ご挨拶(高野家編①)
GWに入り、今回も侑が運転してくれて、実家まで車で帰ることになった。
「玲依ちゃんのお父さんってさ、どんな人?」
「母があんな感じだから……穏やかに見守ってるタイプかな」
「あー、玲依ちゃんのお母さん、元気だもんね」
母と姉に絡まれたことを思い出しているのか、ちょっと遠い目をしている。
侑は兄妹がいないし、実家に来たら騒がしくてびっくりするかもしれない。なにせ甥っ子が3人に姪っ子が2人も居るからな……
「お父さんは絡んでくることはないと思うから、安心して」
「うん……緊張する……」
「ちゃんとフォローするし、侑なら大丈夫」
「うん」
この前は顔面蒼白だったけど、今のところまだ大丈夫そうかな。
「玲依ちゃん、お昼どうする?」
「この先のサービスエリアとか?」
「ちょうどお昼時だし、結構待つと思うけど大丈夫?」
「うん。侑と一緒だし。侑は嫌?」
「ううん、嫌なわけない」
嬉しそうに笑う侑を可愛いなぁって眺めていたら、手で隠された。
「こら、ちゃんと両手で運転して?」
「だって、視線感じるんだもん」
「照れてるの? 可愛いね?」
「私は玲依ちゃんのこと見れないのに、ずるい!!」
「ふふ、助手席の特権」
「むう」
頬を膨らませて拗ねる侑は年下感満載で可愛らしい。
サービスエリアは予想通り混んでいて、座れそうになかったから売店を覗いたり、観光案内のパンフレットを見たりして席が空くのを待つ事にした。
「侑、前に行ったのってここの植物園?」
パンフレットに植物園が載っていて、侑が送ってくれた写真を思い出した。
「ん? いや、ここじゃなかったかな」
「あの時送ってくれた写真の花、綺麗だったな。見に行きたいけど、もう咲いてないよね?」
「アングレカム? 冬に咲く花だから、咲いてないだろうねぇ」
アングレカムって言うんだ。調べてみよ。
「ほんとだ。もう咲いてないみたい……ん?」
花言葉は"祈り"と"いつまでもあなたと一緒"……これ、侑は知ってて選んだの?
「どうしたの?」
「あのさ、アングレカムの花言葉って知ってる?」
「……シリマセン」
これは知ってるな。
「本当?」
「ホント」
目泳ぎすぎだし、棒読みすぎ……
「侑ちゃん、ちゃんと目を見て言ってみようか?」
「……あー、そろそろ席空いたんじゃないかな!? 行ってみよう?」
「ねぇ侑、ずっと一緒にいようね」
「……うん」
私の手を引いて歩き出す侑の耳は赤くなっていて、好きが溢れる。2人きりなら、思いっきり抱きしめるのに。
「玲依ちゃん、何食べたい? 買ってくるから、座って待ってて?」
「ありがとう。ラーメンにしようかな」
「分かった。行ってくるね」
空いている席に座って、並びに行ってくれた侑を見れば、後ろに並んでいる女の子達に話しかけられていて、遠目からでも面倒くさそうなのが伝わってくる。しかし、女の子達良くめげないな……
少しして、侑がスマホを取り出したと思ったらメッセージが入った。
【後ろに並んでる女子たち、勢いがすごい……彼女いるって言ってるのに……早く玲依ちゃんの所に戻りたい……】
文と共にしょんぼりした犬のスタンプが送られてきて、似すぎ、と笑ってしまった。
「おねーさん、ここ空いてる?」
「え?」
顔を上げれば、男の子2人組が隣の席を示して聞いてくる。荷物も置いてないし、空いてるんじゃ?
「空いてると思いますけど」
「ねぇねぇ、1人?」
「いえ」
なんで話しかけてくるかな……侑、早く戻ってこないかな……
「あ、お友達と?」
「この後良かったら俺らと「玲依ちゃん、ごめんね。遅くなっちゃった」
「侑」
テーブルにラーメンを置くと、ホッとした私に笑いかけて、隣の2人組の方を向いた。
「彼女に何か?」
声冷たっ!! 男の子、ビクッてなってるじゃん……
「いや、なんでもないっす」
もう1人の子なんて、ただ頷くだけになってるし……まぁ、この綺麗な顔には敵わないよねぇ。
「……そうですか。玲依ちゃん、どっちがいい?」
答えを聞くなり、興味をなくしたように私に向き直って席に座った。
「半分しよ?」
「え、可愛い」
「先にこっち食べていい?」
「もちろん」
目の前でニコニコしながら私のことを見る侑はさっきとはまるで別人。私の前では見せない表情もかっこいいな、なんて。
「玲依ちゃん、ソフトクリーム食べてもいい?」
ご飯を食べ終えて車に戻る途中、侑が足を止めた。じいっと見つめて許可を求めてくるけど、自由に食べていいのに。
「もちろんいいよ」
「やった!!」
ルンルンでソフトクリームを選ぶ侑に売り場の女の子が見とれてる気がするけど、見ちゃう気持ちも分かる。可愛いよね。
「はい、玲依ちゃんあーん」
車に戻って、自分で食べるより先にスプーンを差し出してくる。
「……うん、おいしい」
「ほんとだ。おいしい」
嬉しそうにソフトクリームを食べる侑の写真を撮って、食べさせたがる侑にあーんしてもらって、結局半分くらい私が食べた気がする。
「ねぇ玲依ちゃん、もうお兄さん来てるのかな?」
「どうかな? 車が停まってれば……あぁ、来てるわ」
庭に停まっているのは蓮兄の車で、千紗姉はまだみたいだった。私の返答を聞いて、侑の緊張が高まったのを感じた。
「蓮兄の車の隣に停めてもらえる?」
「うん、分かった」
「侑、平気?」
「すぅー、はぁー、うん、平気」
大きく深呼吸をして、車を降りて荷物をおろしてくれる。この前はここでバイバイだったけど、今日は一緒って言うのがなんだか嬉しい。
「玲依ちゃん、なんか嬉しそうだね?」
「うん。侑を紹介できて嬉しい」
「……うん」
荷物を持っていない方の手を引いて歩き出せば、ぎゅっと握り返された。蓮兄が暴走しないように、私がちゃんと侑を守らないと。
玄関を開ければ、なんだか靴が少ない。蓮兄達、出かけてるのかな……?
「侑、先に部屋に荷物置きに行く?」
「……ご挨拶先にしてもいい?」
「うん、いいけど……」
「今度こそ、ちゃんとするから」
「この前だってちゃんと挨拶してくれてたよ?」
「情けなかったなぁ、って。え、玲依ちゃん……!?」
へにゃ、と眉を下げる侑を安心させたくてぎゅっと抱きつけば、実家だからかいつもみたいに抱き締め返してくれずに戸惑っている気配がする。
「そのままの侑でいいから」
「……うん」
はにかむ侑が可愛すぎる……
紹介だけして、部屋で思いっきり甘やかそう。
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