第10話終わらない悪夢

 -健太-

『何故だ?』

 皆でボーリングして、ゲームセンターに行き、楽しく喋ってお互い帰路につき、自宅に帰った俺は1人落ち込んでいた。


『何故、美優ちゃんから連絡がない?』


 別れ際に「今日帰ったらまたLINEするね」

 って言ってたはずなのに。


 待っててもLINEが来ないから自分から『今日はありがとう』とLINEを送って待っているが一向に返事も無いんだ。


 俺は何かやらかしたのか?何か失礼な事言ったかな?


 今日の事を色々振り返ってみる。


 たしかに美優ちゃんに喋りかけても目を合わせてくれない事が何回かあった。

 照れてる、何か考え事をしてた、そう思っていたが

 実はそうじゃなくてそもそも今日は、乗り気じゃなかったとか!?


 だとしたら今日のあの楽しそうな笑顔はなんだったんだ?

 今日一緒にいて俺は美優ちゃんも楽しんでいる、

 そうした確かな手応えを感じていたんだ。

 なのに・・・


 いや、待てよ。

 第一印象で良くても実際会ったら思ってた様な人じゃなくて『あっ、これは無いわ』って思ったとしても友達がせっかく紹介の場をセッティングしてくれたんだからとりあえずその場は楽しそうにするはずだ。


 どうしよう、『この人、一緒にいても全然楽しくないな。次誘われたらなんて言って断ろうかな』

 なんて思われてたらどうしよう!?


 ああ、送っちゃった。


『・・・また今度遊びに行きたいと思うんだけど

 良かったらどういう所行きたいか教えて。』

 って送っちゃったよ。

 俺はソファの上で頭を抱えながら悶絶していた。


 今頃『うわぁ、どう言って断ろうかな』とか思われてたらどうしよう。


 いやそもそもスルーされているかもしれない。


 そして数日したらノブから

『いやぁ、なんか美優ちゃん、今は忙しいから彼氏とかあんまり考えられないらしいわ』

 とか訳が分からんフォローとかされたらどうしたらいい?


「ああ、まぁ、そういう時もあるよな」

 とか言った方がいいのか?


