16.プレゼント

 玲依視点


 早く侑とゆっくりしたくて、濡れた髪のまま侑の元に戻れば、手を引かれて脱衣所に戻された。

 優しく髪を乾かしてくれる手つきにうっとりしていたら、誕生日を迎えた瞬間にキスをされてキュンとした。


 リビングに誘導されて、買っておいてくれたケーキはフルーツタルトで、夜遅いからって気を遣ってくれたことが分かって侑の優しさが嬉しい。


 照れながらもバースデーソングを歌ってくれて、ロウソクの火をつけてくれて、侑の新たな一面が見られて嬉しいし、侑ってこういうことやってくれるタイプなんだって知った。冷静を装ってるけど、内心照れてるんだろうなぁ。


 侑がタルトを口に運んだタイミングで口付ければ、驚いている侑は無抵抗で、舌を絡めれば甘い味が広がった。普段は攻められっぱなしだからなんだか楽しくなって、存分に堪能したのだけれど、調子に乗ると後が大変だぞ、とさっきの私に教えてあげたい。


 余裕のない表情が愛おしくて、ソファで抱かれることを受け入れたのは私だけれど、ベッドに運んでもらえばよかった……侑は煽っちゃいけないってことを身をもって理解しました……



「はい、歯ブラシ」

「ありがと……眠い」

「玲依ちゃん、かわいー」


 スイッチが入ってしまった侑に攻められて、ぐったりする私とは正反対に侑は元気いっぱい。抱っこで運ばれて、歯磨き粉を付けた歯ブラシを渡してくれて、嬉々として世話をしてくれる。


「はい、お水」

「うん……」

「あぁ、玲依ちゃん、零してる」

「うん……」


 だめだ、眠すぎる……さっきの疲れもあって、立ったまま寝れそう……


「玲依ちゃん、歩ける?」

「むり、寝る……」

「え、立ったまま!? 玲依ちゃん、おいで」


 侑が屈んでくれたから首に手を回せば軽々抱き上げてくれる。細身だけど意外と力あるんだよね。

 心地よい揺れに意識を手放しそうになった時にゆっくりベッドに降ろされた。


「玲依ちゃん、おやすみ。無理させてごめんね」


 侑の優しい声が聞こえたけれど、意識が遠のいていった。



 寝たのは多分遅い時間だったと思うけれど、いつも通りに目が覚めた。隣を見れば、侑はまだ気持ちよさそうに眠っていて、あどけない寝顔が可愛らしい。


「ゆう?」

「んぅ……さむ……れーちゃん……」


 起きようと布団を捲れば、寒かったのか侑が抱きついてきて、しばらくもぞもぞしていたけれど、最終的には私の胸に顔を埋めて落ち着いたらしい。無意識でもブレない侑がなんだか面白い。本当に好きなんだなぁ……胸。

 幸せそうな侑が可愛いし、今日は急ぎの仕事もないから少し遅めに行こうかな。


 侑の寝顔を見ていたらうとうとしてしまっていたけれど、さすがにそろそろ起きないと。

 そっと侑の腕を解いて起き上がれば、枕元にラッピングされた箱が置いてあることに気がついた。もしかしたら寝る時にもあったのかな? それなら気づかなくて悪いことしたな……


 包みを開ける音で侑が起きちゃうかも、と思ったけれど早く開けたい気持ちが抑えきれなくて開ければ、侑がトラガスにつけているピアスと同じデザインのネックレスが入っていた。


 私が好きだって言ったから用意してくれたんだ……ちょっとだけならいいよね?


