第3話 赤い服の女

『ハァハァ、ハァハァ』

 息遣いが荒くなる。

『何なんだあの女は』

 何処までも続く螺旋階段を駆け上がりながらそう呟いた……。


 -美優みゆ

 夏休みも終わりが近づき夏期講習も一段落したので朱美と久し振りに隣町にでも買い物に行こうって事になった。

 待ち合わせ場所の駅の改札で一人、朱美を待っている。


「やっほー。お待たせ。」

 すぐに元気良く朱美が来た。


「ああ全然待ってないよ。ホント2、3分前に私も来た所だから」


「そうなんだ。よかったよかった。」

 二人でそんな事を言いながら笑い合っていた。


『○番線に電車が参ります。御乗車のお客様は白線の内側まで下がってお待ちください』

 とアナウンスが流れてくる。


「あっヤバい!この電車に乗らなきゃ」

 2人で慌ててホームへ降りて行った。


 隣町のショッピングモールに着き一通りお店で買い物を楽しんだ後、喫茶店でちょっと休憩でもしようと言う事になった。


「ねぇ美優さぁ、前に言ってた健太君いるじゃん」


「えっああ、あの駅前のコンビニで会った彼だよね」


「そうそう、その彼にね『その時一緒にいた美優って子が気になるかもって言ってたよ〜』ってこの前伝えたんだけどね」


 私は焦り、思わず飲んでいたアイスコーヒーを朱美に思いっ切り吹き掛けそうになった。


「いやいやちょっと待って。本当にそれ言ったの?私が気になってるって?」

 朱美も私の顔を見て慌てだした。


「えっ、あっ、ごめん!違った?気になってるんじゃなかったっけ?」

 2人で何故かあたふたしてしまう。


「違う違う。そうじゃなくて」

 1呼吸置き少し落ち着いてから朱美に確認する。


「私が気になってるって、好意があるって言っちゃったの?」


「えっ、うんそう。そう言っちゃった」

 朱美は少しバツが悪そうに笑ってる。


「はぁ〜」

 深くため息をつく。

「初めにこっちの気持ちわかってたら向こうも『この子は楽に落とせるぜ!』みたいなテンションにならない?」

 私はちょっと拗ねながら言ってみた。


「大丈夫!それは大丈夫!健太君はそんな事ないから。多分健太君は寧ろこっちからそれぐらい隙見せないと積極的に動いてくれなさそうだし」


「えっそうなんだ。以外かも」

 私は少し驚いた。少し話した程度だったが、それ程奥手な印象は受けなかったからだ。


「そうなんだよねぇ。モテそうなんだけどねぇ。少なくともこの半年は彼女いないはず」


 それを聞いて私は少しホッとした。

 自分が気になる人に彼女がいたならその時点でもうアウトなんだから。


「そうそれでさぁ、今度4人で遊びに行こうよって言ってた矢先仲間内の人がバイクで事故しちゃってそこから話し出来てないのよ」


 朱美が少し悔しそうに言う。


「まぁ友達が事故しちゃったんじゃしょうがないじゃん。別に私はそんな焦ってる訳じゃないから」

 本当は早く会ってどんな人かお話ししてみたいけどちょっと強がって笑った。


「いや私は焦ってるよ!早く2人を会わせて、仲良くなったら4人で遊びに行きたいもん」

 朱美も楽しそうに笑っていた。


 確かに私もそうなったらいいなぁ、と内心期待していた。


 -健太けんた

 あの事故から数日が経ち佐和子の奇妙な言動も忘れてきた頃またちょっとした事件が起こった。


 その日部屋でゴロゴロしながらテレビを見ていると

 外から人が騒いでる声と共に『パチパチ、パチパチ』と音がする。


『あぁ誰か外で花火でもしてるのか~』そんな風に思っていたが余りにも騒がしいので

『あぁうるさい!誰だいったい!?』

 と思い窓を勢いよく開けると


 ブォーーーー!!

