ご挨拶(山崎家編)
「少し落ち着いたら?」
「さっき家出るって連絡来たから、もうすぐだと思うんだけど……やっぱり迎えに行けばよかった」
「聞いてないわ」
なかなか休みが合わなくて、母の日曜日の夜勤前に玲依ちゃんと会ってもらうことになった。
玲依ちゃんは休出をしていて、予定より早く終わったから着替えてから向かうと連絡をくれていた。
迎えに行く、と言ったけれど近いし大丈夫、と断られてしまったから、部屋の中をウロウロ歩き回る私と、のんびりソファに座る母。こういう時ってお母さんも少しは緊張するもんじゃないの??
ピンポーン
「来たっ!! 行ってくる!!」
「……行ってらっしゃい」
オートロックを開けて、玄関を開けて待っていれば少しして玲依ちゃんの姿が見えた。
「玲依ちゃん、今日も可愛い!!」
「ふふ、第一声がそれ? 待っててくれたんだ」
「あ、お疲れ様。玲依ちゃんが迎えいらないって言うから、せめて玄関まではって」
「近いんだし大丈夫だよ。待っててくれてありがとう」
「うん! あ、どうぞ! ジャケット預かるね」
「お邪魔します」
玲依ちゃんのジャケットを預かってリビングに誘導すれば、ニヤニヤしながら私たちを見ている母と目が合った。
「え、何?」
「あんたほんとに侑?」
いや、どっからどう見てもあなたの娘ですけど?
「……はい? 侑ですけど? お母さん、彼女の高野 玲依さん」
「初めまして。侑さんとお付き合いさせてもらっています、高野 玲依と申します。本日はお忙しいところお招き頂きありがとうございます」
仕事モードの玲依ちゃんなのかな。キリッとしててかっこいいなぁ。
「初めまして。侑の母です。こちらこそ、わざわざありがとうございます」
「こちら、お口に合えば良いのですが、よろしければ」
「お気遣いありがとうございます。さ、堅苦しいのはここまでにして……どうぞ。侑、飲み物持ってきてもらえる?」
「え!?」
早速玲依ちゃんとお母さんを2人っきりにして大丈夫? え、こういう時ってどうしたらいいの?
「いや、でも……」
玲依ちゃんを見れば、余程情けない顔をしていたのか、笑って頷いてくれた。母から玲依ちゃんが持ってきてくれたお菓子を受け取ってキッチンへ急ぐ。早く準備しないと。
お湯が湧く時間がやけに長く感じて、ここまで話し声は聞こえないし、何を話してるのかな、って気になって仕方がない。
「お待たせしましたー。え、何??」
飲み物とお菓子を用意して戻れば、随分リラックスした様子の2人の視線が集中した。
「玲依ちゃん、本当に侑でいいの?」
「何の話!?」
「いや、侑には勿体ないから」
「そんなのは知ってるけど!! 嫌って言われたらどうしてくれるの……」
一応あなたの娘なんですけど? 話が見えないし……
「はい。侑がいいです」
「玲依ちゃん……」
玲依ちゃんを見れば、安心させるように笑ってくれてキュンとした。
「じゃ、玲依ちゃんごゆっくり」
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ。会えてよかった。侑のこと、よろしくね」
「はい」
仕事に行く母を見送りに玄関まで行けば、繰り広げられる母と玲依ちゃんの会話。なにこれ、照れる……
「……行ってらっしゃい」
「行ってきます。侑、玲依ちゃんに迷惑かけないようにね」
「かけないし!!」
私のことなんだと思ってるのかな?
「はー、緊張した……」
母を見送って、ホッとしたように息を吐いた玲依ちゃんを抱き寄せれば、抵抗なく寄りかかってくれた。
「玲依ちゃん、ありがとう」
「ううん。ちゃんとご挨拶出来て良かった」
「ねぇ、何話したの?」
「んー? 内緒」
「えぇ、教えてよー」
「そのうちね」
「そのうち……っていつ??」
「さぁ?」
くすりと笑われて、はぐらかされてしまった。玲依ちゃんの様子からして、何か嫌なことを言われた訳ではなさそうだけど……
母には心配ばっかりかけてきたけど、玲依ちゃんを紹介できたし、少しは安心してもらえてたらいいな。
*****
「ありがとう」
心配そうな顔をした侑がキッチンに行くと、侑のお母さんにお礼を言われた。何のお礼だろう??
