第4話 続く悪夢

 -朱美-

 朝起きるとノブからLINEが来ていた。


『健太はいつでも大丈夫らしい。最近ロクな事がないから早く美優ちゃんに会いたいみたいやぞ(笑)』


 ヨシ!

『健太君も乗り気なら早くしなくちゃ』


 そう思いノブに早速LINEを打つ。

『本当に健太君いつでも大丈夫なん?もし大丈夫なら軽く明日にでもカラオケかボーリングでもどう?』


 まぁあの2人の事だからまだ寝てるだろうしひとまず美優と予定を詰めよう。


 そう思い美優に電話すると

「はい。どうした?」


 すぐに美優は出た。

「出るの早い!ひょっとして私の連絡待ってた?」

 笑いながら聞くと


「違う違う。さっき起きてまだボーっとスマホでニュースチェックしてたの」


「あぁオジサンが毎朝、ベンチで朝刊広げてるような感じか」


「ちょっと待て!例えが酷い!!」


「あははははは!」

 朝からひとしきり笑ってから


「あのね健太君いつでもOKらしいよ」


「えっ!?そうなの?昨日火事にあったんじゃないの?」


「うん。そうらしいんだけどなんか大丈夫みたい。健太君も美優に早く会いたいんじゃない?」


「いやいやそんな事ないでしょ。多分健太君は私の事そんな憶えてないと思うし」

 美優はそう言っているが電話の向こうでは喜んでいるのが伝わってきた。


「それでね早速明日とかどう?」


「あ、明日?えっ用意も何もしてないよ!?」

 美優が珍しく焦っているようだった。


「用意ってなんの用意よ?勝負下着とか?」

 笑いながら聞いてみる。

 多分はたから見たら私は今凄く意地悪な笑顔を浮かべているんだろう。


「違うわバカ!気持ち的な事に決まってるでしょ!」

 美優ももう笑ってる。


「まぁまぁとりあえず向こうがOKならカラオケかボーリングでも、って思ってるんだけどね」

 そんな事を話しながら、その後2時間ほどたわいもない話題で盛り上がっていた。


 -信之-

 午前11時太陽の眩しさで目が覚める。


「うおー良く寝た」

 大きくノビをすると健太がまだ寝ている。


「本当ほっといたら何時までも寝る奴だな」

 とは言え昨晩は大変だったろうしもう少しそっとしとくか。


 そう思ってスマホを見ると朱美からLINEが届いてた。

『本当に健太君いつでも大丈夫なのかな?もし大丈夫なら軽く明日にでもカラオケかボーリングとかでもどう?』


 なるほど健太も早く遊びたいって言ってたしな。


『多分明日でOK。健太が起きたら最終確認するわ』

 そう朱美にLINEを打ち終わるとほぼ同時に健太が起きた。


「あ、やべぇ何時だ?」

 健太はまだ寝ぼけているようだ。


「もう11時だぞ」

 そう笑いながら教えてやると


「確か昼から警察と消防が現場検証するから家にいとくよう言われてた」

 そうは言うものの健太は特に焦る様子もなかった。


「お前の方が被害にあってるのに現場検証にも付き合わされるの?」

 ちょっと笑いながら言うと


「そう!正にそれ!」

 健太は面倒くさそうにしてた。


 しかし諦めがついたのか

「仕方ないとりあえず帰るわ。」

 そう言うとスっと立ち上がり片手を上げて


「ありがとうな!」

 まるで映画のワンシーンの様に颯爽と帰って行った。

 ・・・・・・しまった!!


『明日の予定聞くの忘れてた!』


 慌てて『明日にでも美優ちゃんとカラオケかボーリングでもどう?』

 そうLINEを送って今日の昼はラーメンでも食べようかなっとか考えていた。


 -健太-

 自分の家に帰って来ると既に消防と警察が現場検証を始めていた。


「しかし昼間に見ると酷いなぁ」

 真っ黒になった自分の家の壁を見て思わず口に出す

 結局昼過ぎには現場検証も終わった。


 警察が言うには火の気もなく空き家だった事もあり放火の可能性が高いらしい。


 しかも放火の場合この後連続放火でも起きない限り現状では犯人を見つけるのは難しいらしい。


『なんてこった。完全に泣き寝入りじゃねぇか』

 そんな事を思いながらスマホを見るとノブからLINEが来ていた。


『明日にでも美優ちゃんとカラオケかボーリングでもどう?』

 いきなり明日か。確かに「早く」とは言ったけど本当に早いな。


 そう思いはしたがやはり待ち遠しい気持ちになり

『明日楽しみだな』

 そう思いながらノブにLINEを返した。


 -美優-

 朱美との長電話も終え私は机に向いた。


『明日楽しむ為に今日は受験勉強頑張ろう』

 そう思い机に向かってはいるもののサッパリ身に入らない。


「ああダメだ。集中出来ない」

 そう言うといつの間にか天井を見上げていた。


「カラオケかボーリングかぁ。カラオケはともかくボーリングはあまり行った事ないなぁ」

 そう言いながらベットに身を投げだす。


「ふぅ、・・・勝負下着ねぇ」

 朱美が馬鹿な事言うから思わず考えてしまった。


「ないない。それはないって」

 1人で喋って1人で突っ込んでいた。

 この時私は少し舞い上がっていたんだと思う。


 そして暫くして少し冷静に考えてみた。


 そもそも私はなんでそんなに健太君の事が気になってるのか?