 いやいやいやいや、もう1回ぐらいチャンスを下さい。

 せめてもう1回会ってちゃんと話しをしたいんだ。


 そんな事を考えていると突然スマホが鳴る。


 びっくりして画面を見ると美優ちゃんからだった。


『電話かかって来た』

 そう思い慌てて電話に出る。


「はい。もしもし」


「あっ、け、健太君?美優です。ごめんね、いきなり電話して」


 美優ちゃんは少し慌てた様な感じだったが実際は俺の方が慌てていた。


「ああ、うん。大丈夫、大丈夫」

 そう言いながら自分を落ち着かせる。


「LINEしようと思ったんだけど、遅くなっちゃったから電話しようと思って」


「あっそうなんだ。どう?ちゃんと家に帰れた?」


『今まで何してた?ちょっと遅いから不安になったよ』と言いたいが怖くて聞けず、無難な事を言ってしまう。


「うん。ちゃんと家には帰れたんだけどね、まだ朱美と一緒にいて私の家でずっと喋ってて、あの~、その~、ごめんなさい。LINEするの忘れてました」

 美優ちゃんは明るい声で謝ってきた。


「いやいや、いいよ、いいよ。無事家に帰れたんなら大丈夫。朱美ちゃんと楽しく喋ってたんやろ?」

 俺は嫌われたりしてなかったんだよな?とまだ疑心暗鬼に捕らわれている。


「うん。まだ朱美と一緒に喋ってた。それでね、あの、ほら、次、何処か行きたい所って聞いてくれてたからさ・・・」


「ああ、うん。何処かリクエストがあれば出来るだけ答えるよ」

『どうしよう・・・ここで断られたらどうしよう』

 俺は色々ドキドキしてる。


「あのね、特に行きたい所ってないんだけど・・・健太君バイク乗ってるんだよね?・・・あの・・・後に乗せてほしいなって」

 美優ちゃんは少し言いにくそうで遠慮がちにそう言った。


「えっ、ああ、勿論いいよ。じゃあ今度はツーリングに行く?美優ちゃんいつが空いてる?」


『キターー!』

 俺は思ってもみない展開になり、かなりテンションが上がっていた。


「いいの!?やった!私は明日、明後日が用事あるんだけどそれ以外なら大丈夫。」

 美優ちゃんも喜んでくれてるようだ。


「じゃあ3日後でいいかな?時間は昼ぐらい?」

 俺はテンションが上がりまくっているのを悟られないように落ち着いた口調で聞いた。


「うん。じゃあそれで。また詳しい事は明日連絡していい?」


「うん。じゃあ明日にでもまた連絡して」

 俺は冷静に自分を落ち着かせようとしていた。


「じゃあ明日また連絡するね。あっそれと今日はありがとう、楽しかったです」


 そう言って美優ちゃんは電話をきった。


『よし!よし!やった!良かった!次はデートだ。しかも美優ちゃんを後に乗せて。』

 俺はかなり舞い上がっていた。

 まさかこんなに上手く進んで行くなんて。


 そして舞い上がったまま風呂に入り、上がってきてから少し冷静になって考えると、俺は自分から進めたのか疑問になった。

 結局、美優ちゃんから提案されるがままに進んで行っただけのような気もする。


『このままじゃダメだな。次はちゃんとリードしよう』

 そう思いながら3日後のデートに思いをせていた。




 そして俺は走っていた。


 いや正確には駆け上がっていた。


 そう螺旋階段を駆け上がり赤い服の女から逃げていた。


『ハァ、ハァ、くそ、ダメだ追い付かれる!』

 あの女がすぐ背後まで迫って来ているのが気配でわかる。


「下に!下に飛んで!」

 誰かが叫ぶ。


「下!?何処に!?」

 言ってる事を理解する前に振り返ると女の顔が真横に迫っていた。


「うぉぉぉ!」

 俺は勢いに任せて手すりを乗り越え飛び降りる。


 そしてすぐ下の手すりに捕まり、手すりを乗り越えもう1度螺旋階段に戻る。

 まさにスタントマンもびっくりするようなアクロバティックな動きだ。


 しかしこれであの女を振り切れた。


 そう思い一気に螺旋階段を駆け下りる。


 だがやはり振り切れなかった。


 あの女は螺旋階段の外を頭から逆さまに落下しながら俺を見てくる。


 俺が必死に階段を駆け下りる速度と一緒に逆さまに落下しながらずっと横で見てくる。


 怒るでもなく、無表情のまま、目を見開きずっと。


 気が付くと俺は螺旋階段から伸びる通路を走っていた。


 そしてそのまま突き当たりの扉を開けると。薄暗いフロアに出た。


「これはダメだ。追い込まれてる」

 そう思ってもあの女が迫ってるのはわかっていて、もう戻る事も出来ない。


 途中、何処かで見たようなお爺さんに出会い

「もうダメだ」

 と言われた。


 それでも俺は走り回って逃げたがすぐそこに女の影が迫っていた。


「もうダメだ。ここに入ろう」

 そう思いそこにあった扉を開けて入るとそこはトイレだった。


「やっちまった。」

 そう思い戻ろうとしたが扉の向こうに女の影が、


 咄嗟とっさに何個目かの個室に入り身を潜める。


 映画なんかでは絶対にやってはいけないパターンなのはわかっていたがもうどうしようもなかった。


 バタン!!

 何処かの個室の扉が開かれる。


 バタン!!

 個室の扉を開ける音は近ずいてくる。


 ・・・息を潜め目を閉じて必死に祈る。


 ・・・・・・この暗闇の中の静寂がいつまでも続くんじゃないかと、この僅か数秒が何時間にも感じられる様なプレッシャーの中、


『・・・扉を開ける音が止んだ』

 不審に思いながらもゆっくり目を開ける。


 耳を澄ませ周りの状況を確認しようとする。


『嫌な予感はする。どうする?一か八か勢い良く扉を開けて個室から脱出するか?』


 そう思いながらふっ、と天井を見上げた。


 個室の上からあの女が俺をジッと見ていた。


「うわぁぁぁ」

 叫びながら個室から飛び出るがトイレの扉は開かずトイレからは出られない。


 その場にヘタリ込みどうする事も出来ないでいると


「間に合った!大丈夫?」

 勢い良く扉を開けて誰かが入ってきた。


 それはさっき螺旋階段で『下に!下に飛んで!』と叫んでいた声と一緒だった。


 今度はしっかり顔が見える


 それは美優ちゃんだった。


 美優ちゃんは赤い服の女に何か勇ましく叫んでいるが何故かはっきり聞こえない。


 そしてその女は片手でさっきいたお爺さんを捕まえたまま何処に消えた。



 ハッ!

 ここで目が覚めた。

 時間を確認したら夜中の3時前だった。

「ふぅ、今日は4時じゃないんだな」

 そう呟き、ベットから起き上がると


『ガタガタッ』


 割れた窓に応急処置ではめたベニア板が揺れる。


 あまりのタイミングの良さに『ビクッ』となり


「なんかの嫌がらせか?」

 そう言いながらもう一度ベットで横になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る