第9話 朱美の目線

 -朱美-

「ねぇ美優。なんかね健太君、赤い服着た女に追いかけられる夢見てるみたいなの」

 ノブから聞いた事をとりあえず美優に伝える。


「えっ嘘!?そんな事になってるの?」

 美優は目を見開きながら驚いている。


「そうみたい。その夢に出てくる女と美優が見えた女はやっぱり一緒なのかな?」


「どうなんだろ?わからないけど状況からしたら一緒の可能性が高くない?」

 美優も戸惑っている様だった。


「どうする?とりあえずノブも含めて3人で話す?その場合美優の事も含めて何処まで話す?」

 美優も霊が見える話をやたら色んな人に話すのも嫌だろうから私には決められなかった。


「そうだな・・・。私の話はとりあえず全部話そうと思う。じゃないと中々上手く伝わらないかもしれないし」

 美優が覚悟を決めた様にしっかりと私を見てくる。


「そっか。了解。じゃノブにもう1回電話するね」



 そしてノブとスピーカーにして3人で話す事にして、まず美優が自分の事を話しだした。

 そして今日健太君の後に女の霊が見えた事も。


「・・・マジか」


 そう言うとノブは健太君から聞いたあの山道の先にある夜景の綺麗な駐車場から始まった不可解な事や、ここ最近の赤い服の女が出てくる夢の話まで私達に話してくれた。


「そういう事とか色々な事を総合すると美優の話の信ぴょう性がますます高くなるね」

 私はますます女の霊の存在を確信していた。


「ねぇノブ君。その山の駐車場に行った時の事。佐和子って人、ノブ君から見てもおかしかった?」

 ずっと静かにノブの話を聞いていた美優が不意に質問する。


「う~ん。その時は俺は特に何も感じなかったけど健太から話聞くとおかしいとは思うよ。泰文やすふみの事君付けで呼んだり、自分の事ウチとか言ったり、健太の後に乗せて、とか言ったり」

 ノブが健太君から聞いたであろう、あの時健太君が疑問に思った事を次々と言っていくと


「へ!?何それ!?そんな事言ってたの!?」

 途中で美優の表情が一変した。


「う~ん、そうみたいなんだ。俺達は全然気付いてなかったんだけど佐和子が自分の事ウチとか言ってるの聞いた事ないしなぁ」


「へ~・・・・・・健太君のとか聞いてたんだ。」

 先程まで自分の過去を語っていたり、健太君の悪夢の話を聞いていた時の少し弱々しい表情とは異なり、

 明らかに目付きが鋭くなり、隣りにいるだけで刺されそうな鋭い殺気を放つ美優がいた。


「ねぇノブ君。その佐和子って子どんな子なの?」


「ん?佐和子?えっと背はちっちゃくて可愛らしい感じの子かな?」

『ちっちゃくて可愛らしい』と言うフレーズの部分で美優の片方の眉毛がピクっと上がる。


「へぇ・・・そうなんだ。ちっちゃくてんだ」

 口調は落ち着いて行くが反比例して殺気が溢れてくる。


「そうそう。それに健太って基本的に彼女以外の女の子は後に乗せないんだ。皆それを知ってるはずだし」


『おい。それ以上余計な事言うな!隣りの美優さんがヤバいモードに入ってるんだぞ!』

 心の中でそう叫びながらノブに念を送る。


「へぇ・・・それなのに図々しく後に乗せろだって!?・・・それっておかしな話よね・・・」

 美優さんは冷静な落ち着いた口調でそう呟く。


 その落ち着いた口調と鋭い目付きのギャップが益々怖さを増幅させる。


「そうなんだよ。だからもしあの時佐和子が取り憑かれたりしてたんなら、これからも健太を佐和子には近ずけたりしない方がいいんかな、とか思うねんけどなぁ」


『だから余計な事言うなって、馬鹿彼氏ノブ!!』


「えっ!?何!?まだ近ずこうとしてるの?・・・絶対に近ずけちゃダメだよ!絶対に!!」

 美優さんの怒りは頂点に達しようとしている様だった。


「ちょ、ちょっとノブ。と、とりあえずさぁ、健太君にはこの事は伝えないで3人で健太君の周りを気をつけつつお守り揃えたりしてちょっとづつ対策を考えて行こうかと思うんだけど」

 とりあえずノブにこれ以上喋らすと美優さんの怒りにどんどん燃料を投下しそうなんで外れてもらおう。


「お、おお、そうだな。そういえばこの前コンビニで佐和・・・」

 ブチッ!!

 即、電話を切った。


「・・・なんかノブ君まだ喋ってなかった?最後『さわ』って言ってなかった?まだ何か情報あったんじゃない?」

 美優さんはこっちを見ながら口元は笑みを浮かべているが明らかに目は笑っていなかった。


「いや、多分そんな霊に関するような事じゃないんじゃない?コンビニで・・・さわ・・・やかな、そうコンビニで爽やかな風が吹いてたのよ」

 あまりにも苦しい、いい訳を並べながら私は美優さんに笑顔を向ける。


「・・・・・・」

 かわりに無言の圧が私に向けられる。


「ねぇ朱美。朱美も佐和子って子、会った事あるんだよね?どうだった?」


『どうだった?』とはどういう意味なの?

 確かあの時、健太君に話し掛ける佐和子って子がいた。

 そして私は健太君に向かって「モテモテですなぁ旦那~」とか言っちゃった。

 そんな事を今の美優さんに言ったら火に油を注ぐどころじゃない。

 答えを誤れば私はられるかもしれない。


「う、うん。まぁちっちゃい子だったけどそんな可愛らしい感じとかじゃなかったと思うけどなぁ」


「・・・本当に?」


 このプレッシャーは何?私何も悪い事してないのに。


「それにノブに聞いたんだけど健太君、背が高い子が好みらしいよ」

 あえて美優には言ってなかったけどこれはノブから聞いた確かな情報だ。


「えっそれ本当に?」

 美優の鋭い目付きが緩む。


『おお、大魔神様、どうかそのまま怒りをお鎮めくだされ~』


「うん。ノブから健太君はスラッと背が高い子が好みだって聞いた事あるから佐和子って子は寧ろ真逆かもね」


「へぇなるほどね。そうなんだ」

 美優の口角が上がり表情がほころぶ。


 よし。なんとか機嫌直せた。


「ねぇ美優。それで健太君にはちゃんと連絡したの?」

 これで話を変える事が出来た。


「あっ・・・ヤバい。忘れてた。どうしよう・・・」

 今度はちょっと泣きそうな顔をしている。


 本当はこの子が1番、情緒不安定なんじゃないかと思えてくる。


「ほら、いざとなったら私も一緒に謝るからとりあえず早くLINEしなよ」

 こうしてある意味私の危機を乗り切った。

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