「んー……れーちゃん?」

「あ、起きちゃった? ごめんね。おはよ」

「おはよー。ううん、キスで起きられるなんて幸せー。それに幸せな夢見たー」

「夢?」


 寝起きでふにゃっとした侑の間延びした口調が物凄く可愛い。母性本能がくすぐられてキュンキュンする。


「うん。玲依ちゃんのおっぱいに埋もれる夢ー」


 夢の中でも埋もれてたらしい。どれだけ好きなんだ……


「侑、それ夢の中だけじゃない」

「夢の中だけじゃない……?? ぇ、嘘だ……」


 夢を思い出してニヤニヤしていた侑が私の言葉を理解して、一気に落ち込んだ。


「嘘ついてどうするの」

「玲依ちゃん、もう1回!!」

「だめ。もう起きるよ」

「ぇーやだー」


 まだ侑は眠そうだし、抱き枕にされたら私も眠くなっちゃうし。侑は駄々っ子になってるけど。


 そうそう、起きる前に、ネックレスのお礼を伝えないとね。


「侑、ネックレスありがとね」

「あ、うん。気に入ってくれた……? 玲依ちゃん、お揃いとか嫌じゃない?」


 横になったまま、不安そうに見上げてくる。へにゃ、と眉が下がっちゃって可愛らしい。


「嫌じゃないよ。嬉しい」

「良かったぁ」


 安心したように笑って、ぎゅっと手を握ってくる侑が愛しい。


「本当は直接渡そうと思ったんだけど、反応が怖くて渡せなくて……玲依ちゃんが寝た後に枕元に置いておくので精一杯だった」


 私が寝た後に枕元にこっそり置く侑を想像しただけで可愛い。置くのにも時間かかってそうだな、と思うと寝ちゃったのが勿体なかったな。


「侑ちゃん、可愛いねー?」

「またそうやって子供扱いする……」


 頭をわしゃわしゃ撫でれば、むぅっと口をとがらせたけれど、私の手を振り払うことはなく受け入れてくれている。


「撫でられるの嫌い?」

「……嫌いじゃない」

「ふふ、可愛い」


 大人しく頭を撫でられている侑は歳下感満載で愛でたくなる。こんな侑はきっと私しか知らないだろうし、誰にも見せないで欲しい。


「侑、つけてくれる?」

「えっ、いいの? うん……」


 ネックレスを渡して、髪の毛を持ち上げて後ろを向けば、侑が起き上がった気配がした。しばらく待ってみたけれど、侑がなかなか動かない。


「ゆう?」

「れーちゃん、慣れてる……」

「え??」


 慣れてる? 何が?? 振り向けば、膨れっ面の侑の姿。なんか拗ねてる……


「ちょ……ゆうっ、んっ」


 お腹に手を回されて、侑の唇が首筋に触れる。まさかその気になっちゃった……?


「玲依ちゃん、今までの彼氏にもこうやって甘えてた?」

「は!?」


 今までの彼氏……? どっちかというと甘えるのってそんなに得意なほうじゃ無かったんだけどね。歳上だったし、必死に背伸びをしていた気がする。


「もう、私だけだよね?」

「もちろん」


 どっちかというと私の方が不安になるような気がするけどね? ちゃんと信じてるけど。

 不安そうな侑に唇を寄せれば、照れたように笑って抱きしめてくれた。



「さ、準備しよっ」

「はーい」


 すっかり機嫌も治って、てきぱき準備を進めている侑はたまに私の胸元に揺れるネックレスを見てはニヤニヤしている。気づいてないと思ってるのかな? 可愛い。


 時間もそんなにないし、朝ごはんは簡単に済ませよう。ケーキもあるし。


「侑、ケーキ食べる?」

「食べる!」

「トーストは?」

「食べる!」

「おっけー」

「玲依ちゃん、何か出来ることある?」

「じゃあ、ケーキ出してもらえる?」

「うん」


 キッチンをうろうろする侑に仕事を与えて、手早く朝ごはんの用意をする。

 1人のときはほとんど食べないけれど、侑がいるとちゃんと食べようって思える。何より、美味しいって食べてくれる笑顔を見るのが幸せ。


「玲依ちゃんのご飯、本当に美味しい」

「具材のせて焼いただけだよ?」

「そっか。玲依ちゃんと一緒に食べるから美味しいんだ。玲依ちゃんのお誕生日に一緒に居られて幸せ」


 不意打ちやめて……素直すぎてドキドキする。

 侑は真っ直ぐ好意を伝えてくれるから、私もちゃんと言葉にしないとなって思う。


「私も侑と過ごせて幸せ」

「へへ、嬉しい」


 照れくさそうに笑う侑が可愛い。ちゃんと伝えてよかったな。


「今週末もまたお祝いさせてね」

「もうしてもらったからいいのに」

「だーめ!!  いっぱい愛してあげる」

「え……」


 ニヤリ、と笑う侑に嫌な予感しかしない。ベッドで、って事じゃないよね? これは聞いちゃいけない気がする……

 週末、無事に乗り切れるのかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る