第7話 朱美と美優

 -朱美-

「ふぅ。・・・なるほどね・・・」

 思わずため息が出る。


 今日の美優を見ていて少しいつもと違うのは感じていた。

 でもそれはただ緊張してるだけだと思っていたがまさかそんな理由だったとは。


「今の話し信じられる?」

 美優はなんとも言えない表情で微笑みかけてくる。


「うん。そうだね。・・・にわかには信じがたいけど、美優がそんな作り話する訳もないからね」

 私も笑顔で返していたが多分少しぎこちない笑顔になってたと思う。


「ふふ、信じてくれるんだありがとう。でも久々に見たよ。しかもあんなにヤバそうなのは初めてかも」

 美優が真剣な顔つきに変わっていた。そして

「健太君大丈夫かな?あのままだとなんか嫌な予感がするんだけど」

 美優からは悲壮感が漂っていた。


「うん。確かに心配だけど、でもどうする?」

 さすがに私も真剣になってる。


 何故なら、美優の話しはにわかには信じがたいけど、ここ最近、健太君の周りで起こっている事を考えたら寧ろその女の霊の仕業だって思った方がしっくり来る。


「そうだよねぇ、健太君になんて言えばいい?『私、霊が見えるんだけど健太君の後に赤い服を着たヤバそうな女の霊が見えるの』、なんて言ったら絶対私の方がヤバい女だって思われるよね?」

 美優は身を乗り出して私の方にグイっと迫ってくる。


「ふふふ、もうちょっとやめて。美優が真剣にそんな事言うから笑えてくるでしょ」

 張り詰めた雰囲気だったのが少し緩んだ気がした。


「あはは、ごめんね。笑わすつもりはなかったんだけどつい・・・」

 そう言って美優は頭を掻きながら眉毛を八の字にしながら笑っている。


「あまりにもグイって迫って来るから私襲われるんじゃないかと思ったじゃん」

 私が笑いながら言うと


「なんでバレたの?」

 美優がニヤリと笑ってこっちを見る。


「ちょっとやめてよ。本当にヤバいヤツじゃんか」

 そう言いながら2人で笑ってた。

 さっきまでちょっと重い雰囲気だったから2人共空気を変えたかったのかもしれない。



 -美優-

 ひとしきり2人で笑った後どうしたらいいのか2人で相談し合ったが良案が出ず

「とりあえず良く効きそうなお守りかお祓いでも探してみようか」

 そう言ってスマホを手に取ると、


「あっ、ヤバい!!」


 1時間も前に健太君からLINEが来ていた。

『今日はありがとう。ボーリング久しぶりだったけど楽しかったよ~。

 美優ちゃんはどうだった?無事家に帰れたかな?

 また今度遊びに行きたいと思うんだけど

 良かったらどういう所行きたいか教えて。』


「うわぁーどうしよう!?無事帰ったらLINEするねって言ってたの忘れてた。LINE来てたのずっと気づかず放ったらかしになってたし、また遊びに行こうって誘われてるし、どうしよう!?」

 嬉しいやら、焦るやら、私はパニックになりそうだった。


「いやちょっと、どれに対する『どうしよう』よ?」

 朱美がちょっと呆れた様に言ってくる。


「あっ、えっと・・・全部?」

 私はちょっと首を傾けながらあざとく言ってみた。


「えっ、何?ノロケ?私帰っていいかな?忙しいんで」

 朱美はそう言って立ち上がろうとする。


「わぁごめんごめん。嘘、嘘、冗談だから」

 私は笑いながら朱美の腰に抱きつく。


「わかった、わかった。

 ほんと今日は落ち込んだり、悩んだり、ノロケたり、あんた忙しいね」

『やれやれ』といった感じで朱美は笑っていた。


「ほら今度健太君に会った時、今みたいに腰に抱きついてみたら?きっと健太君も喜ぶし、女の霊も諦めてどっか行くかも」

 朱美が『名案』みたいな顔して言ってくる。


「出来る訳ないでしょ!それこそ引かれそう」

 私は笑いながら反論した。


「ほらとりあえず健太君にLINE返したら?私もノブにLINEしとくから」

 朱美は優しく微笑んでいる。


「そうだね。まだ朱美と一緒で2人で喋ってたって言っていい?」


「ああ、勿論いいよ。・・・どうしよう、ノブにも相談しようかな?」

 視線をやや落としながら朱美が呟く。


「ノブ君私の話、信じてくれるかな?」

 私はやや不安になる。

 話を信じる、信じない、以前に『変な奴だ』みたいな目で見られるのが怖かったのだ。


「うん、まぁ素直には聞いてくれると思うんだけど・・・ダメなのよ、心霊系。怖がりなの」

 朱美は困った様な笑顔を浮かべてる。


「ああ、それはちょっと可哀想な気もするけど、健太君の事はよくわかってるだろうし、どうしようか。」

 私もどうしたらいいのかわからず困ってしまう。


「う~ん。とりあえず聞いてみようか」

 朱美はそう言ってノブ君に電話をかける。


 ・・・・・・

「あっノブ。ごめんごめん。今美優の家で喋っててさぁ、それで、えっとねぇ・・・う~んと・・・・・・」

 朱美もどうやって切り出したらいいか、悩んでいるようだ。

 それはそうだろう。

 心霊系が苦手な人にいきなり『貴方の友達、女の霊憑いてない!?』なんて聞けないし、そもそもそんな話どうやって信じてもらったらいいかわからないし。


「なんて言ったらいいかなぁ?え~と・・・健太君から赤い服着た女の霊の事、聞いた事ない?」


「ブフッ!」

 この子バカなの!?『』って言ってたよね!?

 思わず飲んでたミルクティーを朱美に吹き掛けそうになった。


「えっいや、違う違う、ごめんて、えっ・・・そうなん?・・・ちょっと待って、また後でかけるから」

 そう言って電話を切ると朱美はこっちを向き真剣な表情で

「女の霊の影響もう出てるかも。」

 そう言って私をじっと見てくる。


 ひょっとしたら事態は私達が思っているよりずっと深刻なのかもしれない。



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