24.帰省

 玲依視点


「侑、今年もよろしくね」

「うん。よろしくお願いします!」


 侑と過ごす初めての年末、テレビを見ながらのんびり過ごして、年が明けた。


「玲依ちゃん、何か言いたいことある??」

「え、なんで?」

「さっきからチラチラ見てるからさ」


 なんで気づいたんだろ……明日侑が実家まで送ってくれることになっているけれど、寄ってもらうかを悩んでいた。

 侑に私の家族を紹介したい気持ちと、家族にはまだ伝えていないから、後輩ってことで紹介したらどうか、でも恋人なのに後輩って紹介するのってどうなの、とか……


「今回帰省するじゃん?」

「うん」

「侑が送ってくれた時に家族に紹介したいけど、驚くだろうし、まだ伝えるのは早いのかな、とか……」

「うん」

「侑は若いし、恋人って紹介しないとしても家族に会って欲しいとか重いかな、とか……」

「そっか。紹介したいって思ってもらえるのは純粋に嬉しいし、全然重くないよ。玲依ちゃんのご家族はまさか同性と付き合ってるなんて思ってもないだろうし、私のことは後輩、とかでどう? いや、でも後輩はわざわざ送迎とかしないかな……うーん、今回は遠慮しておいた方がよさそ……なんでそんなにびっくりしてるの??」


 普段から大人びてるな、と思っていたけれど本当に侑ってしっかりしてる。


「しっかりしてるなぁ、って」

「そう? 玲依ちゃんが家族と険悪になるなんて嫌だし。家族と私との間で苦しんで欲しくないから。話せなくて申し訳ないとか思う必要なんてないからね」


 解決した? って笑顔を向けてくる侑が眩しい。侑はいつだって私の事を考えてくれて、大切にされてるなって実感する。


「ありがとう」

「ううん。もう寝よっか」



 寝る準備をしてベッドに横になれば抱き寄せられた。


「玲依ちゃん、シたい、って言ったら嫌? もう寝たい?」

「……っ、んんっ」


 侑ちゃん? キスをしながら、素肌に手を這わせながら聞くことじゃないと思うよ?


「ね、だめ?」

「ん……だめ、って言ったら、っ、やめてくれるの?」


 じいっと見つめてくる侑が可愛くて、元々拒否するつもりなんてないけどちょっと焦らしてみた。


「……うん。玲依ちゃんが嫌がることはしないよ。でも、拒否されないように、その気になってもらおうとしてる」


 顔中に啄むような口付けが降ってきて、切なげに微笑まれた。あー、可愛い……


「優しくしてくれる?」

「それは玲依ちゃん次第かな。受けの時の玲依ちゃんはMだもん、少しくらい強引な方が嬉しいでしょ? 反応良いもん」

「それは、まぁ……」

「ね、いい?」

「うん」


 もう侑にはバレてるし、隠しても仕方がない。私が本当に嫌がる事はしないし、安心して身を委ねた。



「わー、もうここから渋滞かー」

「凄いね、真っ赤」


 普段より遅めに起きて、少しのんびりしてから家を出る。高速に入ってナビを見れば、先まで真っ赤。分かってたけどすごい混んでる……


「普段なら早く、って思うけど玲依ちゃんと一緒にいられるから進まなくてもいいや」


 お菓子とか買ってくればよかったねぇーってほのぼのしてる侑に笑いそうになる。侑は渋滞でイライラするのかな、なんて思っていた私の予想の上を行くなぁ……


「侑、のど飴持ってきたけど食べる?」

「わ、食べる!!」

「何味がいい?」

「んー、玲依ちゃんのおすすめで!」

「ふふ、おっけー!」


 袋を開ければ、左手を出してくるけれどここはやっぱり、ねえ?


「ゆーちゃん、あーんして?」

「えっ!? あーん……あーんして、とかかわいすぎ……」


 ゆうちゃん、心の声漏れてるよ??