 あの時だってたいして喋ったわけでもないしなんでだろう?


 周りに流されてその気になってるとか?


 いやいやそんな事ないか。はじめに気になったの私の方だし。


 ひょっとしたら私の中で勝手な理想像を健太君に作っちゃってるのかも。


 もしそうだったら健太君に失礼だし、もし勝手に作り上げた理想像と違ったらショック受けるだろうし、

 あぁダメだ。考えたら考えるほど怖くなってきた。


 そしてこの時、私は完全に勉強の事など忘れていた。


 -健太-

 ひとまず部屋の掃除をある程度終えると後は割れた窓をなんとかしなくちゃならない。


『雨降ったりすると流石にまずいからとりあえずベニヤ板かダンボールはめ込むか』

 そう思いホームセンターに材料を買いに行こうと家の外に出ると焼けた匂いがまだ辺りに漂っている。


 我が家の隣りに建つ『幽霊ビル』は壁だけが崩れ落ちたが建物自体はしっかりとまだ建っていた。


『幽霊ビルに拍車がかかってるな』

 そう思い鼻で笑うとホームセンターに向けて走り出した。


 ホームセンターから帰りとりあえず窓に応急処置でベニヤ板をはめ込んだ。


 煤だらけになった部屋を半日かけて掃除してなんとかソファやベットは使えるようにはなったが匂いが酷い。


『とりあえず今日もノブの家に泊めてもらおうかな』そう思いノブにLINEするとすぐに返ってきた。


『いいぞ!ついでに明日遊びに行く服とかも持って来いよ』

 おお、この焼けた匂いが充満してる部屋を脱出出来るのは有り難い。

 早速明日の用意をしてノブの家に向かった。


 その日の夜はノブと2人で明日の事で盛り上がった。


 そして日付けが変わる頃に、明日寝不足で行くのは嫌だな、と言う事になり早めに眠りにつく事になった。


『ん?なんだ?』

 向こうで佐和子が手を振っている。


 近寄って行くと

 そこは一面大きな壁があって1箇所だけ扉があった。

「ねぇねぇこの扉何処に通じてると思う?」


「うん?裏口とかバックヤードとか?」

 そう言いながら扉を開けるとそこには螺旋階段があった。


『なんだこの螺旋階段は?非常階段とかか?』

 そう思い登っていると


 バタン!!


 扉が閉まる音が響き渡る。


 そしてその扉の横には赤い服を着た女が立っていた。

 その女と目が合うと俺は恐怖に駆られて一目散に螺旋階段を駆け上がった。


『ヤバい。あれは絶対ヤバいやつ』

 そう思いながら下を見下ろすと赤い服の女は俺を無表情でジーッと見つめながら追いかけてくる。


 俺は全力で駆け上がってるにもかかわらず赤い服の女との距離は縮まって来ていた。


『ハァハァ、ハァハァ』

 息遣いが荒くなる。


『なんなんだあの女は!?』

 何処までも続く螺旋階段を駆け上がりながらそう呟く。


 そして振り替えるともうすぐ傍まで女は迫っていた。

『ダメだ。追い付かれる』

 その時下の方から声がした。


『下!下に飛んで!』


『誰だ!?』

 そう思うが誰だか顔はわからない。


 そして振り返った瞬間、眼前に女の顔があった。

 目は見開き無表情のままジッと俺を見つめてくる。


「うわぁぁぁ!!」

 またソファの上で飛び起きた。


「えぇー!?どうした?どうした!?」

 俺の叫び声にノブもびっくりして飛び起きたようだ。


「はぁはぁ。また怖い夢だ」

 心臓は高鳴り、息遣いは荒く、汗びっしょりだ。


「えぇ?また~?」

 ノブが困惑しながら言う。


 それはそうだ。2日続けて悪夢で飛び起きてるんだから。

 しかも今回も起きたのは明け方4時ちょうどだ。


 そして不思議なのは2日続けて同じ夢を見た事だ。

 いや正確には同じ夢じゃなく2日続きの夢だ。


 夢の続きを2日かけて見る事なんてあるのだろうか?


 何より1番不気味なのはあの赤い服の女の『目』だ。

 あの何を考えているかわからない不気味な目。そしてその表情。


 それらを思い出すと鳥肌が止まらなかった。

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