22.クリスマス(前)
玲依視点
12月24日、クリスマスイブ。時刻は22時半を過ぎたところだけれど、未だに会社にいる私。比較的落ち着いていて早く帰れそうかな、と思っていたのに、トラブル対応のフォローに追われて自分の仕事が手付かずでこんな時間になってしまった。
「みんなお疲れ様。もういい時間だけれど、帰れそう?」
「もう諦めて終わりにします……来週やる……」
「世間はクリスマスイブですよ!! 予定ないけど!!」
「カップルだらけの所に1人で飛び込む勇気ないんで予定ない方飲みに行きましょうよー」
「行こう!」
私の問いかけに、残っていた若手メンバーがわいわい話し出すのを見て、もう少し残っている仕事を終わらせよう、とPCに向き直る。
「良かったら係長もこの後如何ですか……?」
「ごめんね、もう少しかかりそうだから。皆で行ってきて」
「あ、はい……」
せっかくのお誘いだけれど、さっきスマホを見たら侑から返信が来ていた。遅くなりそうだから会えないかも、と連絡を入れておいたけれど、何時になってもいいから会いたい、って。可愛いな……
『もしもし? 玲依ちゃん、お疲れ様』
エレベーターを降りて侑に電話をかければ、すぐに出てくれて優しい声でお疲れ様、って言ってくれて癒される。
「侑、遅くなってごめんね。これから帰る」
『ううん、大丈夫。大変だったね』
「うん……こんな時間だけど、会う?」
『もちろん。玲依ちゃん、ストップ。後ろ見て?』
「後ろ?? ……侑!?」
会社を出て駅に向かって歩き出そうとすれば、後ろを見るように言われて、振り返れば侑が笑顔で手を振っていた。え、いつから居たの……?
「早く会いたくて来ちゃった」
「随分待ったでしょ……? こんなに冷えちゃって」
「玲依ちゃんの手あったかい」
頬に触れた手に手が添えられて、へへっと笑っている。
「あのね、帰り道とは反対なんだけど、イルミネーションが凄く綺麗な所があるみたいで……行ってみない?」
「え、行きたい」
「良かった。車こっちね」
侑の車に乗ると安心していつも寝ちゃいそうになるんだよね……寝ちゃいそう、じゃなくて実際何回も寝てるけど、侑も寝ていいよ、って言ってくれるから甘えちゃう……
「少し距離があるから、眠ってていいからね。はい、ブランケット」
「……ありがと。侑の匂いする」
「え……臭い??」
「好き」
「答えになってないよ……?」
侑だって仕事だったのに、疲れてるでしょって労ってくれて、甘やかすのが上手だなぁ……
「はい、到着ー」
「運転ありがとう」
「いいえ。そうだ。外出る前に、プレゼント」
「開けてもいい?」
頷いてくれたから開けてみれば、手袋が入っていた。
「わ、可愛い! ありがとう」
「通勤とかで使って貰えるかなって」
「早速来週から使うね。プレゼント置いてきちゃったから、帰ったら渡すね」
「うん」
外に出れば寒くて、早速侑がくれた手袋が活躍しそう。
「侑、はい」
「ん??」
右手用の手袋を渡せば、受け取ったものの不思議そう。
「左手貸して?」
「うん……っ!!」
「これでよし」
自分の左手に手袋をはめて侑の左手をぎゅっと握れば、びっくりしたようだったけど直ぐに笑顔になった。
「うわ、凄い……!」
「おー、投稿されてた写真も綺麗だったけど、やっぱり実際に見ると違うなー」
さすがクリスマスイブ、周りはカップルだらけ。中には同性同士もいるけど、私たちと同じだったりするのかな?
