第5話 出会い

 -健太-

「ほら、お茶持ってきたぞ」

 ノブがそう言ってペットボトルの緑地を1本持ってきてくれた。


「おお、ありがとう」

 例の悪夢にうなされていたせいか異常なほど乾いていた喉を緑茶が潤す。


「ふぅ~、まさに生き返るわ」

 そう言いながらソファに軽く腰掛け、2日続けて見た悪夢について考えてた。


「で?いつもこの時間に悪夢を見るのはお前の日課なのか?」

 ノブが少し呆れた様な笑顔で聞いてくる。


「いやいや、こんなん日課にしてたら身体がもたねぇわ」

 そう笑いながら言うものの、頭の整理が追いつかないでいた。


「なぁ、2日続けて1つの夢を見るってあると思うか?」

 ノブはオカルト系は苦手だったので少し躊躇したが1人で考えていても仕方ないないので思い切ってノブにも聞いてみる事にした。


「?・・・2日共、同じ夢を見たのか?」

 ノブが少し困惑したように聞いてくる。


 確かに今の言い方ではちゃんと伝えきれてないな、と思い昨日見た夢から順を追って説明する事にした。


「いや、そんな事ある?2日続く夢なんて。・・・だいたい佐和子は同じ学校でもないし、修学旅行は寺巡りからの山奥の温泉施設っていうテーマパークなんか、かすりもしないコースやったやろ」

 ノブが両手を広げながら少しオーバーアクションで言う。


「いやまぁ夢なんてそんなもんやろ?本来そのシチュエーションでいるはずがない人が一緒にいたり、いきなり場面が変わったり・・・本当は俺は修学旅行はテーマパークに行きたい願望があったからそんな夢見たんかなぁ・・・」

「って、そんな事じゃない!俺は2日続いて見た悪夢と最後に出てきた赤い服の女の事が気になってるんや!」

 俺はちょっと長いノリツッコミをしてみた。


「ははは。まぁ確かに不思議やけど最近ロクな事ないから気になって変な夢見たんちゃう?」

「早朝からお前と漫才してたら目が覚めてしまったわ」

 ノブはそう言って困った様に笑ってた。


 -美優-

『ジリリリ・・・』

 鳴り始めた目覚ましを素早く止める。


 そう、私は結局セットした目覚まし時計より1時間程前に目を覚まし既に支度を始めていた。


「はぁ、化粧濃すぎないかな?大丈夫かな?ナチュラルメイクでいぃよね?」

 1人でそんな事を呟きながら鏡を覗き込む。


『朱美にテレビ電話で相談しようかな?・・・いやからかわれてネタにされる可能性が高いからやっぱりやめとこ』

 そう思い次はクローゼットを覗き着ていく服を選ぶ。


「あぁどんな服がいいんだろう?そもそもパンツ?スカート?・・・」

 私は考えれば考えるほどわからなくなってきていた。


「だいたい紹介ってされた事ないからどうしたらいいのかもよくわかんないな」

 既に体力の半分ぐらいを使い果たしベットに腰掛けてそう呟いた。


 -朱美-

 紹介当日。ノブ達と会うより30分前に美優と合流する事になっていた。

「う~ん。珍しいな」

 そう言いながら腕時計を見る。


 基本、美優は待ち合わせ時間より5分~10分早く来ている。

 なのに今日は既に5分過ぎていた。


『ひょっとしたらどんな服着ていくか悩んで1人ファッションショーでもしてたりして』

 そんな事を考えながら1人待ち合わせ場所で佇んでいると


「ごめんごめん。遅くなっちゃった」

 少し息を切らしながら美優が来た。


「あぁ大丈夫大丈夫。そんな待ってないから」

 そう言って笑顔で返すと


「本当?よかった。それはそうとなんかニヤニヤしてなかった?」

 美優は少し探るように私の顔を覗き込んでくる。


「えっ!?あぁ、ほらやっと4人で遊びに行けるなぁって思ったら嬉しくて・・・それはそうと美優、今日はちょっと攻めてセクシーな感じで来るかと思ったけど普通な感じで来たね」

