第19話 デート前夜

 -美優-

 健太君に送ってもらって無事家に帰ってこれた。

「ふう、ちょっとの時間だったけど楽しかったな」

 そう呟きながらまだ余韻に浸っている。


 とりあえず朱美にも今帰って来たよ。とLINEで報告して、そしてあらためて女の霊について考える。

 

 今日は結局女の霊は現れなかった。

 この数日の間に何処かに行ってくれたんならありがたいけど、一時的に離れてただけの様な気もする。


 明日一緒にいる間に現れなければいいんだけどなぁ。


 もし現れたら気が散って絶対集中出来ないし、何より健太君にお祓いの事どう説明すればいい?


 そんな事を悩んでいると朱美からLINEが届く。

『おかえり~

 大変だったてしょ?

 何か良い対策は見つかった?

 時間あったら電話していい?』


 私も朱美に話したい事が山ほどあるのでこちらから電話する事にした。


「もしもし朱美。こっちからかけちゃった」


「おかえり。それで健太君本当に送ってくれたの?バイクの後ろ、怖くなかった?」


「送ってくれたよ。なんかとりあえず身体委ねて掴まってたらいいっ言われたからガッチリ掴まってたら楽しかったよ」


「そうなんだ。ふふ、身体委ねて?ふふふ、身体委ねちゃったんだね」

 電話越しでも朱美がどんな顔して笑ってるかがよくわかる。


「ねぇ、なんか変な想像してないよね?」

 一応しっかりと釘を刺しておいた。


 朱美に少しからかわれながらも暫くは他愛もない事で盛り上がる。

 そしておばあちゃんからもらった御守りの事や神主さんが言ってたお祓いの事等を朱美に相談してみる。


「ねぇ健太君にお祓いの事どう言ったらいいと思う?」

 私は今1番悩んでる事を口にした。

 どういう風に切り出したらいいか、わからないからだ。

 下手したら頭のおかしい女だと思われかねない。


「う~ん。もう素直にお祓いしてみようって言ってみたら?」


「健太君女の霊の存在、気付いたりしてるかな?

 って言うかそもそも健太君が霊の存在自体を否定したらもうどうしたらいい?」


「難しいよね。・・・もうさぁ、私達で議論しててもらちが明かないから明日思い切って全部ぶつけてみたら?」


「はぁ、やっぱりそれが1番かなぁ?」

 もう不安しかなかった。

 霊が見えたりする私でさえ胡散臭い話だと思うんだから。


「うん。とりあえず明日ベットの中で話したら健太君もちゃんと聞いてくれると思うよ」


「なんでベットに入る前提なのよ!」


「えっそういう予定じゃないの?」

 朱美は楽しそうに笑っている。

 ここでもやはり電話越しだろうと、朱美がどんな表情で笑ってるかが容易に想像出来る。


「そういう事は予定する事でもないし。だいたいものには順序ってもんがあるでしょ」


「まぁそうだけどさぁ。たまには全部すっ飛ばしても良いじゃん」


 そういう事じゃない、と言おうとしたが朱美が続けた。


「ねぇ美優。私は全然詳しく知らないんだけどね、健太君前に結構なんかあったらしいの。だからあんまり自分から彼女作ったりとか動いたりしないみたい。だから少しだけ美優の方から動いてあげてほしいってノブが言ってた」


 突然真面目な話になり思わず聞き入ってしまった。


「そうなんだ。それも気になるけど流石にいきなり本人には聞けないしなぁ。私から動くってどう動いたらいいんだろ?」


「それは健太君が仰向けに寝ている所で美優が上から・・・」


「ちょっと待て!!その動きは違うやつでしょ!!」

 最近はツッコミの腕も上がったんじゃないかと思う。


 -健太-

 美優ちゃんを無事送り届け、ようやく帰宅する。

 実は最近、自宅に帰る度に陰鬱いんうつな気分になる。


 それはあのずっと続いていた悪夢のせいなのか、隣の幽霊ビルの火事のせいなのか、はたまた外で遊んでいる時が楽しくて1人帰って来た時の孤独感からなのかはわからないが実際さっきまで美優ちゃんと一緒にいれて楽しかったし明日も2人でデート出来るのに今は沈んだ気分になる。


『俺は実は凄いネガティブで根暗な性格なんだろうか?』

 そんな事をつい考えてしまう。


 このまま考えててもマイナスな事ばかり浮かんでくるので美優ちゃんに『無事帰って来ましたよ』とLINEを送り、シャワーを浴びて、明日に備えてさっさとベットに入る。




「はぁ、はぁ、うわっ!」

 うなされて目が覚める。


「あぁ、クソ!また目が覚めた」

 時計を確認すると今回も4時だった。

 今日も悪夢で目が覚めたが今回は内容をほとんど覚えてない。


 1日だけ悪夢にうなされなかったが、ただ単に覚えてない可能性もあるなと思い始めた。


 ただ今回唯一覚えているのが赤い服の女の表情だ。


 ここまでずっと無表情だったのに今回はほんの少しだが怒っていたように感じた。

 それだけが印象に残っていた。


「いい加減ゆっくり寝かしてくれ」

 そう呟きながらもう一度ベットで横になる。

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