第34話 平穏な一時

 -健太-

 部屋に戻ると美優ちゃんが何処かへ電話して明日お祓いに来てもらえる算段をつけてくれた。


 色々してもらって申し訳なく思っていると

「気にしなくていい」

 と言って美優ちゃんは手を握ってくれる。


 なんて出来た子なんだろう、と思いながら2人寄り添い幸せな時間を過ごす。


「ねえ健太君。二日酔いとか大丈夫だよね?」

 唐突に美優ちゃんに聞かれる。


「いや、さすがにビール1杯だったし大丈夫だよ。ちょっと昨日の記憶が曖昧なぐらいかな?」

 少しふざけてみせる。


「えぇ!?ビール1杯だけだったのに!?私にあんなことまでしたのに!?」

 美優ちゃんはわざとらしく驚いてみせる。


「いやいや、冗談だから。それにあんな事って・・・」


「あんなに私は、嫌だ、やめて、お願いって言ってたのに無理やり私の事・・・」


「ちょっと待って!美優ちゃんの記憶の方が明らかにおかしいから」


「あは、違ったっけ?」

 そう言って美優ちゃんはおどけて笑う。


「それだったら俺は犯罪者になってしまう」


「ふふふ、本当だね。とりあえずこれからどうしよっか?今日も泊まっていくよね?」


「泊まっていいかな?それなら着替え1泊分しか持って来てなかったから取りに戻らなきゃ」


「そっか。じゃあ取りに戻るの?私はいい加減勉強もしなきゃやばいから今日は勉強の日にしようかと思ってる」


「そうか、勉強か・・・。俺はあんまりした事ないな」

 俺は苦笑いしながら言った。


「とりあえず家に1回着替え取りに行ってまた戻ってきていい?」


「勿論。また連絡してね。待ってるから」


『なんか同棲してるみたいで良いなこういうの』

 そんな事を考えながら一旦美優ちゃんの所を後にした。


 -美優-

 夕方になり健太君も戻ってきて平穏な時間が流れる。


「ふぅ、ちょっと休憩」

 そう言って勉強の手を止める。


「お疲れ様。頑張ってたね。凄いな」

 そう言って健太君が肩を揉んでくれる。


「へへ、ありがとう。でもたぶん普通だとおもうよ」


「そっか。じゃあ俺は普通以下だ」


「えっ違う。そういう意味じゃなくて」


「はは、いいよ。本当に勉強は全然だし」


「ねえ、本当に進路何も決めてないの?」


「うん。本当に決めてなかった。今更ながらちゃんとしとけばよかったなぁって思ってる所。美優ちゃんも嫌でしょ。彼氏がニートだと」


「うん。嫌だ」

 笑顔で答える。


「じゃあ美優ちゃんに嫌われないようにちゃんと考えます」

 そう言って健太君も笑顔で返してきた。


 夜になりお母さんはお寿司を買って帰ってきた。


「さぁ今日は3人で晩御飯食べましょう」

 そう言ってお母さんはテーブルの上にお寿司や飲み物を広げる。


「こんな豪華な物いいんですか?」

 健太君は恐縮しているようだ。


「勿論いいのよ。今日は健太君がいるからと思って買って来たんだから」


「ほら健太君。この前私にイタリアンのお店奢ってくれたじゃん。そのお返しだと思って食べてよ」


「えっあんたそんないい物食べさしてもらったの?」


「はは、まぁいいでしょ」


「すいません。では有り難くいただきます」


 そんな感じで3人での晩餐が始まった。


「今日は私達お酒は飲まないからね」


「あらそうなの?せっかく乾杯しようと思ってたのに」

 お母さんは少し残念そうにしている。


「僕も弱いんで遠慮しときますね」

 そう言って健太君は少し頭を下げる。


「それはそうと健太君。貴方なんか変な女に取り憑かれてるんだって?」

 いきなりとんでもない所からお母さんが切り込む。


「ははは、そうなんですよ。なんか赤い服着てる女の霊みたいなんですけど」


「へぇー。まさかそんな感じの変な女に恨まれてるとかじゃないよね?」


「いやいや、まさか。僕はそんなタチの悪い女の人と仲良くなったりしませんよ」

 健太君は頭を掻きながら明るく笑っている。


「まぁそりゃそうか。ウチの美優もいるんだしそんな訳ないか」


「はい。そうですよ。それに夢によく出てくるんですけど僕は見た事ない人ですし」


 そんな会話をしながら2人は笑っている。



 ・・・なんでだろう。

 結構重い話しをしてるはずなのになんでこの2人は明るく笑いながら話してるんだろう?

 私がおかしいのかな?考え過ぎなの?


 ・・・いや、違う!断じて違う!!

 おかしいのはこの2人!

 だいたい健太君も昨日だって・・・


「・・・優ちゃん。美優ちゃん」


 ハッ!


「どうした?ボーとして。」

 健太君が覗き込む。


「あっいや、ちょっと考え事してたかも」


「あんた何してんの?せっかく健太君と3人でご飯食べてるのに怖い顔してボーっとしちゃって」


『半分あなた達のせいです』


「やっぱり缶ビール1本だけ飲もうかな」


「おっ、美優ちゃん飲むの?飲まなきゃやってらんない感じ?」


『うん。そうですね』

 私はそう思いながら優しく微笑む。


「あんた昨日も飲んでたのに。高校生なんだからほどほどにね」


『昨日は貴女に飲まされたんですけど!』


 私は終始ニコニコしながら夜は更けていった。





「ふう、お母さん楽しそうだったね。いつもあんな感じ?」

 部屋に戻ってきてソファに腰掛けながら健太君が聞いてくる。


「まぁだいたいあんな感じかな。健太君も楽しそうだったけど」


「俺は緊張してたよ。何をどう喋っていいのかわからなかったけどお母さんの方から振ってくれてたから助かったけど」

 健太君は眉尻を下げて笑っている。


「そうなんだ。横で見てたら凄く饒舌じょうぜつに話してるように見えたけど」


「いやいや、お母さんが明るく話しかけてくれたから上手く乗れただけだよ」


「そっか。健太君はいつもこんな感じで女の人と上手く話してるんだって思って見てたのに」


「いやちょっとなんか棘があるなぁ」

 健太君は少し困ったような顔をしている。


「ふふふ、冗談だよ。お母さんと仲良くなってくれた方が私も嬉しいし」

 そう言って微笑みかける。


「さぁ早くお風呂入ってきて。明日も忙しいから。それとも一緒に入る?」


「えっいいの?」


「いや、やっぱり恥ずかしから1人で入ってきて」


「はは、残念。じゃあお先に行ってきます」

 そう言って健太君はお風呂に入りに行った。


 やっぱり幸せだな。

 そう思いながら健太君の帰りを待つ。

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