12.飲み会

 玲依視点


 珍しく早く仕事が終わりそうで、何か食べて帰ろうかな、と思っていたら朱音からチャットが届いた。

 開けば朱音と弥生も早く上がれるらしく、飲みのお誘いだったから了承の返事を送る。

 2人には月曜日のお昼に侑のことは話していて、近いうちに飲みに行こうね、と話をしていたからちょうどいい。


 先に会社前で待っていた2人と合流すれば、すぐ近くの居酒屋に行こう、という話になっていたらしい。そこって今侑がいるお店じゃん……


「今日は別の所にしない?」

「いつもどこでもいいって言うのに珍しい」

「怪しいな〜今日って山崎さんは仕事遅いの?」

「ううん。侑も同期と飲んでて……」


 そう言った瞬間、2人がニヤリと笑って、お店の変更はなしだな、と悟った。


「山崎さんがそこに居るんだ?」

「よし、会いに行こう!」

「待って、待って!? 確認するから!」


 歩き出す2人を引き止めて侑に電話をかける。突然行ったら同期の子だってびっくりするだろうし……確認すれば、すんなりOKしてくれた。


「いいって」

「やった!」

「楽しみー!」


 合流してみれば、侑の同期の子はたまに見かけていた子で、朱音の後輩だったらしい。


「玲依ちゃん、何飲む?」

「ビールかな。朱音と弥生もビールでいい?」

「「うん」」


 侑が店員さんを呼んでくれて、サッと注文を済ませてくれる。テーブルの上の料理を見れば、お肉系が多い。


「お肉系は侑が選んだ?」

「うん。生姜焼き、美味しいけど玲依ちゃんが作ってくれた方が美味しいよ」

「今度は侑が作ってみる?」

「えぇ……味付けは玲依ちゃんやって?」


 甘えた感じの侑が可愛いなぁって見ていたら、その様子を前に座る3人から物凄く見られてる……


「……2人とも注文決まった?」

「まだ全然。そんなに近づいちゃって、早速見せつけてくれるねー?」

「山崎さん……あ、侑ちゃんでいい? 私も朱音でいいから。オフだと雰囲気変わるね」


 朱音から名前呼びの許可を求められた侑が頷いている。


「朱音さん、いつもの侑はこんなにでれっでれじゃないです……」

「あ、そうなの?」

「はい。あんな甘えた感じの侑見たことないです。誰? って感じですよ」


 結構甘えてくるけど、同期の前ではこんな感じじゃないんだ……それは嬉しいかも。



「ねぇ、マンネリ解消には何がいいと思う?」

「……いきなり!?」


 いい感じに酔ってきた頃に、朱音が夜の話をぶっ込んできた。まぁ、女子会でお酒が入ると定番だけどさ……


「やっぱりここはネットに頼ろう! お、何何……ほぉー」

「何かいいのあった?」

「ラブグッズ、だって。これなんか可愛いよ」

「お、ほんとだ」


 弥生が面白がって検索し始めて、2人で盛り上がっている。


「奈央ちゃんも見る?」

「えっ……じゃあちょっとだけ」

「玲依と侑ちゃんもこっち来る?」

「私はいいわ」

「……私もいいです」


奈央ちゃんは恥ずかしがりつつも一緒になって見ているし、侑はちょっと間があったけど興味あるのかな? もし興味があったとしても使わないからね? 無くても充分すぎるし……