 凄まじい勢いで目の前に炎と煙が迫ってきた。


『火事だー!』

『林さーん逃げてー!』

『林さーん隣が火事だぞー!』

 そう隣の空き家が火事になって今にも我が家に燃え移ろうとしていたのだ。


「やっべぇ」

 思わずそう叫ぶと即座に1階へと駆け下りて行き俺は家の外に慌てて出た。


 俺が花火で騒がしいと思ってたのは近所の人が必死に火事を知らせてくれてたんだとこの時知った。


 暫くして消防車が到着し火事はすぐ消し止められた。


 我が家はなんとか壁の一部が焦げ俺の部屋の窓ガラスが熱で割れたぐらいですんだ。


『あの事故があって今度は火事に巻き込まれて散々な夏休みだな』

 俺がそう思っているとノブから電話がかかってきた。


「おい大丈夫か?」


「あぁちょっとびっくりしたけどな」


「健太の家が燃えたのか?」

 ちょっと情報が間違っているようだ。


「いや隣りの空き家の方」

 俺はちょっと笑いながら言った。


「あっそうか。健太の家が燃えたと思ったわ」


 どうやら結構心配してくれてたようだ。有り難い。


「ただ壁焦げて俺の部屋の窓割れたけどな」


「うわっ最悪だな。でも隣りの家って前も火事なってなかった?まさかの2回目!?」


 そう正にノブが言うように隣りはまさかの2回目の火事なのだ。


 元々建築会社の3階立てのビルで1階が倉庫、2階が事務所、3階が従業員の寮になっていた。


 従業員の寝タバコが原因で3階部分が焼ける火事になり、補修される事もなく取り壊される事もなく暫く放置され、そして建築会社ごといつの間にかトンズラ。


 数年が経ち地元では『幽霊ビル』とか噂されるぐらいになっていた。


 -信之のぶゆき

 あの事故から数日が経ち夏休みも終わりに近づいてきた頃朱美からLINEが来た。


『健太君に美優早く紹介したいから健太君の予定聞いといて』


 そっか、そっか早く美優ちゃん紹介して健太にも早く彼女作ってもらわなきゃな。


 少なくとも美優ちゃんなら見た目は問題ないだろう

 寧ろ健太の方だな。


 見た目は大丈夫だろう。何より美優ちゃんの方が好意を持ってくれてるんだから大丈夫だ。


 問題は健太の内面的な所だな。前の失恋のせいで全く自分から動こうとしない。


『まぁこっちでうだうだ考えても仕方ない健太に連絡するか』

 そう思いLINEを送るが5分、10分、暫く待っても連絡がない。


『おかしいなこの時間なら家にいると思ったんだけどな』

 そう思いバイクに乗り健太の家に向かっていると俺の向かっている方向に消防車が何台も行く。


『おい!あれって健太の家の方じゃないか!?』

 そう思い慌てて電話するがやはり出ない。


「おいおいまさかアイツの寝タバコが原因で火事とかじゃないよな」

 そんな悪い想像ばかりしながら暫くしてもう1回電話すると今度は健太が出た。


「おい大丈夫か?」


「ああちょっとびっくりしたけどな」

 どうやら無事のようだ。


 健太の話しによると隣りの空き家が燃えたらしい。

 部屋の窓ガラスが割れて困ってそうだったので

「じゃあ今日はウチ来るか?」

 と聞いたら


「おお有り難い。部屋の中が煤だらけになってるから軽く片したらそっち行くわ」

 と言っていた。


 とりあえず健太の家も本人もほぼ大丈夫っぽいから一安心だ。


 そう思いながら朱美に

『今度は健太の家の隣りで火事が起こったらしい。予定ヤバいかも』

 そうLINEを送る。

 本当に最近ロクな事がない。


 -朱美あけみ

 お風呂から上がるとLINEが来ていた。


「あっノブからだ」

 すぐにLINEを開けると。


『今度は健太の家の隣りで火事が起こったらしい。予定ヤバいかも』


「えっマジで!?」

 思わず声が出た。


 やっと美優に健太君紹介できると思ったのに何故にこんなに障害ばかりが起こる?


