21.攻守逆転

「侑、おいで」

「……失礼しまーす」

「緊張してるの?」

「それはもう……心臓やばい」


 先にベッドに入った玲依ちゃんに呼ばれてベッドに登れば、宣言通りに組み敷かれて頬に手が添えられた。


「可愛い」

「ねえ、やっぱり逆にしようよ」

「だめ。今日は大人しくして」

「……っ、ん、は……ぁ」


 唇が塞がれて、声を我慢しようとしても漏れてしまう。そんな私を見て玲依ちゃんの口角が上がってぞくっとした。


「声出してよ。……ふぅん? 我慢してるのも唆る」


 無言で首を振る私にニヤリと笑って、シャツに手がかけられた。


「ちょっと背中浮かせて?」

「……うん」


 じっと見つめられて、少し背中を浮かせればあっという間にホックが外された。


「大人しくなっちゃってかわい……ほら、手退けて」


 胸を隠していた右手を取られてぎゅっと繋がれた。


「っ、まっ……て……ゃ……」

「待たない」


 え、私の下で可愛く啼く玲依ちゃんはどこいっちゃったの……



「侑、お水いる?」

「うん。……えっ、玲依ちゃんが飲んじゃうの?」


 だるい身体を起こして、差し出されたペットボトルを受け取ろうと手を出したのに玲依ちゃんが飲んじゃうからつい不満げな声が出てしまった。


「ちょっ……んっ」


 玲依ちゃんの手が首の後ろに回されて、じっと見つめられてゆっくり唇が重ねられた。


「足りた?」

「れーちゃん、もっと」

「ふふ、いいよ」


 恥ずかしいけど、ペロッと唇を舐める玲依ちゃんが色っぽくてもっとと求めてしまった。

 大人な玲依ちゃんも好き……!!



 今までにこんなに甘やかされたことなんてあったかな、ってくらいお風呂でもベッドでも甘やかされて、可愛い、って数え切れないほど言われた。


 私に伝わるように、って気持ちを伝えてくれて、今度何かあればきちんと話すように、って約束させられた。少しでもネガティブな発言をしようものなら、すうっと目付きが変わって、まだ足りない? って……

 足りてます。充分です。それはもう、身をもって理解しました……



「さむ……」


 裸のまま寝てしまって、寒さで目が覚めた。横を見れば、玲依ちゃんが布団を抱きしめて寝ていて、そのせいで寒いのか、と納得した。もちろん玲依ちゃんも裸。布団じゃなくて私を抱きしめてくれたらいいのに。


「うわっ!?」


 布団を引っ張ってみても抜けなくて、服を着ようかな、とベッドから降りようとすれば腕を掴まれた。


「びっくりしたぁ……玲依ちゃん、起きてたの?」

「んーん、さっき起きた……どこ行くの?」

「寒いから服着ようかなって」

「あ、布団……寒かったよね、ごめん。おいで?」


 眠そうに目を擦りながら、両手を広げて呼んでくれるから擦り寄れば、ぎゅっと抱きしめてくれた。


「玲依ちゃんあったかい」

「うん……おやすみ」


 抱きしめてくれたから遠慮なく胸に顔を埋めれば、玲依ちゃんはまたすぐに寝息を立て始めた。柔らかいし、素肌が触れ合って気持ちいいし、幸せ。



「侑、そろそろ起きない?」

「やだ。用事もないしもうちょっと、だめ?」


 朝起きて、ベッドから出ようとする玲依ちゃんを引き止める。起きたら服着ちゃうでしょ? もうちょっとこのまま触れていたい。


「甘えたなの? 可愛いね」


 笑いながら頭を撫でてくれる玲依ちゃんは昨日に引き続きイケメンモード。可愛いしかっこいいってずるい。どっちの玲依ちゃんも好きだけど。



 私が玲依ちゃんを離さなくて、お昼の準備があるのに、と文句を言いつつも一緒にいてくれるんだから優しい。


 インスタントラーメンなら私にもできる、と張り切っていたらいい子だね、って頭を撫でられた。

 知ってたけど、玲依ちゃんって私に甘いよね。料理頑張ろ……



「ねー、玲依ちゃん、そういえばいつから実家に帰るの?」


 お昼を食べ終えて、洗い物をしながらソファにいる玲依ちゃんに声をかける。同窓会があるって言ってたけど、年越しも向こうなのかな?


