番外編

その後の2人(侑)

 連休モードの頭を何とか切り替えて、バタバタの1週間が終わった。年明けってなんでこんなに忙しいんだろ……来週からはもう少し落ち着くといいなぁ、と思いながら、電車を降りて自宅とは反対方向に歩き出す。


 玲依ちゃんも年明け早々出張に行ったりと相変わらず忙しかったみたいだし、週末はゆっくり過ごそうね、って伝えてある。


 貰った合鍵を使って玲依ちゃんの家に入れば、ふわっと玲依ちゃんの匂いがした。


 玲依ちゃんが実家から帰ってきたあとはずっと一緒にいられたのに、仕事が始まったら会えなくて、電車でも駅までの行き来も、会社内でも玲依ちゃんの姿を無意識に探していた。週末をずっと待ち望んでいたし、あと数時間もすれば会えるのに待ち遠しい。早く帰ってこないかな……


 こうして玲依ちゃんの帰りを待つのは2度目で、なんでも自由に使って、って言ってもらっているけれど、合鍵として貰ってからは初めてだからなんだか落ち着かない。


「よし、準備始めますかね!」


 気合を入れつつ、スーパーで買ってきた食材を持ってキッチンへ向かう。玲依ちゃん、喜んでくれるかな……



 もうすぐ着くから開けてね、と連絡が来てから少ししてインターホンが鳴った。玲依ちゃんも鍵を持っているはずなのに開けてもらおうとするところがなんだか可愛い。


「玲依ちゃん、おかえりなさい」

「ただいまー!!」

「ぅわ!?」


 ドアを開ければ、元気よく飛びついてきた玲依ちゃんを受け止める。危な……支えられてよかった。


「お疲れ様」

「侑もお疲れ様。待っててくれてありがとう」


 腕の中の玲依ちゃんを見れば、嬉しそうに笑っていて、毎日こうして待っていられたらどれだけ幸せなんだろう。


「遅くなってごめんね。お腹すいたでしょ。すぐご飯作るね」

「あ、えーっと……」

「ん?」


 リビングに歩き出す玲依ちゃんについて行きながら、照れくさくて言葉に詰まる。普通にご飯作ったよ、って言うだけなんだけどさ……


「え、これ、侑が??」

「……うん」

「えー、凄い!! 侑、凄い!!」

「へへっ」


 テーブルに並べられたご飯を見て目を輝かせる玲依ちゃんに、こんなに喜んでくれるならまた作ろう、と思う私は単純なのかな。


「手洗ってきて? 食べよ?」

「うん! すぐ行ってくる」


 ルンルンで手を洗いに行った玲依ちゃんを見送って、喜んでもらえたことにホッとした。



「美味しい。いつの間にこんなに作れるようになったの?」

「いつも玲依ちゃんに任せっきりだし、ちょっとずつ練習してて……スマホ片手になんとか」

「私のため?」

「……うん」

「ふふ、嬉しい」


 柔らかく微笑む玲依ちゃんが綺麗で、もっと色々作れるようになろう、と決意した。


 洗い物は玲依ちゃんがやってくれるっていうからソファに座ってテレビをつけたけれど、私の視線は玲依ちゃんに引き寄せられる。くっつきに行ったら邪魔だよなぁ、でも近くにいたいな、と葛藤中。


「侑? テレビいいのなかった?」


 視線を感じたのか、玲依ちゃんが不思議そうに首を傾げるけど、こっちを見てくれたことが嬉しい。


「んー、玲依ちゃんの近くに行きたいなぁって見てた。そっちいってもいい?」

「かわい。もう少し待ってね」


 だめかぁ。仕方ない、待つか……



「お待たせ」

「玲依ちゃん、ここ来て、ここ」

「……何もしない?」

「うん。しないから、お願い」


 警戒しつつもソファに深く腰かけた私の足の間に座ってくれた玲依ちゃんをぎゅっと抱きしめる。はぁ、幸せ……


「侑、くすぐったい」

「だって玲依ちゃんいい匂い」

「せめてお風呂入ってからにして欲しかったなぁ……」


 玲依ちゃんの諦めたような声は気にせずに、玲依ちゃんの首筋に顔をうずめた。



「あ、お風呂沸いたって。玲依ちゃん、好きにさせてくれてありがと」

「どういたしまして? 侑、先に入る?」

「ううん、玲依ちゃん先に入ってきて」

「侑ちゃん、一緒に入ろっか?」

「はい……ら、ない」

「ふふ、行ってきます」

「はい」


 なにあれ、可愛い。悪戯っぽく見上げられて物凄く揺らいだ。この前逆上せるまでしちゃったから、お風呂では手を出さないって決めたけど、一緒に入っちゃったら絶対誘惑に負ける自信がある。

 玲依ちゃんもそんな私の葛藤を分かってて誘ってくるからタチが悪い。

 最後に頭を撫でてお風呂場に行く玲依ちゃんをぼーっと見送った。お姉さんな玲依ちゃん、好き。



「出たよー。侑も入っておいで」


 玲依ちゃんの声に振り返れば、濡髪の玲依ちゃん。相変わらず色っぽい……ちょっとだけ触ったらだめかなぁ、だめか……


「……その前に、髪乾かそ?」

「侑ちゃんが入ってる間に乾かすから」

「え……」


 それはちょっと、落ち着かないって言うか……


「襲わないから、安心して?」

「ーっ!? 私の台詞だし!! 襲われるのは玲依ちゃんなんだからね!!」


 びっくりして、ちょっと返し方を間違えた気がする。玲依ちゃん笑ってるし……



「侑、先に寝室行ってるね。早く来てね?」


 洗い終えてぐでーっと湯船に浸かっていればドアが開いて玲依ちゃんが顔を出して、そんな一言。これは、お誘いってことでいいのかな? いいんだよね? ね??


「すぐ出る!!」

「ふふ、待ってる」


 あー、無理。可愛い……優しくできるかな……

 玲依ちゃん、最近なんだか更にMっ気が増したしな……うん、頑張ろ。



「玲依ちゃん、起きてる?」

「うん……もうちょっと遅かったら寝てたかも」

「うわ、危な……良かったぁ」


 スキンケアをしたり寝る準備に時間がかかって寝ちゃったんじゃないか、って心配だったけど起きててくれて良かった。玲依ちゃん、すぐ寝るからなぁ……


「玲依ちゃん、疲れてる?」

「ううん、大丈夫」

「いい?」

「うん……っ、ゆう……」


 返事をじっと待てば、照れたように笑った玲依ちゃんが頷いてくれたから、組み敷いて唇を重ねれば漏れる声に一気に身体が熱くなった。


「……は、いい声」

「恥ずかし……」

「もっと聞かせて」

「や……っ、ぁ……」


 あー、やばい。何度抱いても慣れる事なんてなくて一瞬で夢中にさせられる。きっと一生玲依ちゃんには敵わないんだろうな。そんな自分も嫌いじゃないけど。


「玲依ちゃん、可愛い。好きだよ」

「んっ……ゆ、う……すき……」


 潤んだ目で見つめられて、同じ思いを返してもらえて、心臓が痛いくらい高鳴る。

 キスをして、身体を下にずらそうとすれば首に腕が回されてグッと引き寄せられた。


「れいちゃ……」

「ゆー、もっとしたい」

「……っ、いくらでも」


 はぁ、かわいい。彼女が可愛すぎてつらい。

 先に進みたい気持ちと玲依ちゃんの望みを天秤にかけて、かわいいお強請りに即了承の返事を返した。


 まだまだ夜は長いし、玲依ちゃんが望むだけキスをしよう。

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