 この前の侑を思い出して恥ずかしくなって、届いたばかりのビールを一気に飲み干した。次は日本酒にしよ。



「で、2人はどうなの?」

「付き合って1週間とかでしょ? そりゃラブラブだよねぇ?」


 朱音と弥生がニヤニヤしながら聞いてきて、奈央ちゃんはまだ何も言っていないのにキャーキャー恥ずかしがっている。


「まぁね。ね? ゆう?」


 じっと見つめれば、照れたように頷く侑が可愛い。

 今はこんなに可愛いのに、侑の攻め、容赦なかったな……

 侑が満足するか、私の体力が尽きるか、って感じで私がダウンしたもん……侑も女の子だからよく分かるのか、ずっと気持ちよかったし。むしろ良すぎた。

 沢山シたのにまだ物足りなさそうだったし、歳下の恋人を持つと夜が大変なんだね……


「で、そんなラブラブな2人は夜の方は?」

「侑ちゃん、もう手出しちゃった? あ、それか出されちゃった方?」

「言いませんよ!」


弄られる侑を見ながら、2杯目の日本酒に手をつける。うん、これも美味しい。


「玲依ちゃん助けてー! ……玲依ちゃん、それ何杯目??」


 侑が私を見て目を見開いたけれど、なんだかふわふわするし、眠くなってきたな……


「んー? 2杯目?」

「日本酒頼んだ人ー?」

「あ、私ー」

「え? いつから日本酒??」

「ねー玲依、侑ちゃんが教えてくれないんだけどさ、夜の方って順調?」

「順調ー」

「うわっ!? ちょっと玲依ちゃん!! 言っちゃうの!?」

「お、ダメ元だったんだけど。侑ちゃん優しそうだよね」


 弥生が面白そうに私と侑を見ながら言ってくるけど、侑は容赦ないよ……無理って言ってもやめてくれなかったし、絶対ドS。


「ゆーちゃんはね、どえす。それにへんたい」

「待って!? 待って!! 玲依ちゃんダメだって!!」


 侑が必死に止めてくるけれど、なんか変なこと言った? 本当のことしか言ってないよね??


「弥生さん、朱音さん、玲依ちゃんって酔うといつもこんな感じですか!?」

「侑ちゃんがいるから気が抜けたのかな。こんな玲依初めて見たから安心して」

「それは安心しましたけど、今はとても安心できません……」

「今の玲依ならなんでも喋ってくれそうじゃん」

「朱音さん、勘弁してくださいよ……」

「侑がドSで変態って……ぶふっ……あんなに冷めてた侑が、ねぇ?」

「奈央、ニヤニヤするのやめて」


 侑と3人の会話をぼーっと聞きながら、横になった瞬間寝れそうだな、なんて考えていた。


「玲依ちゃん、もしかして眠い?」

「うん」

「来る?」


 膝を示して呼んでくれたから嬉しくなって抱きつけば、あやすように背中をポンポンしてくる。それも嬉しいけど……


「ぎゅーは?」

「ん。玲依ちゃん、ちょっと飲みすぎたね」


 ギュッと抱きしめられて、侑の優しい声に誘われるように目を閉じた。



「玲依ちゃん、起きた?」

「うん? 寝てた??」

「よく寝てたよ」

「え、ごめん。飲みすぎた……」


 どれくらい寝てたんだろう? 飲みすぎて寝ちゃうなんて家以外では初めてかも。しかもいつの間にか膝枕になってる……


「頭痛とか吐き気は?」

「大丈夫。なんで膝枕……?」

「玲依ちゃんが自分で体勢変えてたよ?」


 うわ……見上げれば、頭を撫でながら優しく見つめてくれている侑と目が合った。


「重かったでしょ、ごめん」

「全然。玲依ちゃん小さくて軽いから」

「そんなに小さくないし。154、5? くらいあるし」

「かわい……」

「もう少し欲しかった……」

「ちょうどいいサイズ感だよ?」


 侑がそう言ってくれるならまぁいいか。そろそろ重いよね、と身体を起こせば、楽しそうにこっちを見ていた朱音と目が合った。


「げ」

「げ、って何? 私たちのこと忘れてた?」

「玲依も甘えることあるんだね」

「玲依さんも侑も、ギャップが凄い……!!」


 うわ、最悪……かなり侑に甘えた気がする。侑が嫌がってないことが救いだわ。嫌がられたら立ち直れそうにない。


「あー、私どれくらい寝てた?」

「30分くらいじゃん?」

「侑ちゃんと色々話したよ」

「え? 色々って何!?」


 弥生と朱音が顔を見合わせて笑ってるし、絶対余計なこと話してるでしょ。なんで寝ちゃったんだろ……


「侑、何話したの?」

「ぇ……」


 照れ笑いを浮かべてるけど、侑が照れるようなことって何??


