第35話 赤い服の女 最後の戦い①

 -美優-

 次の日お母さんのノックで目が覚める。


 コンコンコン

「美優ー起きてる?もうすぐご飯出来るよー」


「えっああ、ごめん。すぐ行くー」

 慌てて健太君を起こしながら服を着る。


 とりあえずいきなり部屋に入って来られなくて安心する。

 まぁお母さんもさすがにそれはしないか。


 2人揃って降りて行き歯磨きをして顔を洗った後、ダイニングに行くとお母さんが朝食を作ってくれていた。

「お母さんありがとう」

「お母さんありがとうございます。なんか色々すいません」


「いいのよ。そんな気にしないで。遠慮しないでね」

 お母さんは優しく笑っている。


「それで13時に迎えに行くんでしょ?そこからどうするの?バスかタクシー?まさかバイクで3人乗りしないでしょ」


「まさか。タクシーになるかな。さすがに健太君の家まで歩くのもちょっとあるしね」


「じゃあ私が送ってあげようか?今日仕事休みだし」


「そんないいんですか?なんか迷惑ばかりおかけしてるような」


「だからそんな遠慮しなくていいって。ねぇ」

 お母さんは明るく笑いながらこっちを振り向く。


「うん。お母さんがそう言ってくれるんなら甘えちゃおう」


 3人で食事をしながら今日の予定を詰めていった。


 -健太-

 美優ちゃんのお母さんが今日は車を出してくれる事になり、俺達はひとまず駅に着き、お祓いをしてくれる人を待つ。


 暫くすると美優ちゃんのスマホが鳴る。

「はい。もしもし。はい。私達も今改札口にいます」

 そう言って美優ちゃんがキョロキョロしていると、


「あっ、すいません。佐宗さんと林さんでしょうか?」


 そう言ってスーツ姿の男性が声をかけてきた。


 端正な顔立ちで中肉中背、年齢は20代後半から30代前半といったところだろうか?

 見た感じは『出来るサラリーマン』という印象を受ける。

 とてもじゃないが今からお祓いをしてくれる人には到底見えなかった。


「どうも初めまして。私、五条さんからご紹介頂きました阿比留あびる信太郎しんたろうと申します」


「は、初めまして。私は佐宗美優、こちらが話してた林健太君です」

 美優ちゃんが慌てて自己紹介をする。


「林健太です。よろしくお願いします」

 俺はそう言って挨拶する。


「連絡した翌日に早速来ていただいてありがとうございます」

 美優ちゃんはそう言って深くお辞儀する。


「いえいえ。五条さんからのご紹介ですし、丁度空いていたのでお気になさらずに」

 阿比留さんは優しく爽やかな笑顔でこちらを向く。


 美優ちゃんははにかんだ笑顔を見せ、俺も軽く笑顔で頭を下げる。


 正直、イケメンの阿比留さんに笑顔で接する美優ちゃんを見るのはあまり面白くはなかった。

 俺の為にしてくれているのはわかってはいるがモヤモヤしてしまう。


「私の母が健太君の家まで送ってくれるのでとりあえずこちらにどうぞ」

 美優ちゃんはそう言って阿比留さんを丁寧に案内する。


 それを見て更にモヤモヤが溜まっていく。

 俺はこんなに器の小さな男だったのだろうか?


 美優ちゃんのお母さんが待つ所まで行き、お母さんと阿比留さんが軽く挨拶を交わす。


「さぁ、健太君は助手席に乗ってお母さんに道案内してもらっていい?阿比留さんはこちらへどうぞ」

 そう言って阿比留さんを後部座席へ案内する。

 勿論美優ちゃんも後部座席へ。


 俺は助手席で道案内しながらも、後部座席の事が気になって仕方なかった。

 俺のお祓いの為にわざわざ来てもらっているのだから美優ちゃんが笑顔で喋っているのは社交辞令かもしれない。

 そんな事はわかっている。

 それでも俺は鬱屈した気分になっていた。


「そしてそこの十字路を左に曲がって突き当たりが僕の家です」

 そうして俺の家に着いた。


「ここがそうですか」

 阿比留さんはそう呟き車から降りて我が家を見上げている。


「どうですか?何か感じますか?」

 俺は気になって問いかけた。


「・・・・・・」

 俺の問いかけに無言で少し頷き、こちらを見た後笑顔を見せ、再び我が家を見上げている。


「私はここにいて大丈夫かしら?」

 美優ちゃんのお母さんが問いかける。


「ウチの母親も出かけてるみたいなんでここに車停めてても大丈夫ですよ」


「こちらのご自宅には林さんと私、2人でのぞんだ方がいいかと思ってます。お2人はこちらの車でお待ちいただいた方が・・・」


「すいません。私は最後までついて行きます」

 阿比留さんの言葉をさえぎり美優ちゃんが入ってくる。


「大丈夫ですか?失礼ですが此方に取り憑いている霊は少々強力だと思いますよ。それでもいいんですか?」


「ええ、わかってます。それでもです」

 元々キリっとした目元をさらに鋭くし美優ちゃんは力強く頷く。


「わかりました。では3人で臨みましょう。よろしいですか、林さん?」


「あっ、はい。よろしくお願いします」

 そう言って深くお辞儀をし、家の中へ案内する。


 そのまま俺の部屋へ案内すると阿比留さんは鞄から御札のような物を色々取り出した。


「あの、俺はどうしたらいいですか?」


「準備が整うまで座ってていただいて結構ですよ。それとこの御札等をこの部屋に貼っていきますがよろしいですか?」


「それは全然大丈夫なんでよろしくお願いします」

 俺がそう言うと阿比留さんは何かブツブツと唱えながら御札を貼っていく。


 美優ちゃんは俺の横に座り

「いよいよだね」

 そう言って手を握ってくれる。


 美優ちゃんの表情にも緊張感が漂い、部屋全体にピーンと張り詰めた空気が流れる。

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