第29話 初対面

 -健太-

 美優ちゃんに家にはいない方いいと言われ、とりあえず今日はネットカフェで寝ようと思いひとまず横になれそうな部屋を取り腰を下ろす。

「ふう、さて俺は今後どうするべきかな?まさかネットカフェ難民か?」

 そんな事を1人で呟き少し笑っていた。


 人は疲れて夜中になってくると些細なくだらない事でも笑えてくるようだ。


 ひとまず読みかけになっていた漫画を持って来てゆっくりしているとスマホが鳴る。


「もしもし」


「あっ、健太君。ごめんね。えっともう1回家まで来てほしいの」


「えっ?い、今から?」


「うん。今日3度目だけどごめんね」


 突然の事でちょっと戸惑ったが美優ちゃんの声は明るかったので何か名案が浮かんだのかもしれない。


 とりあえず受け付けへ行きお会計をすると店員に怪訝けげんな顔をされる。

 そりゃそうだ。

 部屋に入る前『深夜パックはいくらか?』『何時までに出なきゃいけないか?』と色々聞いていたのに1時間もしないうちに退出するのだから。


 そして店を出て無事美優ちゃんの家に着く。

『今着いたよ』

 そうLINEを打つとすぐに美優ちゃんが出てきた。


「本当ごめんね何回も」

 美優ちゃんは眉を下げながら謝ってくる。


「いや大丈夫だよ。何か名案でも浮かんだ?」


「あっいや、名案てほどでもないんだけど・・・とりあえず家に入って」


「えっ!?家に?美優ちゃんの家に?」

 突然の予期せぬ展開に困惑する。


「まぁほら夜遅いし早く入って」

 美優ちゃんに小声で急かされる。


 頭の整理、心の準備が出来ないまま、家に上がらせてもらう。


「お邪魔します」

 小声でそう挨拶すると


「あっいらっしゃい。初めまして美優の母です」

 そう言って綺麗な大人の女性が深々とお辞儀をしてくれる。


「えっ、あっ、夜分遅くにすいません。林健太と申します」

 急いでこちらも深々と頭を下げ挨拶する。


「あらちゃんと丁寧な挨拶してくれるのね」

 そう言って楽しそうに笑っている。


「えっ美優ちゃんのお母さん?」

 小声で一応確認すると、


「そうだよ。ごめんね。たぶんちょっと酔ってるの」

 そう言って美優ちゃんは困ったように笑っていた。


「何、私を除け者にして2人でコソコソ喋ってるのよ」


「いえ、想像以上に若くて綺麗なんでお姉さんなのかなと思いまして」


「あら健太君だったよね。貴方凄く良い子ね。今日はゆっくりしていってね」

 そう言ってお母さんはニコニコ笑っている。


「健太君あんまり調子乗らせなくてもいいよ。それよりお風呂まだなんでしょ?入ってきなよ。いいでしょお母さん?」


「えっお風呂まで入っていいの?」

 いきなり家に上げてもらって、お母さんと対面して、お風呂まで入らしてもらっていいのだろうか?


「勿論いいわよ。着替えはあるの?無かったら着なくなった適当なTシャツ貸してあげるけど」


「ありがとうございます。でも一応部屋着持って来てたんで大丈夫です」

 そう言って丁寧に頭を下げる。


「じゃあ健太君こっちがお風呂だから」

 美優ちゃんが案内してくれる。


「本当にいいの?ありがとう」


「いいよ。とりあえず今日は疲れたでしょ?ゆっくり入ってきて」

 そう言って美優ちゃんは満面の笑みを浮かべている。


 今日はお風呂は諦めてたので凄く有り難い。


 -美優-

 健太君をお風呂場に案内してダイニングでそのまま待機する。

「あらあんたもここで待ってるの?部屋で待っててもいいわよ。私が健太君におしゃくしてもらうから」


「人の彼氏をホスト代わりにしないで!」


「あら何よ~ちょっとぐらいいいじゃない。妬いてんの?」


「健太君がさっき私が笑った顔とお母さんが笑った顔が似てるって言ってたけど私そんな意地悪そうな笑顔しないと思うんだけどなぁ」


「あら、あんたも意地悪そうな顔してる時あるわよ。じゃああんたに怒られたくないから今日はもう寝ようかな」

 そう言ってお母さんは立ち上がりダイニングから部屋へ歩いて行く。


「お母さん。・・・ありがとう」


「全てが上手く解決したら何かお返しぐらいしてね。あと健太君、良い男っぽいね。手放さないようにね。じゃあおやすみ」

 そう言って片手を上げながら笑顔で自室へと戻って行った。


「なんだかんだ、かっこいいねあの人お母さん

 私は1人ダイニングで座り頬ずえをつきながら笑ってた。


 暫くして健太君がお風呂から上がってくる。

 2人っきりとなり途端に緊張してしまう。


「良いお湯でした。ってアレ?お母さんは?」


「おやすみって言って寝に行っちゃった。私達も上に上がろう」

 そう言って私の部屋へいざな

 初めて自分の部屋に男の人を入れる訳だが正直私の心拍数は上がりっぱなしだった。


「さぁ、荷物はそこら辺に置いて適当にくつろいでくれていいよ」

 私は緊張を隠すようにあえて崩れた言い方で普通に接する。


「ありがとう。正直助かるよ。それに美優ちゃんとも一緒にいれるし」


 最後の大事な部分になるにつれ下を向きながら話す健太君。

 そういう所に少しもどかしさを感じる。


「あっ、あと私の部屋は禁煙でお願いね」

 私は健太君の顔の前に人差し指を1本ぴんっと立て笑顔で注意を促した。


「あっ、バレてたんだ?」

 健太君は困ったように笑ってた。


「そりゃ勿論。吸わない人にはすぐバレると思うよ。まぁやめろとは言わないけど私の前ではあまり吸わないでね」


「了解。極力我慢します・・・美優ちゃん1つ聞きたい事があるんやけど」


 突然聞きたい事があると言われると何を聞かれるのか思わず身構える。

「な、何かな?答えられる事なら」


「じゃあ正直に教えてほしいんだけど・・・」


 な、何?何聞かれるの?


「今俺の後ろに女の霊はいる?」


「あ、それね。ああ、大丈夫、大丈夫。今はいないみたい」

 そりゃ今普通に考えれば1番気になる事よね。


「どうしたの?ひょっとして美優ちゃんお酒飲んでる?」

 健太君は優しく微笑みながら聞いてくる。


「あはは、ごめん。ちょっとお母さんに付き合って飲んじゃった。でも缶ビール2本ぐらいだからそんなに酔ってないよ」

 酔ってる、酔ってない、の問題じゃないのはわかっているけど正直に告白する。


「なるほど羨ましいなぁ。俺はお酒弱いからさぁ」


「そうなんだ。ねえねえ健太君。私が言っても説得力ないけど、タバコもお酒も二十歳になってからだよ」


「だよねぇ。間違いない」


 いつの間にか緊張もほぐれていた

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