「年越し一緒に過ごしてからって思ってたけど、侑の予定は?」

「もちろん空いてる!!」


 年越しの瞬間も一緒に居られるんだ。嬉しい。


「良かった。帰りは4日になるかな」

「楽しんできてね。でも寂しいなぁ」

「ふふ、可愛い」

「玲依ちゃん、嫌じゃなかったら送り迎えしたい」

「え、いいの? 大変じゃない?」

「全然。運転好きだし、少しでも一緒にいたいし」

「じゃあお願いしてもいい?」

「うん」


 玲依ちゃんを送ったら久しぶりに写真を撮りに行こうかな。まだ先だけど色々調べてみよう。でもその前にクリスマスもあるんだった。プレゼント、どうしようかな……



「映画でも見る?」

「見る! あ、これ見たかったやつー」


 ソファに並んで座って映画を検索しながら、玲依ちゃんが選んだのは恋愛映画。これ、結構際どいベッドシーンあるって話題になったんじゃなかったっけ……? 玲依ちゃんと一緒に見るとか変な気分になっちゃいそう……


「あー、ちょっと飲み物取ってくるね」


 思っていた通り、画面の向こうの恋人たちはいい雰囲気になって、ベッドシーンになった。そわそわしてしまって、飲みたくもない飲み物を取りにキッチンに向かう。1人ならいいけど、ああいうシーンを玲依ちゃんと一緒に見られる気がしないよ……


「ゆーちゃん、ああいうシーン見るの苦手?」

「えっ、1人なら平気だけど、玲依ちゃんが横にいると落ち着かなくて……」

「もしかしてシたくなる?」

「……うん」


 あの、ニヤニヤしながら太ももを撫でるのやめてもらえます?? 最後まで見せてあげられなくなるよ?? 誘ってるの??


「……っ、ちょっと」

「侑の太もも気持ちいい」


 ショートパンツだから直接肌に触れてきて、触り方もなんかエロい。


「もー、襲うからね!? 映画に集中して!!」

「ふふ、はーい」


 笑いながら手を引っこめる玲依ちゃん。お姉さんに弄ばれてる感……


「思ったより面白かったね」

「そうだね」

「侑、ちゃんと内容分かった?」

「あー、まぁ、大筋は?」


 途中抜けちゃったし、ちょこちょこ玲依ちゃんがちょっかい出してくるから集中出来なかったのもある。好きな人が触ってきてて集中できる? 無理だって。よく最後まで見せてあげられたなって自分を褒めたい。


「玲依ちゃん、もういいよね? ベッド行こ??」

「ん? してくれるの?」


 上目遣いで首を傾げる玲依ちゃんを抱き上げる。やばいって。


「あんなに触ってきてさ、絶対誘ってたよね?」

「ふふ、全然誘われてくれないからそういう気分じゃないんだと思ってたけど?」

「必死で我慢してましたけど?」

「かわい……」


 くすくす笑いながら、私の首に腕を回して擦り寄ってくる。


 ベッドに降ろして組み敷けば、挑発するような表情をしている玲依ちゃん。

 私ばっかり余裕がなくて悔しい……早く余裕を崩して、その強い視線が快楽に歪むところが見たい。


「玲依ちゃん、好きだよ。大好き」

「うん。私も好き」

「夜ご飯はなにか買おう?」

「いいけど、何か食べたいものあるの?」

「きっと起きられないだろうから」

「……ん?」


 明日は休みだし、いいでしょ? 玲依ちゃんから誘ったんだよ?



 昨日は不覚にも攻められたけど、やっぱりこっち側だなって再確認。玲依ちゃんは受けの時はMだし相性バッチリだと思うんだよね。


「ゆぅー、のどかわいた」

「うん、待ってて」


「ゆぅー、腰いたい」

「うん、摩ってあげる」


「ゆぅー、ねむいけどお腹すいた」

「うん、なにか頼んでおくから少し寝な?」


 すっかり甘えん坊な玲依ちゃんが可愛いなぁ、好きだなぁってデレデレしていたら、私に抱きついてあっという間に寝息が聞こえてきた。


 こんな時間から寝ちゃったら夜眠れなくなっちゃうかな、って思うけど明日ものんびりだし、遅くまで起きていてもいいかもしれない。


 玲依ちゃんに抱きつかれたまま部屋を見渡せば、私の私物が色々と目に入る。

 週末は一緒に過ごすことが増えて、ここから出勤できるようにってスーツも置かせてもらっている。

 クローゼットに私用のスペースを作ってくれたから私服や部屋着を持ち込んだ。玲依ちゃんのお家に少しずつ私の物が増えていくのが嬉しい。


 枕元に置いていたスマホを引き寄せる。さて、玲依ちゃんが好きそうなご飯探ししようかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る