第21話 デート当日②

 -美優-

 健太君と動物達の微妙な距離は続いている。

 健太君が触ろうとしても隅っこから動こうとしないうさぎや小動物達。


 エサでおびき寄せようとしても警戒しながら近寄ってきてエサだけ奪ってすぐに逃げて行ったロバ。


「ダメだわ。こういう所の動物でも警戒心凄いね」

 健太君は困ったように笑っている。


『違うの健太君。貴方の後ろの人(霊)がいなければ多分もっと動物達は寄って来ると思うよ』


「あっ、あいつならきっと逃げて行かない」


 そう言って健太君がロープに繋がれた山羊やぎの方に歩いて行く。


『いや、それは逃げて行かないと言うより逃げられないんじゃ』

 そんな事を考えながら健太君と一緒に歩いて行く。


「おお、なんか興奮してる。ほらあの黒魔術に出てきそうな黒いやつ」

 そう言って健太君は角がある黒い山羊を指差す。


 健太君は時に言葉選びが独特な事がある。

 それが絶妙で喋っていても楽しいんだが、その黒魔術に出てきそうな山羊は寧ろ生け贄にされるんじゃないかってぐらい怯えてる。


「ねぇ、角があるから危ないよ」

 あまりに山羊が可哀想なんでそう言って健太君を山羊から遠ざける。


「う~ん、残念」

 健太君は本当に残念そうにしている。


『これもこの女(霊)のせいだ』

 そう思い睨んでいると、女の霊と目が合う。


『ひ、怯むもんか』

 そう思っていると女の霊は私の顔を覗きこんできた。


 これまで女の霊はジッと健太君を見ているだけで周囲の人には反応を示さなかったので少し戸惑っていると、私の肩を掴んできた。


「痛っ!」

 思わず声が出る。


「えっ、どうした?」

 健太君がびっくりしてこちらを見る。


「あっ、ううん、大丈夫だから」

 そうは言ってるが肩を押さえてしまっている。


 今日はノースリーブのシャツに上着を羽織っていたので上着を脱いで確認してみると、肩の辺りに正に掴まれたような手形がついていた。


「えっ、コレどうしたん?」

 健太君が驚いている。


「何コレ?」

 さすがに私もびっくりした。


「えっ俺そんなに強く掴んでないよね?」


「大丈夫、大丈夫。さっき動物にぶつかられたかな?」

 そう言って誤魔化して笑うが、


「いや、なんか掴まれたみたいな手形ついてるやん」


「はは、本当だね。なんか気持ち悪いね。でも大丈夫だから」


 そう言って笑って誤魔化すしかなかった。


 -健太-

 美優ちゃんとの楽しいデートだったが動物達はまったく寄って来ないし美優ちゃんの肩には掴まれたような手形があるしどうしたもんか。


『あの肩の手形はどうしたんだ?DVとかじゃないよな?・・・えっ、DVって誰から?まさか他の男とかじゃないよな』

 俺はどんどん不安な気持ちになっていき、口数も減っていった。


「ねぇねぇ、健太君。肩の手形、気にしてる?」

 美優ちゃんが不安そうに聞いてくる。


「えっ、あ、痛くないかな?大丈夫かな?って考えてた」

 ああ、ダメだ。俺の不安が伝わったのかもしれない。


「本当に大丈夫たがら気にしないで」

 美優ちゃんは眉を八の字にしながら困ったように笑っている。


「じゃあ次は軽くドライブウェイを走りに行く?」


「うん。行こう」


 そう言って公園を後にする。


 公園を出て暫く走って行くとドライブウェイの入口に着く。

 そこから山からの景色を楽しみながらゆっくりとドライブウェイを上がって行く。


 そして頂上の展望台に着き休憩する。


「うわぁ、山から見下ろす街の風景って凄いねぇ」

 美優ちゃんは目を丸くしながら喜んでくれている。


 さすがにこれだけ喜んでくれると連れて来れて良かったと思える。


「本当はもうちょっと日が落ちてきた時が良かったんやけど少し時間が早かった」


「えっそうなん?ひょっとして夕焼けがいい感じ?」


「そうそう。今日は天気も良かったし結構いい感じに見えるかなって思ってたんやけど」


「じゃあせっかくなんだしちょっと待ってようよ」

 普段はクールな印象の美優ちゃんが無邪気に笑っている。

 もう今のこの瞬間で俺は大満足だった。


 自動販売機で飲み物を買いベンチに座りながら暫く談笑していると


「ねぇ健太君。写真撮ろうよ。写真」

 そう言って美優ちゃんは自撮り棒を取り出し、自分のスマホをセットしだす。


「あっいいね。」

 そう言って山からの風景をバックに2人で写真を何枚か撮る。


「そう言えばさっきの公園でも撮ればよかったね」


「ああ、本当だね。なんかあの時は忘れてた。また今度行った時に撮ろうよ」


 えっそれはまた次もデートしてくれるって事でいいよね?

 というより美優ちゃんとの関係をちゃんとした方がいいか。


 泰文にはなんか強気に行けよ的なアドバイスしてたけど、いざ自分の事になると中々難しいんだよな。


 どうなんだろう?今日決めなきゃダメなのか?強気に行かなきゃダメか?まずあの手形も気になるな。

 色んな事が頭をよぎる。


「健太君」

 ハッとする。


 座り込んで少し考えてたら目の前に美優ちゃんが立っていた。


「疲れた?なんか私の事忘れてどっか行ってた?」

 美優ちゃんが悪戯いたずらっぽく笑う。


「ごめん、ごめん。ちょっとボケっと考え事してた」


「あらまぁ。何か心配事とか?・・・ここに誰かと来た思い出とかじゃないよね?」

 ちょっと不満そうに見えるのは気のせいかな?


「はは、違う違う。ここに誰かと来たのは美優ちゃんとが初めてだから。何よりここは前に1人で来て今日で2回目やし」


「あはは、そうなんだ。・・・なんか面倒くさい聞き方しちゃったね。ごめん」

 美優ちゃんはそう言って横に寄り添って来た。


「いやいや。そんな事ないよ」

 そう笑いながら寄り添って来た美優ちゃんにさりげなく肩に手を回そうとすると


「痛っ」

 手形のついていた辺りを触ってしまったようだ。


「ごめん。痛かった?」


 上手くいかない。

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