「えっ、と……?」
「はは、突然ごめんね。玲依さん……玲依ちゃん、でいい?」
「はい」
侑はお父さん似だと言っていたけど、笑った顔がよく似てる。
「玲依ちゃんと出会ってから明らかに侑の顔つきが変わって。侑を変えてくれた人にずっと会いたくて……侑が立ち直ったのは玲依ちゃんのお陰だから」
「いえ、そんな、私は何も……」
「父親のこととか昔のことは?」
「あ、侑、さんから聞いてます」
「いつも通り侑、でいいのに。あの後から笑わなくなって、家にも寄り付かないし。私も余裕がなくて侑のケアがちゃんと出来なかったのが悪かったんだけど。派手に遊んでるみたいだったから、いつか大切な人が出来たら後悔する、って言ったら、そんな存在なんて要らないし、できないから関係ないって。とは言え、女の子だし色々心配で……口を出すほど反発されて逆効果だったけど、避妊はちゃんとしなさいね、って言ったことがあって……そうしたら男の人は無理だから相手は同性だしその心配はない、って冷めた目で一言だけ」
「それは……」
侑ちゃん……それはお母さんびっくりしたと思うよ……
「もう侑はずっとこのまま一人で生きてくのかな、なんて思ってたから。付き合うことになった、って聞いて嬉しくて。良ければこれからも侑と一緒にいてやってもらえたら」
「はい。私で良ければ」
キッチンで飲み物を用意する侑を見る視線は優しくて、ずっと見守ってきたんだな、って温かい気持ちになった。
「それにしても、玲依ちゃんを前にした侑が別人すぎて……さっきも迎えに行けばよかった、ってずっとウロウロしてて、私の言葉も全く聞こえてないし、インターホンが鳴ったら飛び出していって……いつもあんな感じ?」
「え、まぁ、時々は……」
そうです、と断言するのもはばかられて濁したけれど、侑のお母さんは察したのか苦笑している。会社での侑はクールらしいけど、私の前では違うもんね……
「お待たせしましたー! え、何??」
飲み物とお菓子を持ってきてくれた侑が戸惑っていると、侑のお母さんがニヤリ、と笑って私の方を向いた。
「玲依ちゃん、本当に侑でいいの?」
「何の話!?」
「いや、侑には勿体ないから」
「そんなのは知ってるけど!! 嫌って言われたらどうしてくれるの!?」
焦る侑を見て明らかに楽しんでいる侑のお母さん。侑が避けていただけで、元々はこんな親子関係だったんだろうな。
「はい。侑がいいです」
「玲依ちゃん……」
不安そうに侑が見てくるから、安心させるように微笑んで、侑のお母さんに伝えれば穏やかに笑ってくれた。
仕事に行く侑のお母さんを見送って、ホッと息を吐けば侑が抱き寄せてくれた。
侑がキッチンにいる間に話した事を知りたがっていたけど、昔のことを話したら最低だ、ってまた落ち込んじゃいそうだから内緒。
「あのさ、玲依ちゃん、良かったら泊まる……?」
「そうしたいけど、明日も仕事だし、着替えもないから帰ろうかな」
「そっか……そうだよね」
しゅん、とする侑が可愛い。ご挨拶もしたし、今度侑の部屋に着替えを置かせてもらってもいいかも。
「侑、泊まりに来てくれる?」
「え、うん!!」
「待ってるから、準備してきて?」
「はいっ!!」
ぱあっと笑顔になって、いい返事をして自分の部屋に走っていった。本当に素直で可愛い。
今度は私の家族に紹介する事を考えないと。まずは母と姉にそれとなく話をして、その後に父、最後に兄……かな。
次の帰省は一緒に帰れたらいいな。
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