「玲依さん、侑の事よろしくお願いします!」

「あ、はい……」


 奈央ちゃんに聞こうかな、と目を合わせれば侑のことをお願いされた。どういうこと??


「玲依も起きたし、そろそろお開きにしようか」

「もしかして待ってくれてた? ごめん」

「いや、全然。玲依が寝てる間も楽しかったし」


 私が寝ていた間の会話が気になりすぎる……侑から聞き出そう。


 お会計は私と朱音と弥生の3人で割ろうと話していたけれど、侑と奈央ちゃんも払うと譲らないから少なめに貰って支払いを済ませた。



「玲依、侑ちゃんっていい子だね」

「え? うん。いい子だけど……? 突然何??」


 私が寝てる間に侑と話した内容が関係してるの??


「元彼と一緒にいる時の玲依はさ、背伸びしてたっていうかいい子でいようと我慢してた感じがしたけど、侑ちゃんと居ると安心してるのが分かる。あんなに素直に甘えられるタイプだと思わなかったし?」

「……忘れて」

「まぁまぁ、いい傾向じゃない? でさ、侑ちゃんから、玲依と出会うまでかなり遊んでたって聞いちゃった」

「え?」


 侑、自分から話したんだ……


「最初は全然関係ない話してたんだけど。侑ちゃんモテるよね、って話になって。奈央ちゃんがポロッと玲依との初対面は修羅場の後だって言ったのを私が拾っちゃって、聞いたら話してくれた。玲依と出会う前までは最低なやつだったけど、玲依が全てを変えてくれて、毎日幸せだって。過去のことで傷つけちゃったり、同性だし歳下で大変な思いをさせちゃうかもしれないけど、玲依を誰よりも幸せにしたい、って。これはよく分からないんだけど、玲依が好きって言ってくれたから鏡を見るのが苦痛じゃなくなってきた、とも言ってたよ。後は侑ちゃんから聞いて」


 朱音から侑の想いを聞いて、涙が溢れそうになる。朱音が後ろを歩いていた侑を呼べば、私の顔を見て、慌てて走ってきて抱きしめてくれた。


「じゃあ、また。侑ちゃん、玲依をよろしくね」

「おつかれー。あとは2人でごゆっくりー!」

「お疲れ様でした!」

「朱音さん、弥生さん今日はありがとうございました。奈央もありがとう」


 3人を見送って、耐えきれなくて涙が溢れれば侑が背中をさすってくれる。


「玲依ちゃん、もしかして聞いた……?」

「聞いた」

「うわ、恥ず……重いよね? 引いた?」

「ううん。嬉しい。私だって侑を幸せにする」

「もう幸せ」


 顔を上げれば、幸せそうに笑う侑に見つめられてますます涙が溢れる。


「あぁ、泣かないで?? 泣いてても可愛いけど、笑ってる玲依ちゃんが見たいな」

「絶対可愛くない……」

「可愛いよ。泣くなら、ベッドでいっぱい啼いて?」

「変態っ」

「あはは、泣き止んだ」


 まだ付き合ったばかりで全部は知らないけど、こんなに好きが溢れていて。これから色んな侑を知ってもっと好きになっていくんだろうな。

 いっぱい甘えさせてあげたいけど、今は無性に侑に甘えたい。

 歳上だからしっかりしなきゃって思ってたけど、自分が思っていたより嫉妬深いし、面倒臭いと思うけど侑なら受け入れてくれる気がする。早く家に帰りたいな。

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