第42話 エピローグ①

 -健太-

 美優ちゃんの家を後にし自分の家に帰ってくる。

「ふう、さてと、まずどう説明するかな」

 一連の流れを知らない母親に何処から説明すればいいかひとまず考える。


 しかし1人で考えても答えは出ず、しまいには面倒くさくなってしまい、結局何もまとまらないまま母親の元へ行き話す事にする。


「なぁちょっと話しがあるんだけど少しいいか?」


「何やった?悪い事違うやんな?」

 普段からバイクに乗って夜中まで遊び呆けて、2、3日帰らない事も珍しくない。そんな俺の問いかけに母親は少し身構える。


「いや、悪い事やとは思うけど、俺は何もしてないからな」


 そう言ってこの土地が女の霊に取り憑かれ、実際俺の夢に出てきては、うなされてた事等を話した。


 ・・・・・・

「昔にそんな事があったんか」

 さすがに自分が住んでる所で自殺した人がいるとなると言葉を失うようだ。


「そうらしい。だからここにいつまでも住んでいたくはないし、できる事なら引越したいぐらいなんやけどさ」


 元々人の話しはすぐに信じるタチでそのおかげで騙されたり詐欺まがいの話しに引っかかったりと散々な目にあったりもしていたが、どうやら母親は霊の話しも疑う事もなく信じきっているようだ。

「そうかぁ、引越すとしても何処に行くかやな」


「いや、まぁ実際問題すぐには無理やとは思うけどさぁ・・・・・・いい加減あの父親ともはっきりした方がいいんと違う?」


「そうやなぁ」

 そう言って母親は黙り込んでしまった。


 -美優-

 健太君が自分の家に帰り、お母さんとの女2人の生活に戻って暫く、夏休み最終日を迎えていた。


「お待たせ」

 健太君がバイクに乗って家まで迎えに来てくれる。


「時間通りだしたいして待ってないよ。さぁ行こう」

 そう言って健太君の後に乗せてもらう。


 そして駅まで行き電車に乗って2人で隣り街のショッピングモールに行く事になっていた。

「夏休みも、もう終わっちゃうね。もうちょっと早く出会えてたらもっと色々な所行けたのに」


「まぁそれは仕方ないし、これからいっぱいあちこち行ったらいいやん」

 健太君は穏やかな笑顔を浮かべている。


 私達はショッピングモールで特に目的もなくフラフラしながら他愛も無い話しで盛り上がっていた。


「なぁなぁ、ちょっとだけいい?」

 そう言って健太君はベンチに腰掛ける。

 ちょっと崩れた口調で話してくると2人の距離が縮まっているようで少し嬉しかった。


「どうした、どうした?ひょっとして私プロポーズしてもらえる?」

 少しおどけながら横に座る。


「いやぁ、少し早いかな」

 健太君は笑いながら返す。


「実は、高校出たら一人暮らしする事になりそう。結局母親は父親と離婚して実家の四国に帰りたいみたいやし。俺はこっちに残りたいし」


「そっかぁ、でもよかった。健太君が四国行くってなったらさすがに辛かったと思うし。じゃあ私は料理の練習もしといて、作りに行くからね」


 外で、人前であまりイチャイチャするのは苦手だし健太君もそう言っていたが、思わず健太君の手を握り肩の辺りに頭を預け、寄り添う。


「お母さんにもちゃんと報告に行かなきゃやな。」


「そうだね。お母さんも気にしてたからね。そう言えばお父さんも健太君の事気にしてたよ。どんな人だって」


「ははは、お父さんか。さすがに会うのは緊張するな。それで美優ちゃんはなんて答えてくれた?」


「ちゃんと優しくて素敵な人だよ。って言っといたよ」

 私は飛び切りの笑顔を健太君に向ける。


 お父さんからは『良い人なのか?』って聞かれて、私は『優しくて素敵な人だよ』と答えた。

 それはきっと健太君にとって『良い人』っていう表現は必ずしも褒め言葉ではないからだ。

 多分それは身近な人かそうでないかや、関係性なんかによって変わってくるとは思うけど。

 少なくとも私だけは『良い人』という表現は使わないと決めている。


「まぁ、そのうちお父さんにも会ってあげてよ。じゃないと健太君が一人暮らし始めた時泊まりに行きづらいから」

 私は少しお願いするように健太君を見上げる。


「まぁそうだよね。いつかは会って挨拶しなきゃな。それとそうやって上目遣いでお願いするの卑怯だよ。そんな風にお願いされたら断れる訳ないからね」


「ふふ、ちょっとあざとかったかな?そう言えばお父さん昨日出張から帰ってきたから今日ならいるよ。どうする?」


「い、いやいや、今日はいきなりすぎるでしょ!?何も用意してないし、だいたい心の準備ってもんが・・・」


「ウチのお父さんなら大丈夫だって。ほら私も横に付いててあげるから」


「いや、そりゃ付いててくれなきゃ困るから。えっ、本気で言ってる!?」


 健太君は少し戸惑っていたが、私はお構いなしに話しを進めようとしていた。

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