第16話 他人の恋路

 -健太と泰文&佐和子-

 暫く3人で雑談していると佐和子が『ちょっと御手洗』と言って席を立つ。


『今がチャンス』

 そう思い泰文に直で聞いてみる。


「なあ佐和子と実際どうなん?何もないのか?」

 もう面倒なので単刀直入に聞いてみた。


「な、何がだよ。いきなり。ある訳ないだろ」

 泰文が少し慌てながらも否定する。


 その返しを見ながらあくまで直感だが泰文は案外佐和子の事を気に入ってるんじゃないかと思った。


「そうなのか?傍から見たら2人デートしてるようだったからお邪魔するのも悪いなと思ってそろそろ退散しようかと思ってたんだけど」


 さり気なく離脱する布石も打ち込めた。


「えっ、そんな風に見えるのか?いや、佐和子もどう思ってるかわからないし、だいたい健太はどうなんだよ?」


「いや佐和子がどうとかじゃなくて、泰文がどう思ってるかって事やろ?俺はちゃんと気になってる子がいるから現在進行形で頑張ってるとこ」


 こちらの情報をオープンにする事で相手も言いやすい空気を作る。

 さぁ時間がない。どうなんだ泰文?


「まぁ佐和子は見た目は良いし、喋ってても楽しいから付き合えるんなら、なぁ」


「そうか。俺はこの後色々あるからもう退散するけど、応援してるから頑張れよ」


 そう言って席を立とうとすると、


「いやちょっと待ってくれ。頼むから誰にも言わないでくれよ」


「わかってる。お前達がくっつくように心の中で応援してるから。とりあえず佐和子にはよろしく言っといてくれ」


 俺は立ち上がり既に席を後にしようとしていたら


「待ってくれ。頼む。もうちょっと一緒にいて本当に佐和子に彼氏がいないのか、さり気なく聞いてくれ」


『もういい加減俺を解放してくれ。今俺は他人ひとの恋愛相談に乗ってる場合じゃないんだ』

 そう思いながらも泰文の恋愛も頑張ってほしいしな、という思いもあり、この席に留まる事にした。


 その後佐和子が戻って来て3人で好きな音楽について話していると


「そう言えば健太最近彼女とかどうなんだ?」


 泰文が唐突に聞いて来た。


『お前それは強引すぎるだろ!!』

 心の中で激しくツッコミたかったがこの場を上手く収めて早く離れよう。


「いやまぁ俺はなんだかんだ楽しくやってるから・・・」


「えっ、健太君彼女出来たん?」

 佐和子が目を輝かせながら割り込んでくる。


『小さい頃、人の話はちゃんと最後まで聞きましょう』って言われなかったか?と心で呟きながら


「いやまぁ俺の事は置いといて、いつか彼氏候補がクソ過ぎたしやっぱりやめたって言ってた以来佐和子はどうなんだ?」


「えっ、私?私は特に何も無いかな。この前ナンパしてきた人がちょっと良さげだったし今度カラオケとか行こうかなとか思ってるぐらい」


 いかん!これは泰文にとって風向きが悪い方向になってる。


「いや、ナンパしてきたよくわからん奴と簡単に遊びに行くなよ」


「いやまぁ1人では行かないよ。沙織と行こうかなと思ってさぁ」


「まぁ1人で行かないのは良しとして、沙織いい感じの人いるんじゃなかったか?よく一緒に来てくれるって言ったな」


「いやまだ沙織には何も言ってないよ」


「まず沙織に聞けよ!」


 そして泰文少しは会話に入って来いよ!

 お前が振ってきたんだぞ!


 ツッコミどころ満載で疲れてきた頃LINEの通知音が・・・・・・


 確認すると美優ちゃんからだ。

『こんにちは

 健太君は何してたかな?

 私は今新幹線でそっちに向かって帰ってます

 そっちに帰れるのやっぱり7時ぐらいかな

 もし時間が合えば嬉しいな

 時間が合わなくても明日があるからまたお話ししよう』


 これは早くこの場をなんとかしなくては


「まぁあんまり迂闊にほいほいついて行くなよ。佐和子の場合ちゃんと話聞いてくれたりなんだかんだ佐和子の意見尊重してくれたりする人の方が良いんじゃない?」


 暗に泰文の事を勧めてみる。


「えぇそんな良い人いないでしょ」


『いるよ。いるいる。お前の斜め前で俺の横にそんな良い人いますよー』

 そう思いながらも泰文にも喋ってもらわないとらちが明かない


「泰文はどうなんだ?暫く彼女いないよな?」


「えっ、おお。中々なぁ」


『頼むからもう少し会話のキャッチボールをしてくれ』


「だいたい泰文の好みのタイプってどんな感じなんだ?」


「えっ、う~ん。あんまり好きなタイプって無いんだよな~」


『おい!そこは佐和子に寄せたタイプで言えよ!』

 しかし泰文はこちらの意図を理解する事なく頷いている。


「はぁ、まぁ、あのアレだ。俺は用事あるからそろそろ行くから後はお前ら2人でデートでも楽しんどいてくれ」


 俺は疲れ果てて席を立つと


「いやいや何言ってんだよ~まぁまたな」

 そう言って泰文は笑っていた。


『こいつは一体何を望んでいたんだ?とりあえず佐和子に彼氏がいないってわかったから良かったのか?』

 そんな事を考えながら俺は喫茶店を後にした。


 休憩する為に喫茶店に入ったのに余計に疲れて出てきた気がする。

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