少し笑いながらあえて訴えた。


「それは少しお気の毒でしたね」

 阿比留さんは少し苦笑いだ。

「まぁ、除霊は時に苦しみや痛みを伴いますので仕方ない面もありますね」


「まさかこんな物理的な痛みを伴うとは思いませんでした」

 そう言って美優ちゃんの方をチラッと見る。


「もう、本当ごめんて。その話しはまた後で、ね?」

 美優ちゃんが困った様な表情を見せる。


「ははは、まぁ今回はちょっと物理的な痛みが大きかったとは思いますが、では本題に入りましょうか」

 そう言って阿比留さんは真剣な顔つきに変わった。


 そしてその場にいた全員が固唾を呑んで静まる。


「まず現れた女性の霊はあの場所にいた地縛霊の一種だと思います。林さんがそこに住んでいたから林さんに取り憑いた様になってましたがね」


「ちょ、ちょっと待って下さい。僕が女の霊を感じたというか、異変を感じたのはある山の駐車場に行ってからなんですが?」


「はい。私もそうお聞きしました。ですのでここからは私の推測になりますが、恐らくそれまでも林さんの部屋には霊がいて林さんにも憑いたりしてたんでしょう。それがそうした心霊スポットに行く事によって多数の人が『ここには霊がいる』『あれはひょっとして霊じゃないか』等と思う事でそう言った思念が集まり林さんに憑いていた霊に影響を与え、より強く表に出てきたんだと思います」


「じゃあ、あそこで自殺したっていう女の人とかは関係なかったって事ですか?」


「そうですね。直接的な関係はなかったと言えると思いますよ。ただ、そこにもしその自殺した別の地縛霊がいたとしたら負の思念同士の相乗効果により林さんに憑いていた霊に影響を与え間接的には関係なかったとは言い切れませんね」

 阿比留さんは冷静に淡々と説明を続ける。


「さて、そして今回の霊についてなんですが、実は完全に除霊出来たかと言うとそれはわかりません」


 その場にいた阿比留さん以外の全員が無事終わったと思っていたので呆気に取られる。

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