健太と美優の不思議体験~やばいのに取り憑かれました。

赤羽こうじ

第1話 夜景の綺麗な所なのに・・・

 あれは8月、夏休み真っ只中のよく晴れた日だった。


 当時高校3年生だった俺は友達のノブからの電話で目が覚めた。


「おーい健太けんた、まだ寝てたのかー?」

 笑いながらちょっとあきれた様な口調で言ってくる。


「いやいや、昨日も走ってて帰ってきたのは明け方やったし」

 寝ぼけながらも少し反論してみる。


 因みに『走ってて』とは自分の足で走ってるのではなくバイクで走ってたのである。


 ノブも一緒になって明け方まで遊んでたのに元気な奴だ。


「今日も21時集合ってさっき勇介ゆうすけからグループLINE来てたぞ」


「あぁ了解。また返信しとく」

 高校3年生の夏、普通なら就職活動や受験勉強などで忙しいはずなんだが俺達は将来やりたい事もなくただ遊び呆けていた。


 ずっと好きに生きて行きたいなぁ、なんて現実から目を背けていたんだろう。


 時計を見ると13時過ぎ、とりあえずグループLINEに「了解。じゃあ21時にGで」と返信して今日の活動を始める。

 因みにGとはショッピングセンターの駐車場の事である。


「ふぅ」

 時計を見ると20時前だった。


 特に何かしてた訳でもなく時間だけが過ぎていた。


「そろそろノブの家にでも行こうかな」

 おもむろにノブにメッセージを送る。


 5分ほどして返信が来た

「20時半頃に来てくれ」

 いつも1人なら了解、とか、OKって返ってくるのにこういう風に返って来たって事は朱美あけみちゃんが来てたのかな。


『あぁ結局今日も1日無駄に過ごしたような気がする』


 なんだか少し虚しくなりながらも、彼女が出来ないのは結局自分のせいだなと軽く自己嫌悪になりながらとりあえず20時40分にノブの家に着くように支度を始めた。


『着いたぞー』

 ノブにメッセージを送るとすぐに出てきた。


「よし、行こうか」

 楽しそうにノブが言う。


「あれ?朱美ちゃんは?」

 不思議そうに俺が尋ねると、


「あぁ健太君久しぶりー」

 ドアの向こうから朱美ちゃんが出てきた

 小柄で細身、ややキツい目付きでパッチリ二重の美人さんだ。


「あぁ久しぶり。って言っても3日ぶりぐらいじゃない?」

 俺は少ししたり顔で言ってみる。


「貴方達はほぼ毎日一緒にいるんでしょ?そして私は3日ぶり、久しぶりでよくない?」

 まぁ確かにノブとはほぼ毎日一緒にいるし言ってる事は間違ってないか。


「だいたいさぁ健太君とは毎日会ってて私とは3日に1回ぐらいっておかしくない?」

 少し拗ねたようにそれでいて少し意地悪なように笑顔で捲し立てて言ってくる。


「いやいやでも朱美もなんだかんだ『今日はバイトが』『今日は受験勉強で』とかで結局3日に1回ぐらいのペースになってるし」


「まぁそれはそうだけどさぁ・・・」

 いつもの2人の軽妙なやり取りを一歩引いて見守りつつ

「さてそろそろ行こうか」

 と切り出し集合場所のGへと向かって走り出した。


 21時前

 Gに到着するといつものメンバーが揃ってた。


「おっ今日はノブの彼女も一緒か」

 髪を短く刈り上げた一際筋肉質な男が立ち上がる。この男が俺達の中心的存在の勇介である。


「今日はどこ行くか決まってんの?」

 俺はなんとなく聞いてみた。


「おお、今日は隣りのA市まで軽く流してみようかと皆で喋ってた」

 いつもこんな感じで特に目的地を決める訳でもなく皆で集まってバイクで走っては自動販売機の前やコンビニで休憩しては談笑してまた走って、を繰り返し明け方頃に解散するのがいつものお決まりのパターンだった。