『健太君は大丈夫なんだよね?予定はやっぱりヤバそう?』

 ノブにLINE送るとすぐに返ってきた。


『とりあえずもうすぐしたら健太が家来るし、その時聞いてみる』

 こっちはもう待つしかないので

『お願いね♥』

 とLINEしてすぐに美優に連絡した。


 -健太-

 部屋の割れた窓ガラスを集めて軽く煤を拭くとノブの家へ向かった。


 どうやら隣りの火事のせいで家の電気系統までやられたらしく窓ガラスは無いわ電気もクーラーもつかないわでとてもじゃないが家にいる気になれなかった。


 何より悪い事が立て続けに起こり過ぎて1人でいるのが嫌だったのだ。


 ノブの家に着き、たわいもない事で談笑していると


「そう言えばな朱美が美優ちゃん紹介したいけど予定いつが空いてるって聞いてたぞ」


 おぉ朱美様。貴方は本当に女神です。

 そう思いながら


「いつでもいい!本当は明日でもいいぐらいだけどさすがに明日は警察とか消防に色々聞かれるっぽいから無理やけど」

 俺は若干興奮気味に答えた。


「おっ本当にか!?最近色々あった上に今日の火事で暫くはやめとくかと思ってたけど」

 ノブも若干テンションが上がったようだ。


「いやこんなに悪い事ばかり起こってるからこそ楽しい予定を入れるべきだ!」

 俺がそう気合いを入れて力説する。


「よし!朱美に連絡するわ!」

 とノブがすぐに朱美ちゃんにLINEを送った。


 その後いつにするか何処に行くか話してるうちに俺は眠ってしまった。


 気が付くと俺はバイクに乗っていた。

 ノブも一緒だ。


「おいこっちで合ってるよな?」

 ノブが聞いてくる。


「おお大丈夫なはず。もうすぐ追い付くやろう」

 俺はそう返す。


 俺達は皆から遅れてしまったので修学旅行に追い付こうと必死でバイクを走らせていた。


 そして修学旅行先のテーマパークへ着き、皆と合流する。

 皆も既にテーマパークに着いていて口々に


「おっやっと追い付いたか」


「おお間に合って良かった良かった」


「まぁこんな時まで遅れて来るもんな」

 そう言いながら集まってきてくれた。


 そして皆でテーマパークを練り歩いていると

 佐和子さわこが1人手招きしている。


「健太君ちょっとちょっと」

 佐和子が呼んでくる。


「どうした?どうした?」

 不思議に思い近寄って行くと


「ねぇこの扉何処に通じてると思う?」

 確かに一面大きな壁にそこだけポツンと扉があるようでちょっと不自然だった。


「うーん裏口とかじゃないのか?」

 そう言って扉を開けると殺風景なだだっ広いホールに出た。


 そしてそのホールの真ん中にはずっと上まで続いているような螺旋階段があった。


「なんだこの螺旋階段は?」

 そう言いながら螺旋階段を暫く上がっていると


 バタン!!

 扉が閉まるような凄い音がした。


 階段から下を見下ろすと自分が入ってきた扉の所に赤い服を着た女が立っていた。


『俺はいつの間にこんな高い所まで登ってきたんだ?』

 そう思っていると赤い服を着た女がゆっくりとこっちを向いた。


 その女は赤いワンピースを来て黒髪ロングヘアー前髪はパッツンと揃えてある。


 正に日本人形のような髪型をしていた。


 そして俺をジッと見てきた。

 その表情は怒るでもなく哀しむでもなく、まったくの無表情で目だけはしっかり見開いて俺を見てくるのだ。


 もう俺の恐怖は最高潮に達した

「うわぁぁぁー!!!!!!」


 ソファの上で飛び起きた。

 全身汗でぐっしょりだ。

「ゆ、夢か・・・」

 最悪な悪夢だ。


「お、おい大丈夫か?どうした?」

 ノブがびっくりしながら聞いてくる。

 俺のせいで起こしたようだ。


「いや、最悪な夢みた。・・・ヤバいやつ」

 そう言って時計を見ると明け方4時ちょうどだった。


「とりあえずもう1回寝ようぜ」

 ノブがやれやれと言った感じで言うと

「そうだな」

 俺もそう言って横になった。


 そしてまさにこの日から悪夢が始まった。

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