アングレカム～いつまでもあなたと～

18.休日

　玲依視点

　目覚ましが鳴って、気怠い身体を起こして時計を見ればいつも通りの時間。隣を見れば、侑があどけない顔で眠っている。

　起こさないようにそっと抜け出して、シャワーを浴びた。

　朝ごはんを用意しながら、そろそろ起こさないとな、と思っていたら寝室のドアが開いて、まだ眠そうな侑が目を擦りながら歩いてきた。

「侑、おはよ」

「おはよー。玲依ちゃんいつ起きたの？　起こしてよー」

「そろそろ起こしに行こうと思ってた所」

「え。じゃあ戻ろ」

　ぴたっと止まって、寝室に戻ろうとする侑を捕まえる。

「なんで!?　戻らなくていいから」

「ちゅーして起こして貰いたかった」

「ふふ、可愛い。……んっ、これでいい？」

「玲依ちゃん……!!　ベッドいこ？」

「……だめ。ご飯できたよ」

　可愛い顔でお強請りされて、仕事がなければ頷いていたかもしれない……

　寝起きの可愛さは反則だと思う。

　朝ごはんを口いっぱい頬張る侑を眺めながら、自分で言ったことだけれど、もう少しで帰っちゃうのが寂しい。

　居てもらってもいいんだけど、仕事中の姿を見られるのはちょっと恥ずかしいし、絶対集中できない気がする。

　昨日泊まったから、午後はもう会わないって言うかな……？　

「玲依ちゃん？　食べないの？」

「あ、食べる食べる」

　侑に不思議そうに聞かれて私も朝ご飯を食べ始める。うん、今日も上手に出来たんじゃないかな。

「え、玲依ちゃん、その服で打ち合わせするの？」

「え？　何かおかしい？」

　着替えようと服を取り出せば、ついてきた侑が驚いたような声を出すから、何か変かな、と手元の服を見る。カジュアルすぎる？　でもリモートなのにスーツは着る必要が無いし、私がスーツで参加したら次からほかのメンバーもそうしなきゃ、って思っちゃうでしょ？