 周りから見ればただのタチの悪い奴ら、と見られてたかも知れないが自分達にはそんな気もなく、またどんな風に見られてるか気にもしてなかった

 まぁただのバカだったんだろうなと今は思う。


 そしてA市まで軽く流しながら走ってると先頭を走る勇介がとある山道で急にバイクを止めた。


 いつもなら自動販売機の前やコンビニ等飲み物買って軽く休憩出来るような所で止まるのにここは真っ暗で周りには何もない山道だ。


「どうした?こんな所で」

 俺は不思議に思い聞いてみた。


「いや、ここがほら」

 指をさす方をみると鉄の門があり『この先立ち入り禁止!』と書かれている。


 確かにここは山道を登って来て鉄の門があるから一本道のように思っていたが鉄の門の向こうにも道が続いており門が無ければ三叉路になっている。


「なんかこの向こう気にならへん?」

 勇介の目は凄く輝いていた

 もうこうなると止まらなくなる。


「えっバイクここに置いて歩いて行く気?」

 俺達は半分諦めながら聞いてみた。


「いやまぁ門越えて歩いてちょっと見に行くだけ」


「いやぁ女の子はこの門越えて行くのはちょっと厳しくないか?」

 俺は上手い事反対案を出したつもりだった。


 しかし

「えっ、でもこの横から通れそう」


 横槍を入れてきたのは佐和子さわこと言う女だった

 佐和子は朱美ちゃんよりも更に小柄で可愛らしい感じの子だった。


 でも考えもなく思った事はすぐに口に出す空気の読めない子でもあった。

 そして間の悪さもピカイチだった。


「じゃあとりあえずバイクここに置いとくのも不用心だし誰か見ていてほしいんだけど」

 せめてもの抵抗とばかりに提案すると


「じゃあ俺と朱美が残ろうか」

 と、すかさずノブが手を挙げた

 そうノブはこの手の恐怖系や心霊系は苦手なのだ。


「じゃあノブと彼女は残っといてあとは行こうかぁ」

 勇介はもう早く行きたくて仕方ないといった感じだ。


 ひとまず朱美ちゃんをウチの我儘なリーダーの真夜中のハイキングに付き合わさなくてよかったと思いつつ、ひょっとしたらあの真っ暗な山道でずっと待ってる2人の方が恐怖かも、と思いながら俺達は門の横をすり抜け明かりの無い真っ暗な山中を歩き進んで行った。


 5分、10分とひたすら真っ暗な山道を歩き続ける

「ずっと歩いて来てるけどこの道ちゃんと舗装されてるよな」

 仲間内の1人泰文やすふみがふと呟く。


 確かにそうだ。

 鉄の門で塞がれて所々アスファルトの割れ目から雑草が生えてはいるがここはしっかりとした道路だ

 俺も実際気にはなっていた。


 皆も口には出さないが気付いていたような感じだ。


「でもこの道どこまで続いてるのかな?」

 佐和子が少し不安気に言う。

 確かに明かりもないこの暗闇の先に道はどこまでも続いているようだった。


「さすがにこのままこの先まで歩いて行くのキツくない?」


「この先に何かあるかもわからないんだし、そろそろ引き返そうよ」


「残してきた2人にも悪いし」

 皆、口々に不満を言いだした。


 勇介はまだ諦めきれない、といった感じだが

「まぁこのまま進むのもしんどいし一旦戻ろうか」

 残念そうにそう言った。


 ・・・『一旦』

 気になる単語があったがとりあえず戻る方向になったので少しホッとした。


 暫く歩いて来た道を戻っているとようやくバイクを置いていた場所まで戻って来る事が出来た。


「おお、お帰り。なんかあった?」

 ノブがやっとか、といった感じで聞いてきた。


「いや結局道がいつまでも続いてる感じで明かりもないから途中で帰って来たわ」

 勇介が残念そうに返す。


 その後いつもの様に少し走った後いつもより少し早めに解散する事になった。


 2日後

『あの山道の先を確認したいから今日22時にGに集合で』

 グループLINEにこんなメッセージが来た

 送り主は勿論勇介である。


 あぁやっぱりそうなりますか

 俺はそう思いながらも『了解』と返信した。


 正直俺はそういう肝試し系は嫌いじゃない。

 ただあの時は周りの意見も聞かず自分の意見だけで突き進んで行く勇介に少し呆れていたのだ。


 グループLINEを見てるとノブも『了解』と返信していた。

 ちょっと以外だったので電話してみる。


「いやまぁ山道進んで行くだけやろ?それに朱美が行きたいって」

 意外だった。朱美ちゃんそういった肝試し系好きやったとは。


 意外って思いながらも、では今日は21時半過ぎにノブの家に集合という事になった。


 22時

 いつものGに着くと皆準備万端といった感じだった

「よし皆来たな。じゃあ行くかー」

 勇介は楽しそうに皆に声をかける。


 皆もそれなりに張り切ってる感じだった。

 俺もなんだかんだ楽しんではいた。


 途中コンビニに寄り飲み物を買い込んでいるとふいに佐和子が喋りかけてきた

「ねぇ健太君。あの山道進んで行った時さぁなんか寒くなかった?」


 確かに8月にしては少し寒く感じたが

「まぁ夜中の山中やし少しは肌寒かったかも」

 俺は佐和子が言わんとする事をやんわりと否定してみた。


「でもさぁ普通に舗装されてるのに鉄の門で道塞ぐって何かあったからじゃないの?」

 それでも佐和子は食い下がってきた。


 そして少しキメ顔でこう言った

「私はなんか嫌な予感がするの」


 じゃぁなんで来たんだよ!ってツッコミたくなったがここは我慢した。



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