「いらないの??」

「あ、いる! いる! ……ありがと」


 遠慮がちに口を開けてくれたから飴を食べさせてあげれば照れてるのか、落ち着かない様子でしきりに髪を触っている。もっと色々してるのにこんなに照れるなんて可愛い……


 構いたくなるけれど、今は運転中だからね……我慢します。



「玲依ちゃん、忘れ物ない?」

「うん。送ってくれてありがとう」


 途中のサービスエリアで少し早めのお昼を食べて、お昼すぎに実家に到着した。侑が荷物をトランクから降ろして渡してくれる。

 渋滞していて時間はかかったけれど、話は尽きなかったし全然苦じゃなかった。まぁ、私は乗ってただけだけど……


「いいえ。じゃ、楽しんでね」

「あー! れいちゃんだー!!」

「……弟?」


 窓を開けて、ぴょんぴょん飛び跳ねている甥っ子を見て、侑が首を傾げている。


「弟じゃなくて、甥っ子。兄の息子」

「あ、お兄さん居るんだ」

「うん。姉も居るよ」


 そういえば話してなかったかもしれない。


「それで甘え上手なのか」


 うんうん、って納得してるけど、今までそんなこと言われたことないよ? こんなに素直に甘えられたことなんてなかったし。


「れいちゃん、はやくー!!」

「ふふ、かわい。待ってるみたいだし、行ってあげて?」

「帰り気をつけてね?」

「うん。ついでに観光してこようと思うから、写真送るね」

「楽しみにしてる」

「じゃ、また」


 窓から手を振っている甥っ子にも笑顔で手を振って、帰って行った。



「れいちゃん、ひさしぶりー!」

「久しぶり。春輝大きくなったねー」

「ぼくもういちねんせいだからねっ」


 玄関まで迎えに来てくれて、ふふん、とドヤ顔の甥っ子。大きくなるのはあっという間だなぁ。


 春輝とリビングに入れば両親と兄、義姉、姪っ子が揃っていた。


「お帰り」

「ただいまー」

「ねー、れいちゃん、さっきのおにいさんはどこいったの?」

「彼氏か!?」


 お兄さん……まぁ、そう見えるよなぁ。


「お姉さんは観光しに行ったよ」

「おねえさん?」

「そ。お姉さん」


 春輝と話していたら、立ち上がっていた蓮兄がなんだ、女の子か、と安心したように頷いて元の位置に座った。相変わらずシスコンだな……私もう29なんだけど?


「千紗姉は?」

「多分夕方になるんじゃないかな」


 夕方には千紗姉と旦那さん、甥っ子が来てみんな揃ったけれど、子供が多いと凄い賑やか。ちっとも大人しく座ってないし、大騒ぎ。


 侑からはマメに連絡が入って、観光を楽しんでるみたい。綺麗な花や侑が見ている景色の写真が送られてきて、自撮りも送ってってお願いしたけど、恥ずかしいって断られちゃった。残念。


 実家でのんびり過ごして、姪っ子や甥っ子と沢山遊んで楽しかったけど、ここに侑が居たらもっと楽しいんだろうな、って何度も考えた。いつかちゃんと話せたらいいな。

 今日の夜には迎えに来てもらえるけど、早く会いたい。



 同窓会の時間が近づいて、少し前に会場に到着すれば、それなりに集まっていて賑わっていた。


「玲依、久しぶり~!」

「真希、久しぶり。元気? 今日は旦那さんは?」


 結婚して旦那さんの転勤について行ったから、真希と会うのは結婚式以来かな?


「元気元気! 旦那は1人で実家に居るのも、ってついてきたから、近くの居酒屋に置いてきた」

「置いてきたんだ」

「大人なんだし勝手に過ごすでしょ」

「旦那さんの扱い……」


 結婚して2年も経つとこんなもん? 


「うちの旦那の話はどうでもいいけどさ、玲依は歳上の彼氏と順調?」

「いつの話? とっくに別れたわ」

「もしかして今フリー? 大村覚えてる? 玲依は結婚したのかなって気にしてたよ」


 大村……? あ、委員長か。そんなに接点無かったけどな……


「間に合ってますー」

「あ、もしかして新しい彼氏?」

「まぁ、そんなとこ」

「うわ、ニヤニヤしちゃって~大村は残念だったね~」


 彼氏じゃなくて彼女、って言ったらびっくりするんだろうな。真希はいい反応してくれそう。

 久しぶりに会う友人ばかりで話が弾んだけれど、結婚していたり子供がいたり、そういう年齢になったんだなぁ、としみじみと感じる。


 久しぶりに会って意気投合したのか、いい雰囲気の組み合わせもあるみたい。



「玲依、二次会は?」

「迎えが来るから、帰るわ」

「お、例の彼氏? 私も行かないから、一緒に待っててもいい?」

「いいよ」


 さて、どんな反応するかな? 終わったと連絡を入れれば、もう着いてる、と返事が来たから外に出れば、侑が笑顔を向けてくる。


「玲依ちゃん」

「侑、迎えありがとう」

「ううん。荷物もつよ」

「ありがと」

「えっと、こちらのお姉さんは?」

「中高一緒だった友達で、真希。……真希??」


 侑をボーッと見たまま固まっている真希。どういう反応?


「……はっ! え、イケメン! 若くない!?」

「7歳下」

「7歳!? まさかの歳下ぁっ!?」

「初めまして。山崎 侑です」

「あ、初めまして。佐原 真希です。侑くんか~モテるでしょ!?」


 どうしよう、って私の方を見てくる侑が困ってて可愛い。


「真希、侑が困ってるから。それと、くん、じゃなくてちゃん、ね?」

「……ん? んん?? おんなの、こ?」

「そう。私の彼女。かわいいでしょ?」

「え?? えぇ~!?」


 予想通りのいい反応。少し話して、旦那さんと合流して飲み直すという真希を見送って車に乗り込めば、相変わらずいい匂いでなんだか安心する。

 運転席を見ればちょうど侑もこっちを見ていたのか目が合って優しく微笑んでくれた。あぁ、やっぱり好きだなぁ。

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