 上手く誤魔化しながらあえてニヤニヤしながら言ってみた。


「いやいや、そもそも私はそんなセクシーな服は持ってないし。まぁ何着て行くか悩んでるうちに時間経っちゃって今日遅れちゃったんだけどね」

 美優は眉毛を八の字してちょっと困った様な笑顔を向けてくる。


『ズバリ当たった』

 そう思いながらノブ達との待ち合わせ場所に歩き出した。


 -健太-

 結局あれから寝る事が出来ないまま寝不足で紹介の時を迎えてしまった。

『あの悪夢のせいで最悪なコンディションだな』

 そう思いながら口数も少なく歩いていると、


「どうした?緊張してるのか?」

 ノブがちょっとニヤつきながら言ってくる。


「いや、そりゃ緊張もするけど何より寝不足でちょっと辛い」

 隠しても仕方ないので正直に言う。


「それもある意味赤い服の女の呪いやな」

 ノブはそう言って笑うが俺は上手く笑えなかった。


 そんなくだらない事を喋りながら歩いていると、少し先に女の子2人が手を振っているのが見えた。


「おっもう着いてるみたいだぞ」

 ノブがそう言うと2人で足早に向かう。


「お待たせ。ごめん、ちょっと待った?」

 ノブが少し顔をしかめながら朱美ちゃんに声をかけるとほぼ同時に


「ひゃっ」

 美優ちゃんが上ずった声でこっちを向いて固まる。


「どうしたの美優?固まっちゃって」

 朱美ちゃんが笑いながら美優ちゃんに話しかける。


「あっいや、ごめんなさい。急に変な声出ちゃった。」

 そう言いながら美優ちゃんは下を向いて照れている様だった。


 美優ちゃんは170cm近くありそうなスレンダーな体型で切れ長な二重の目はクールな印象を与えてくる。

 それだけに今、下を向いて照れている様は可愛らしく見えてそのギャップにもうやられそうだった。


「あっほら自己紹介、自己紹介」

 そう言って朱美ちゃんは笑いながら場を進めようとしてくれる。


「あっ、は、はやし 健太けんたです」

 自分のペースで進めてないせいか、ぎこちない堅い挨拶をしてしまう。


「えっ、あ、佐宗さそう美優みゆです。よろしくお願いします。」

 美優ちゃんは軽く頭を下げる。


「ちょっと、ちょっと。何でフルネームでお堅い挨拶してんの?」

 朱美ちゃんはツボにハマったらしくお腹を抱えて笑っている。


「お願いだから『林君』『佐宗さん』て呼び合うのだけはやめてね」

 朱美ちゃんは目の涙を拭いながらまだ笑いが止まらない様子だった。


 俺はまだこの時、夢の事が頭に残っていて集中しきれていなかったので

「ごめん美優ちゃん。俺が変な挨拶したせいだね」

 すかさずフォローし、『なんとしても今日は成功させて楽しむんだ』と自分に言い聞かせていた。


 そこからはボーリング場に移動し、いたって普通にWデートを楽しんでいた。


 時折、美優ちゃんは上の空になって話しを聞いてない様な所もあったけどちょっと天然な所がまた可愛かった。


 その日は結局LINEの交換だけして解散となった。


「おい、朱美ちゃんにもありがとうって伝えといてくれよ」

 ノブに別れ際に朱美ちゃんへの感謝を託す。


「おお、任せとけ。それはそうと美優ちゃんと結構良い感じやったな。」

 ノブも満面の笑みを浮かべてる。


「そうだな。美優ちゃんもよく笑ってくれてたし楽しかったわ」


「じゃあ後は上手い事進めろよ。」

 ノブはずっと笑顔だ。


「おお、わかってる。マイペースで進めるわ」

 そう言って片手を上げると


「お前のマイペースはちょっと不安やけどな、・・・美優ちゃんぐらい『べっぴんさん』滅多に出会えないんやしもうそろそろ進もうぜ。」

 ノブはそう言ってさっきより少し困った様な笑顔をしている。


「そうだな。それも色々わかってるつもりやねんけどな」

 そう言ってノブとも別れお互い帰路についた。


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