第20話 デート当日①

 -美優-

 微かに聞こえた通知音でふっと目が覚める。


『えっ誰?今何時?』

 寝ぼけながら画面を見ると健太君からだった。


『おはよう。

 今日も天気が良くて良かった。

 とりあえず11時に迎えに行きます』


 健太君も今起きたのかな?


 そう思いながら時間を確認すると

「えっ10時!?」

 あまりにびっくりして飛び起きる。


「えっなんで!?8時30分に目覚ましセットしてたのに!!」

 少しパニックになりながらも用意を急ぐ。

 多分目覚ましに気付かないぐらい疲れが溜まっていたんだと思う。


 慌てて化粧をして服を着替える。

「昨日のうちに服選んどいて良かった。メイクはいつも通りだけど大丈夫だよね?」

 1人でブツブツ言いながら支度を整えていく。


 暫くすると健太君からLINEが届く。

『今近くのコンビニ。

 家まで迎えに行ったらいいかな?』


 ギリギリセーフ。間に合った。


『はい。家で待ってます』

 そうLINEを返し家の外で待つ。


 暫くすると健太君が迎えに来てくれた。


「ごめん。お待たせ」

 ヘルメット越しだが笑っているのはわかる。

 優しい目をして笑ってくれてる。


「全然待ってないよ。さぁ行こう」

 そう言って昨日健太君がプレゼントしてくれたヘルメットを被り後ろに乗る。


 バイクは走りだし今まで自分が見ていた街の景色が凄い速さで流れて行く。

 街を抜け暫く走り続けて大きな公園に着いた。


「ふう。大丈夫だった?腕とか足疲れてない?」

 健太君が優しく気遣ってくれる。


「うん。全然大丈夫。さぁ行こう」


 この公園に行きたいと言ったのは私だ。

 私はあまり『おまじない』や『願掛け』とかは信じないたちだが

『この公園にある真実の鐘を2人で鳴らして鳩が綺麗に飛び立てば2人は幸せになれる』

 という噂を聞きちょっとやってみたくなったのだ。


『試すだけだから。そう、だいたいただの噂だし遊び半分でしてみるだけ』

 そう何度も自分に言い聞かせる。


「あっ、売店あるけど何か食べる?」

 健太君が売店をみつけて明るく聞いてくる。


 よし。予定通り。ここで軽く食べる物を買って、『向こうの方で座って食べよう』と言ってさりげなく鐘の方へ歩いて行く

 私は前日に入念に立てた作戦を頭で整理する。


「うん。なんかサンドイッチとか買って向こうの方で食べよう」


「あっ、ここにベンチあるよ」


「えっ、いや、ほら、せっかく天気も良いから芝生の上で座って食べたいなぁって」


 いきなり作戦がつまづきそうになり焦った笑顔になったかもしれない。


「あっなるほど。そうやね。そうしよう」

 健太君は笑顔で納得してくれた様だった。


『あ、危なかった。私、結構アドリブ効かない方かも』

 そんな事を考えながら芝生の上でサンドイッチを食べながら2人で他愛のない事で笑いながら過ごす。


『うん。やっぱりこうしてると楽しいから鐘とかこだわらなくてもいいかな』

 そんな風に考えながらこの時間ときを噛み締める。


「あっそう言えばこの公園、何処かに鐘があるらしいよ」

 健太君が突然思い出したかの様に言い出した。


「えっそうなん?」


「なんか2人で鳴らしたら良いらしいよ。何処にあるんかな?鳴らしに行かへん?」


「えっ、うん。行く行く」


 私の入念な作戦はなんだったんだろう。

 まぁ結果オーライってやつかな。


 そして2人で歩きながら鐘の場所を探す。

 まぁ私はだいたいの場所は知ってるけど。


「あっ健太君。ほら、アレじゃない?」


「あっ良かった。結構早く見つかった」


『うん。だって私、前もって調べてたからね』


「あの鐘を鳴らせばいいらしいよ」

 健太君が笑顔で鐘を指差す。


「へぇ、そうな・・・んだ」

 私は一瞬言葉に詰まった。


 何故なら楽しそうに振り返る健太君の後ろにあの女の霊が現れたからだ


『嘘でしょ!?なんでこのタイミング?』

 私の中で恐怖と共に少しだけ怒りが湧いた。


「さぁ鳴らしてみよっか」


 健太君は楽しんでくれてる。


「うん。じゃあいくよ」


 そう言って2人でロープを振り鐘を鳴らす。

 正確には2人+1体(霊)なんだけど


『カラ~ン。カラ〜〜ン』

 鐘が鳴ると鳩や雀が一斉に飛び立つ。


『いや、雀も混じってるんだけど、どうなの?カラスじゃないだけマシ?だいたい2人+1体なんだけど、それもどうなの?』


 楽しいはずのデートなのに、なんかモヤモヤする。


「鳥が一斉に飛び立ったのにはびっくりした」

 健太君はそう言いながら笑ってる。


『私は健太君の後ろの人(霊)にびっくりしました』

 そう思いながら私も合わせて笑う。


「そう言えば向こうの方に動物とかいるみたいなんやけどちょっと見に行かへん?」

 健太君が結構リードしてくれるから私は嬉しかった。


「あっ行きたい。行こう」

 そう言って健太君の横に並んでついて行く。


『本当この女の霊、なんなんだろう?ついてきてジッと見ている。本当に気味が悪い』

 そう思いチラチラ見ていると、1回思いっきり目が合ってしまった。


「ひっ」

 思わず声が出る。


「どうした?何かあった?」

 健太君が心配して声をかけてくれる。


「あっ、ううん。なんでもないよ」


「ひょっとして動物とか苦手やった?」

 心配そうに覗きこんでくる。


「ううん。全然大丈夫。寧ろ動物とか結構好きだよ」

『貴方の後ろの方(霊)が苦手です』とは言えない。


 ダメ。このままじゃ本当に楽しめないし健太君にも悪い。

『御守りの効果で今日だけでもどっかに行って』


 そう思いながら歩いて行くと羊の群れがいる所に着く。


「おお、もふもふしてそう」

 そう言って健太君が近づいて行くが羊達はまったく近づいて来ない。


「あかん。羊に嫌われてる」

 そう言って健太君は笑っているが原因は恐らく貴方の後ろの人(霊)のせいですよ。


 何故なら他の人の所には1匹、2匹ぐらいは近寄ったりはしてるけど健太君の半径3メートル程には1匹たりとも絶対寄って来ないんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る