「調べてくれたの?」
「うん。玲依ちゃんと見たいなって」
綺麗だねってイルミネーションを見つめる侑の横顔が綺麗で思わず見惚れる。
「どうしたの?」
「んー、ギュッてしたいけど外だから……」
私の視線に気づいて、柔らかく微笑む侑が愛しくて早く帰りたくなるけれど、もう少し見ていたい気持ちもあって悩ましい……
「え、かわい……帰る?」
「ふふ」
「なんで笑うの……」
そわそわする侑が分かりやすくて思わず笑ってしまえば眉を下げて情けない顔。
「もう少し見ていこ」
「……分かった」
全く、可愛いなぁ。
「玲依ちゃん、お風呂後でもいい?」
家に着くなり、いい? って聞きながらも私の手を引いて寝室に歩き出す侑はお風呂に入らせてくれる気なんてきっと無い。
「玲依ちゃん、だめ?」
ベッドに座らされて、侑はベッドに膝をついて、押し倒す1歩手前の体勢でじっと見つめてくる。待てをしてるワンコかな?
「ぅわ!? 玲依ちゃん!?」
侑の首に手を回して後ろに倒れれば、私を潰さないように手をついた侑から慌てたような声がする。襲う気満々だったくせに慌てちゃって可愛い。
「……っ、玲依ちゃんが煽ったんだからね……」
触れるだけの口付けをして笑いかければ、直ぐにまた唇が重ねられた。
目が覚めればもう外は明るくて、侑にしっかり抱きしめられていた。恐る恐る顔に触れれば、嫌なベタつきはない。侑が落としてくれたんだな、ってホッとした。
「んー、れーちゃん、おはよぉ」
身動ぎしたからか起こしちゃったけどまだ眠そう。
「もう少し寝る?」
「ううん、おきるー」
「メイク落としてくれてありがとね」
「あ、いや……むしろごめんなさい……」
寝落ちしたのは私だけど、その原因を作ったのは侑な訳で。怒ってる? とばかりに様子を伺う姿が昨日とは別人すぎる。
「ゆーちゃん激しいからなー」
「なっ……だって、玲依ちゃんが誘うから……もっと、って言われたら止まんないって」
うん、まぁ、誘ったのは否定しない。
時間も遅めだし、夜ご飯はレストランを予約したから軽めにお昼ご飯を作って、嬉しそうに頬張る侑を眺める。ご飯を食べてる時の侑はいつも幸せそう。
「美味しい?」
「うん!!」
元気いっぱいで無邪気だなぁ。
「今日の夜なんだけど、予定変更してレストラン予約したから」
「わ、そうなの? ありがとう」
本当は作る予定にしていたけど、初めて一緒に過ごすクリスマスだし、侑と一緒に美味しいものを食べたいなって思って予定を変更した。
侑に似合いそうな服を見つけたから思わず買っちゃったし、着てもらおうと思ってる。プレゼントは別に用意してあるから、洋服は出かける前に着てってお願いしてみよう。
「侑、遅くなったけど、プレゼント」
「ありがとう!! 開けていい?」
「もちろん」
洗い物は侑がやってくれて、戻ってきて隣に座った侑にプレゼントを渡せば、キラキラした目で受け取ってくれた。
「わ、キーケースだ! 早速付け替えよ……ん? これ……」
「家の鍵。いつでも来て?」
「玲依ちゃん……」
「あ、泣いちゃう?」
「……っ、泣かないもん」
そう言いつつ涙声になっていて、ちょっとうるうるしてる。
この前鍵を渡したけど、私が帰った時にはいつも私が鍵を置いているところに戻してあったから、どこかのタイミングで渡そうと思っていた。
いつも駅まで迎えに来てくれるから使うことはあんまり無いかもしれないけど、喜んでくれたみたいで良かった。
「玲依ちゃん、ありがとう。大切にするね」
「うん」
「今度玲依ちゃんの帰り待っててもいい?」
「うん」
「ベッドいこ?」
「う……ん?? 行かないし」
「えー!!」
えー、じゃないって。侑に付き合ってたら体が持たないわ。
「ふふ、拗ねた」
「玲依ちゃん、襲われたくなかったらちょっと大人しくして」
「はーい」
ふくれっ面の侑が可愛くて頬をつついたり摘んだりしていたら手を取られて抱き締められた。
「侑に包まれてると安心する」
「……っ、だからっ、そういうとこっ……!!」
唸る侑が可愛くてたまにからかいたくなる。あんまりやりすぎると本当に襲われるから気をつけないとだけど、本気で嫌がればやめてくれるって分かってるから安心して甘えられる。
最近私が甘えてる事の方が多い気がするから、今日の夜は侑を甘やかそう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます