第40話 心の在り方
-健太-
「ちょっと待って下さい。まだ終わってないって事ですか?」
美優ちゃんも驚き少し語気が強くなる。
「う~ん。難しいですね。何と言うか、あのクラスの地縛霊は怨霊と言ってもいいクラスだと思います。その怨霊を完全に祓おうと思うともっとしっかりと準備した上で臨まなければいけません。今回は林さんに悪い事が起こる前に緊急で行ったので完璧ではないのです」
全員が静まり返りお互いの顔を見合わせる。
「えっ!?じゃあ、あの家に住んでる俺はまた取り憑かれたりするって事ですか!?」
俺は慌てて阿比留さんに尋ねた。
「まぁ落ち着いて下さい。先程、お祓いしたので今すぐ何かあるって事はないと思われます。わかり易く言うと霊が表面化する前のような状態だと思って下さい。ずっと今まで住んできてもつい数ヶ月前までは特に影響はなかったでしょう?」
「あぁ、確かにそうですね。じゃああの家に住んでても暫くは大丈夫なんですか?出た方がいいんですか?」
「そうですね。引越して出れるのなら1番かもしれませんが、高校生の身ではさすがに厳しいでしょうし、先程片付けはしましたが御札などはそのままにしてる物もありますのでとりあえずは住んでいても大丈夫ですよ」
そう言って阿比留さんは優しく微笑んだ。
自分の部屋に霊がいるかもしれないと思ったら、正直、居心地がいいわけがない。
それに自分の家に地縛霊がいるとしたら、どうしても聞いておきたい事があった。
「阿比留さん。恥を忍んでちょっとだけ質問してもいいですか?」
俺の真剣な雰囲気に、その場が静まり返る。
「ええ、勿論どうぞ」
「自分の家族は正直バラバラになってます。父親は恐らく愛人の所に出て行ったきり帰って来ません。母親もそんな父親を無視して自分の好きな事だけをして現状をなんとかしようともしません。そしてそんな両親を見ていて早く家を出たいと自分は思っています。隣の建設会社の件も踏まえて、霊の影響だと思いますか?」
あまり多数の人の前で自分の身の上話しなどするような事ではないが俺はどうしても気になっていた。
「・・・なるほど。難しい質問ですね。世間一般では家族がバラバラになってる人達はいっぱいいます。建設会社にしても不祥事を起こしたり倒産したりする会社はいっぱいあります。ですので林さんのケースが霊の影響だとは一概には言えません。ただ全く影響がなかったとも言えません」
阿比留さんは俺の方を向き真剣な眼差しでさらに続ける。
「どちらにしても林さん。そんなにマイナスな方にばかり考えてはいけませんよ。貴方の為にこんなにしてくださる彼女がいます。そしてそのお母様までこうして良くしてくれています。貴方の周りには沢山素晴らしい方が集まってくださっています」
阿比留さんは最後に優しい口調で語りかける。
「ようは心の持ちようですよ。普段から『あれは霊のせいかも』『これは霊のせいだ』そんな風にネガティブな要素を探すより、周りにいる方々と楽しく前向きに生きていれば霊が悪さする隙もありませんよ」
俺はいつの間にか目に薄ら涙を浮かべていた。
目からウロコとは正にこの事だろうか。
俺は、自分ばかり嫌な事が起こっている、なぜ自分ばかりこんな目に会うのか、そんな風に考えるようになっていた。
そんな悲劇のヒロインを気取っていたらそれこそ今ある幸せを自ら手放していたかもしれない。
「本当に今日はありがとうございました」
俺達は阿比留さんを駅に送りに来ていた。
「本当に駅まででよかったんですか?」
美優ちゃんのお母さんが尋ねる。
「はい。大丈夫ですよ。1人電車に揺られるの好きなんですよ」
阿比留さんはにこやかに答える。
「それと林さん。今後、明らかに霊の影響が出始めたらおっしゃって下さい。ここまで来たら最後まで責任持って対処いたしますので」
「本当にすいません。その時はお願いします」
俺は深く頭を下げる。
「あと佐宗さん」
美優ちゃんとお母さんが顔を見合わせる。
「あ、すいません。娘さんの方で」
阿比留さんは苦笑いを浮かべながら軽く頭を下げる。
「貴女は最後、霊が少し入りましたね?今後その影響で少し霊に対して敏感になってしまうかもしれません」
「えっ!?どういう事ですか?」
美優ちゃんは困惑の表情を浮かべる。
「貴女は元々霊が見えたりしてたんですよね?ですので霊が入った影響でそういった力がさらに開花してしまい、今まで以上に見えたり、霊の感情や思念がわかるようになってしまうかもしれません」
「えっ、嫌です。困ります。そんな力いらないです」
美優ちゃんは何故か阿比留さんに毅然とした態度で断っている。
「いや、まぁそういった力はいらないからといって簡単に捨てれる物でもないので諦めて上手く付き合っていって下さい」
阿比留さんは少し困った様子で笑っていた。
「それでは皆さん今日はお疲れ様でした。また何か御縁がありましたらよろしくお願いいたします」
そう言って阿比留さんは帰って行った。
「最後まで物腰の柔らかい丁寧な人だったな」
阿比留さんを見送りながらそう呟く。
「まぁしっかりした大人の対応って感じよね」
美優ちゃんも阿比留さんを見つめながら呟く。
「大人の魅力みたいなの感じた?」
思わず美優ちゃんの方を見ながら聞いてしまう。
「ふふふ、さぁひとまず帰ろう。お母さん今日晩御飯どうするの?」
「この時間だから作るの面倒だし何処かで食べて行こうか」
『え、ちょっとさっきの答えは?』
そう思いながらもお母さんがいるのでこれ以上は聞けなかった。
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