「おかしくない。絶対可愛い。可愛くて見せたくない」

「何言ってるの??　普段着だよ？」

「だって、普段はスーツ姿でしょ。玲依ちゃんの私服姿、可愛いからギャップが……」

「そう？　じゃあこっちは？」

「え、可愛い!!　その組み合わせは見たことないけど似合ってる！　でも可愛すぎるからだめ」

「侑……」

「だって、ライバルが増えたら困る……」

　体育座りで小さくなってる駄々っ子が1人。上目遣いで見上げてきて可愛い……なんかもう、キュンキュンする。

「ふふ、かわい……増えないから心配ないって」

「玲依ちゃんは自覚無さすぎ!!　この前一緒に出勤した時だって、男性陣の視線が凄かったんだよ!?」

「え、そうだった？」

「そうなの!!」

　この前？　あぁ、途中で電話がかかってきた時か。対策を考えてて、周りなんて見てなかった。

「うーん、それならシャツだけ着ようかな。外に出るわけじゃないからジャケットはいらないし、下は見えないからこの辺のスカートで……これならどう？」

「可愛い!!」

　この子、さっきから可愛いしか言ってない。満足そうだから、これはOKってことなのかな。時計を見れば、もうすぐで8時半になるところだった。

「……あ。そろそろ帰らないと。玲依ちゃん??」

　私の視線につられて時計を見た侑が立ち上がって荷物を片付け出して、それを見ていたら無性に寂しくなってしまって、後ろからぎゅっと抱きつきに行った。

「侑、この後の予定は？」

「ん？　天気もいいみたいだし、洗車でもしようかな、って思ってるけど」

「洗車……寒くないの？」

「寒い！　でも洗車好きなんだよね」

　もうすぐ12月になるし、絶対寒い。侑の車はいつもピカピカだけど、冬も結構な頻度で洗車してるのかな……

　もう意識が車に向かっているのか、そういえばワックスが足りないな、なんて呟いている。

「ね、昨日泊まってくれたけど、午後も会いたい、って言ったら？」

「え？　もちろんそのつもりだったよ？」

　昨日言ったよね？　って首を傾げている。

「良かった」

「むしろ会わないって言われたら泣く」

「ふふ、泣いちゃうんだ？」

「いや、泣かないけど。……多分」

　かわい……

「連絡くれたら迎えに来るよ。出かける？　それともお家でのんびり？」

「うーん、のんびりしたいかな」

「ん、わかった。あのさ……今日も泊まりたい、って言ったら嫌だ？」

「ううん、嫌じゃない。明日一緒に出勤しよ」

「うん！」

　テンション高く帰っていく侑を見送って、もう家にスーツ1着置いていけば？　って言いたくなった。私のだと身長差があるから無理だし……今度言ってみようかな。

「おはよう」

「「「おはようございます！」」」

「ちゃんと映ってる？」

「はい！　バッチリです!!」

「それじゃあ、早速始めましょうか」

「昨日に続きお休みのところ、すみません」

「元々今日は仕事する予定だったし、大丈夫。それに、初動が早かったおかげで最小限で済んだから助かった。ありがとう」

　休みだから、と連絡をして貰えずに月曜日を迎えていたら大変なことになっていたからね。信頼関係が築けてるっていうことかな、と嬉しくなる。

　打ち合わせを終えて、休日出勤をしているメンバーの休みが予定通りに取得できそうかを確認して、資料を作り終えて時計を見れば、12時半を過ぎたところだった。侑、ご飯食べちゃったかな？

『もしもし？』

「侑、お待たせ。終わったよ」

『お疲れ様。今買い物来てて、お昼買っていくけどリクエストある？』

「やった！　じゃあ、ピザがいいな」

『ん。買っていくね』

「ありがとう。ちゃんとレシート貰ってきてね？」

「……あ、もう着いたから切るね～」

　これは貰ってこないつもりだな……

　電話を切って、果たして優柔不断な侑は決められるのかな、とちょっと心配になった。

「侑、これ何人分？」

「……2人分？」

「どう見ても2人分じゃないよね」

「だって店員さん達が色々おすすめしてくれるから」

「女の子？」

「え？　うん。それぞれおすすめが違うから結局決められなくて」

　全く、相変わらずなんだから……悩んでる侑を見兼ねておすすめしてくれたんだろうけど、達って言ったし、きっときゃあきゃあ言われてきたんだろうな。ちょっとモヤモヤする……

「余ったら冷凍すればいいかな」

「冷凍できるの??」

「うん」

　へぇー、と目を丸くする侑は可愛い。自炊しないんだろうし、侑に持たせてもいいかもしれない。

「あ。いくらだった？　レシート貸して？」

「貰ってない～」

「貰ってって言ったのに」

「玲依ちゃんが出してくれる時が多いからたまには払わせて？」

「……ありがとう」

「うん。さ、お腹すいたし食べよ！」

　ニコニコしながらピザを取り分けてくれて、私が食べるのを今か今かと待っている。

「あ、これ美味しい」

「1番人気なんだって。玲依ちゃん好きかなって。気に入ってもらえてよかった」

　相変わらず真っ直ぐだなぁ。心底嬉しそうに笑うからさっき感じたモヤモヤはすっかり無くなった。

　ピザを食べ終えて、ソファに並んで座ってテレビを見ていれば隣から視線を感じる。飽きちゃったのかな？

「ゆーちゃん、飽きたの？」

「ううん、玲依ちゃん、可愛いなぁって」

「突然なに？　え、照れる」

「ほんと可愛い」

　じっと見つめてくる侑から目を逸らせない。頬に反対の手が添えられて、ゆっくり侑が近づいてくるから目を閉じれば唇が重ねられた。

「……んっ、ゆぅ……」

「ベッド行こ」

　サッと抱き上げられて、寝室に歩き出す侑の胸に顔を埋めた。

「侑、カーテン閉めるから待ってて？」

「ダメ。待てない」

「ちょ……っとまっ……ん、ぁ……」

　ゆっくりベッドに降ろされて、カーテンを閉めようと起き上がりかけた身体は侑に組み敷かれて唇を塞がれたことで再びベッドに沈んだ。

　まだ明るいし昼間だけれど、たまにはこんな休日も悪くないかな。