その後の2人(玲依)

 侑が家で待っていてくれて、おかえり、って優しい声に一瞬で仕事の疲れなんて吹っ飛んだ。

 苦手なはずの料理を覚えて、ご飯まで作っていてくれていた。聞けばお母さんにも作ったって言っていたし、少しずつ関係が改善されてるのかな、って嬉しくなる。


 美味しい、と言えば照れたように笑う侑が愛しくて、今日は私が、なんて思ったけど、きっと今日も侑は攻められるつもりなんてないだろうな……

 侑が落ち込んだりした時限定な感じだもんね。しょんぼりする侑が可愛すぎてつい苛めたくなる私はSっ気もあったんだなって侑と付き合ってから知った。



 お皿を洗おうとキッチンに向かえば、感じる侑の視線。


「侑? テレビいいのなかった?」

「んー、玲依ちゃんの近くに行きたいなぁって見てた。そっちいってもいい?」

「かわい。もう少し待ってね」

「はぁーい」


 聞けば近くに居たい、なんてストレートに言ってくるからずるい。侑はいつだって真っ直ぐで気持ちに嘘がない。たまに変態炸裂してるけど……



「お待たせ」

「玲依ちゃん、ここ来て、ここ」


 洗い物を終えて、お風呂の準備をして近づけば、体勢を変えて両手を広げる侑。ニコニコしてて可愛すぎるよ……?


「……何もしない?」

「うん。しないから、お願い」


 もしするならベッドがいいんだけどな……と思って聞いてみればつぶらな瞳で見上げてくるから、侑の要望通り足の間に座って身体を預けた。


「侑、くすぐったい」

「だって玲依ちゃんいい匂い」


 ぎゅっと抱きしめられて、首筋に顔をうずめてきてくすぐったい。そして匂い嗅ぐのやめて貰ってもいいかな……おっきなわんちゃんに懐かれてる気分。


「せめてお風呂入ってからにして欲しかったなぁ……」


 聞こえてるはずなのに、離してくれないし……満足するまでどうぞ、という気持ちで好きにさせることにした。


「あ、お風呂沸いたって。玲依ちゃん、好きにさせてくれてありがと」

「どういたしまして? 侑、先に入る?」


 満足したのか、離してくれたから振り向いて侑を見上げる。


「ううん、玲依ちゃん先に入ってきて」

「侑ちゃん、一緒に入ろっか?」


 試しに一緒に、と誘ってみたけど、きっと入らない、って言うだろうな。お風呂で抱き潰されて逆上せちゃってから、かなり反省したみたいだし。


「はい……ら、ない」


 予想通りの答えが返ってきて、思わず笑ってしまった。そんなに悔しそうにするなら一緒に入ればいいのに。


「ふふ、行ってきます」

「はい」


 さらさらの髪を撫でれば大人しく撫でさせてくれた。



「出たよー。侑も入っておいで」

「……その前に、髪乾かそ?」


 軽く髪を拭いて侑の元に行けば、私を見て一瞬止まって、お風呂場に戻させようとする。


「侑ちゃんが入ってる間に乾かすから」

「え……」

「襲わないから、安心して?」

「ーっ!? 私の台詞だし!! 襲われるのは玲依ちゃんなんだからね!!」


 それはちょっと、落ち着かないんだけど……って心の声ダダ漏れの侑をからかってみれば、何を想像したのか、真っ赤になって訂正してくる。

 どう考えても、裸の侑の方が防御力低いと思うけど、そのつもりなんだな、ってドキってしたのは侑に抱かれることの幸せを知っているから。


 侑が浴室に入った頃に脱衣所に行けば、襲う、なんて言い返しておきながら、鼻歌を歌いながらご機嫌な様子。

 髪を乾かしてスキンケアと歯磨きをし終えても侑が出てくる気配はない。私がいるから出れないのか、単純にのんびりしているのか……

 ドアを開けて覗き込めば、後者だったみたいでぐでーっと湯船に浸かっていた。


「ん? 玲依ちゃん?」


 身体を起こして首を傾げる侑は当然裸で、綺麗なボディラインに惹き込まれる。襲わないから、なんて言わなきゃ良かったかな……


「侑、先に寝室行ってるね。早く来てね?」


 私の誘いに目を見開いて、ドアを閉めた先でザバッと立ち上がる音がした。


「すぐ出る!!」

「ふふ、待ってる」


 うん、素直で可愛い。寝ないで待ってないと。



「玲依ちゃん、起きてる?」

「うん……もうちょっと遅かったら寝てたかも」

「うわ、危な……良かったぁ」


 ベッドで横になって侑を待っていたけど、なかなか来なくて危うく寝るところだった。起きてようと思うのに、一瞬で睡魔に負けるのはなんでだろう?


「玲依ちゃん、疲れてる?」

「ううん、大丈夫」

「いい?」


 焦れたような目をして、でも私からの了承をじっと待つ侑。

 どうしてもそういう気分じゃない時ってあるし、それをちゃんと分かってくれる。いつだって私のことを優先してくれて、どこまでも優しい。

 ただ、1度OKを出した後は、ね……若いしね、仕方ないよね……


「うん……っ、ゆう……」


 了承の返事を返せば、そっと押し倒されて唇が塞がれた。


「……は、いい声」

「恥ずかし……」

「もっと聞かせて」

「や……っ、ぁ……」


 侑のキスに酔いしれていたら、唇がどんどん下がってきて声を抑えられなくなる。

 我慢しようとしたって無駄な抵抗なんだけど……歳下の侑にいつだって翻弄されて、意地悪な侑にどうしようもなくドキドキする。

 侑と付き合う前はそんなこと無かったはずなのに、侑に抱かれる度にM度が増していってるような気がするし、大丈夫だろうか……引かれてないといいけど……



「なんかさ……今日の、いや、最近の? いつも? 玲依ちゃん、やばい」

「何それ?」

「とにかく、やばいの!!」

「侑ちゃん、語彙力……」


 やばいしか言わない侑を見れば、何を思い出しているのか、締りのない顔をしていて、悪い意味じゃないことは分かった。


「それはいい意味で、ってこと?」

「もちろんっ!! それにしても、この感触、最っ高……」

「変態……」

「私のなんだし、いいの!!」


 私の胸に触りながら嬉しそうな姿はさっきまでのドSな侑とは違いすぎて、私の顔もきっと緩んでいるに違いない。

 私にしか見せない侑が愛しいし、これからも私だけが知っていればいい。

 私も侑にしか見せていない所なんて沢山あるし、これからもいい所も悪いところも認め合えたらいいな。



「玲依ちゃん、このまま寝てくれる?」

「このまま……? 裸で、ってこと?」

「うん」

「まぁ、いいけど」

「やった! ちょっとごめんねー」

「うん……?」


 これは、腕枕?? 


「首痛い? 大丈夫?」

「大丈夫。侑は腕痛くない?」

「平気! やってみたかったんだ」


 嬉しい、って笑う侑が可愛くて堪らない。きゅんきゅんさせてくるからずるいよなぁ……


「ねぇ侑、私といて幸せ?」

「うん!! 幸せ!!」


 ふにゃ、と笑う侑に唇を寄せて、一日の終わりを一緒に過ごせる幸せを噛みしめながら目を閉じた。

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